2-11 なんで、夕闇が女装してんの?
一度書き上げた後、前の話と設定が違うことに気づいて書き直したら時間がかかりました
M(_ _)M
「理解出来たようだな」
徽章鑑を見せられた薬師が固まり、顔を青くしていた。自分が何者を相手に喧嘩を売ったのか、どうやら理解出来たらしい。
「できたなら、物資を置いて疾く、帰れ。不問にしてやる」
仕入れ値だけでもと震えながら薬師が懇願を始めた。まあ確かに、街中で買えば、そこそこの値はするだろう。しかし、そんなことを考慮する必要はない。
「なら、薬草もそのまま持ち帰れ。領主への報告は不要だ。必要分は確保してあるし、余裕もある。この時節だ、町中で病が出たら、買い占めたお前に矛先が向くぞ?」
再度売り払えば買い叩かれるし、といって抱え込めば不良在庫だし、領主お抱えとなるとその購入費用は領主の懐からだろうから、何れにしてもお咎めがある。相場で砦の備蓄と出来ないこともないのだが、完治までの必要量とその後の備蓄という意味では既に十分な量を採って来たせいか、隊長殿も助け船を出す様子はない。
着いてきた弟子のほうが状況を飲み込むのが早く、ぺこぺこと頭を下げながら薬師を引っ張っていく。じれたらしい御者が手を出していたので、誰も助けようとはしなかった。
「…で、どうすんだ?」
言外に警告を滲ませて、隊長殿が問いかける。
「残るさ。まだ完治はほど遠いしな。……ま、半数が回復するくらいまでは、雑用でもしてやろう」
「──すまん、恩に着る」
それから数日、視察で使われる──ただしこの数年一度も使われたことがないという部屋をあてがわれて、一行は雑用に勤しんだ。
イーリスが披露した洗濯術を夕闇が覚え、こちらは更に術を組み替えて、野菜洗いと皮むきに応用していた。イーリス曰く「どうしてあの術から皮むきが組めるのか、理解出来ない」ということだったが。夕闇は「くるくる回るところに、刃を当ててるだけですよ?」と、それ以上は解説しようとしなかった。
なお、アヴィは夕闇が眠ってから夜半まで、文字の詰め込み教育だ。そのおかげで、隊長殿から見せられた封筒──封蝋が施された領主からの招待状を読むことが出来るようになっていた。
「……えっと…晩餐会への招待状、だよな?」
「ああ。…ま、旅券の発行も頼みたいし、いい機会だな」
そういう割には有り難がっていないことが一目でわかる、イーリスである。
「えっと…何か、問題が?」
「辺境公だとは思ってなくてな」
面倒だと、イーリスは溜息を吐く。そしてふと、アヴィを見た。
「わかるか、”辺境公”って?」
「――」
返答はない。ただアヴィの表情を見るに、自分の知識に問いかけてはいたようだ。
「”辺境伯”は?」
「――”辺境伯”。一般に国防上の重要拠点となり得る国境地帯を治める者に与えられる伯爵位。情勢に寄って重要拠点が変わることもあり、軍術に長けた者に一代限りで叙爵されることもある」
それだけ答えて、アヴィは首を傾げた。
「……重要拠点? 国防上の?」
この地は確かに国境地帯だ。しかし、”国防”という観念で見たときに重要拠点であると言われても、納得し難い。
何しろ、隣接する地域は砂漠で、その向こうは魔物が棲む森、それを治めるのは妖皇であり、住人は――妖魔である。あちらにその気があれば一瞬で蹴散らされるし、むしろ自分であれば、打つ手なしということで放置したい領域だと思ってしまうのだが。
「その通りだ。…まあ、要は軍事に長けた王族を封じた姥捨て山じゃないかと、思うわけだが」
「え、王族って、なんで?」
「公爵だからだが?」
「え? え、え?」
疑問符を飛ばしまくるアヴィに、少し悩んでからイーリスが問いかけた。
「”公爵”の意味はわかるか?」
「――”公爵”。一般に王族の血を引くものに与えられる爵位。王家を離れた場合や、何らかの功績を立てることで叙勲される」
「ま、そういうことだ」
「だから説明する手間を惜しむなって、前にも言ったよな、俺!?」
要は、本来は伯爵位であるはずなのに、公爵位であることから、軍事に長けた王族であろうと予想を付けたのだ。つまり、これから会おうとする相手は王族である。
それを理解してからイーリスの様子を窺えば、……何のことはない、めんどくさいと顔に書いてあった。
「……駄目元で聞くけど、逃げるってのは?」
「…一瞬は考えたが、ないな。招待状に書いてあるだろう、祭りがあるんだ」
「祭りって…えと、雪呼祭…これ?」
「ああ。……いつまででも滞在していいようだし。ま、それを棒に振るほど嫌ではないな」
指輪の中で苦笑している夕闇に依存はなく、アヴィはそもそもがイーリス任せにするつもりでいるので反対もせず、とりあえずは祭りが終わるまでの滞在ということで話が決まった。
隣室で返事を待っていた従者殿は、それを聞いて大役を果たしたというような面持ちで安堵した様子を見せる。年若いことから、まだ仕官して間もないのかもしれないが、もう少し、慣れがいるだろうと思いつつ、確認を取る。
「従者を同行させるが、問題は?」
招待状には人数が書かれておらず、自分だけと言われれば断るつもりで聞いてみる。
「ございません。席も設えますし、部屋も用意させていただきます」
普通ならば招待状に書くのだがなどと思いつつ、イーリスは頷いた。
「では謹んで、招待をお受けしよう。…いつまでに着けばいい?」
「出来るだけ早く。出来ましたら明日、私が御者を努めます馬車をお使いください」
「……それであれか」
合点が行ったと隊長殿が呟いた。辺境伯の紋章入りの馬車が、護衛の騎士を数人付けてやってきたときは、かなり焦っていた。まさか、辺境公本人が来たのか、と。
「旨煮が食えなくなっちまうなぁ……」
「……材料と作り方は残しておこう」
笑いながらイーリスは約束した。水から野菜を煮込み、牛酪で小麦を炒めたものと牛乳を後から入れて煮なおすだけなのだが…これがまた、ずいぶんと受けていた。霙鍋のほうはそこまででもなくて、発案した夕闇は寂しそうだったが。
* * *
「ところでさ、疑問なんだけど」
「ん?」
翌朝早く、馬車の中での一幕である。
「なんで、夕闇が女装してんの?」
昨夜、夕闇の宿る指輪をイーリスが持って行ったことは覚えているが、まさか今朝になって女装させられているとは思っていなかった。しかも、馬車に乗るまで質問を禁じられるというおまけつきだ。
「女装じゃありませんよ」
ぷくっと膨れて見せる夕闇が、アヴィの手を取った。それをそのまま、自分の胸に押し当てる。
「おわっ!? や、やわらかっ!?」
「ね、ちゃんと柔らかいでしょう」
慌てて手を引き抜くアヴィに、意味深な笑顔を向ける。
「イーリス…何かやった?」
「……まあ、少しな」
「少しも何も、この身体を構築したの、イーリスさまですよ。そろそろ、理由をお聞かせいただきたいのですけれど?」
心なしか、声や口調も女性に近づいている。イーリスも女性になっていたし、これが妖魔の特性だとすると自分も女になれるのだろうかと、ちょっとだけ考える。
「無理ですからね」
「夕闇はまだ不安定だから出来るんだよ。お前がやるなら、本気で女装だな」
それを想像したのか、夕闇がぷふと噴出した。あっさりと読まれたアヴィはふくれっ面だ。
「私としては思った以上の美女になってくれて、万々歳だ」
イーリスは至極真面目にそう答えたが、今度はアヴィが噴き出した。
そう、今の夕闇は女性である。それも、妙齢の美女だ。
いろいろとやったおかげで、アヴィの魔力は、垂れ流しではなく、漏れ出した程度に制御されるようになった。しかし、逆にそのせいで夕闇が現界するだけの余剰がなくなり、本来であれば当分の間、核に戻るべき状態である。そこへイーリスが魔力を追加して身体を作り上げたのだが……女性型であった。
性別については特に気にしていないが、二人が旅装であるのに自分だけ、なぜかドレス姿であることに納得がいかない夕闇である。しかも、自分で作り直そうとしてもイーリスの魔力のせいか、作り直しが効かないのだ。
「はぐらかさないで下さいね? 正装は鬱陶しいんですよ?」
矯正までは再現されていないので、まだマシなほうではあるが、まあ、重ね着は重いのである。しかし、睨む仕草も、どちらかと言えば拗ねているようにしか見えず、アヴィはちょっぴり和んでいた。
「なんだ、そっちか」
「…正直なところを言うなら、そもそも現界する必要も感じませんが」
頻繁に入れ替わったせいか、いつの間にか指輪の状態でも思念を届けることは出来るようになっていた。現界していると思念を届けることが出来ないので、はっきりと口にしなければならず、夕闇としてはそのほうが面倒だということらしい。
イーリスは夕闇を見て、アヴィを見て…軽い溜息を尽き、くいくいと夕闇を招く。
「……イーリスさま?」
隣を示す彼に困惑しつつ、アヴィも訝しげな顔をするが止める様子はないので、招きに従って席を移った。クッションをいいように使えと言う指示で更に困惑しつつ、座り心地のいいように座席を整える。
「一言で言うなら、女避けだ」
「……へ?」
「ってイーリスさまっ!?」
ごろん、と夕闇の膝に頭を乗せる。…まあ、平たく言うなら膝枕である。
「根っからの商売女ならまだ話はつくんだが……下手に身内の未婚者をあてがわれると、面倒でな」
女除け。未婚者。そこから連想されるのは、当然のようにそういう相手だが。
「隊長さんのお話では、そういう人間には聞こえませんでしたけど?」
「本人の資質じゃないんだ。宿だって領主が指示する訳じゃあるまい?」
「……」
イーリスの言わんとすることを察し、夕闇は口を噤んだ。つまり、この膝枕もその一環なわけで…代わりに、アヴィが口を挟む。
「……えっとー…あるの?」
「行く先々でな。十にも満たない子供をあてがわれたときはどうしようかと思ったぞ」
「━━下衆にも程がありますね」
ぞくりとした悪寒が、アヴィの背を走り抜けた。夕闇は気づいていないようだが、実はイーリスも、同じ寒気を味わっている。
「どうしたんです、そのときは?」
ただですませたとか言ったら何が起きるだろうと、二人の内心は恐怖で一致した。幸い、イーリスはそんなことを許せる性質ではない。
「領主をすげ替えて親元へ帰した。…外遊官をなんだと思ったんだろうな」
「え、なにそれ、人攫いってこと?」
「いや、行儀見習いを兼ねての奉公に来ていたそうだ。娘の友人も兼ねてな」
アヴィは困惑顔だったが、別に珍しいことではない。行儀作法のほか、文字の読み書きなども教われる上に衣食住が保証されるため、都会から離れた農村などでは人気の職業である。まあ、この結末を見る限り、一概に幸せとは言えない場合もあるようだが。
「そうなると、その娘御が可哀想ですね。どうしたんです?」
「たしか、近隣の領主の養女にしたんだったかな。領地を付けるから育てろと。誓約が発動した気配はなかったから、ま、そこそこの暮らしは出来たんだろう」
もう少し詳しくと二人は思うが、何せそれは百年以上も前のことなので、イーリス自身の記憶が曖昧だった。この話自体も、領主との面会という一言から連鎖的に思い出しただけの記憶なのだ。
「…悪い、少し寝る。誰かが覗き込むまで起こすなよ」
「……覗き込むまで、ですね。承知しました」
そこまでやるかとアヴィは苦笑し、しかし、そうでなければわざわざ膝枕をさせた意味がないと思い直す。つまりはまあ、そういうことだ。
ほどなくして完全に眠り込んだイーリスを挟み、二人はこそこそと言葉を交わした。
「…あれ、本気で寝てる?」
「だと思いますよ。今朝も洗濯、してましたし」
洗濯自体の疲労ではなくて、術を連続で、しかも本来扱える魔力を遙かに越えて行使したのが原因だろうと夕闇は見ている。本来なら魔力が切れるから、嫌でも休息をとる。しかし、アヴィという魔力の元がいるが故に魔力切れが起きず、疲労が蓄積したというところだろう。
「……魔王様ねぇ」
突っつきたいと言う誘惑に抗いながら、アヴィは呟く。
「元、ですけどね」
楽しげにその髪を梳きながら、夕闇が応える。恋人の髪を梳いているように見えなくもないが…、楽しげに悪戯を仕掛けているようにしか見えなかった。
「さっきの話さ」
アヴィの言葉に夕闇が視線を上げて、その視線が交差する。
「何もわかりませんよ? 言ったでしょう、わたしにあるのはあくまで”知識”なんです」
「あ、読まれた」
その程度は読めるでしょうと夕闇は笑う。予想はしていなかったが、まあ読まれても不思議はないかとアヴィは外を見る…ふりをした。実のところ、聞きたかったことはそれではない。
「夕闇ってさ。…女が本性?」
「…さぁ、どうでしょうね?」
首を傾げる仕草は、けっこう似合っている。アヴィがかなり慎重に言葉を選んでいたからか、それを察した夕闇の答えは厳しくはない。
「女でいいと思うけどな。すごくしっくりくるし」
「わたしとしても忌避感はないんですが…確証もありませんし。それに……」
ほんの少しの身動ぎでわさわさと音を立てる衣服に、うんざりした顔で。
「ドレスって、鬱陶しいんですよ……」
補正こそされていないが、スカート部分は四枚ほどの重ね着になっている。しかもそれが足下ぎりぎりまで来ているから、歩きにくいことこの上ない状態だと夕闇は嘆く。……実際、馬車に乗り込むときは苦労していて、見かねたイーリスが抱き上げて連れ込むという一幕があった。いや、ことによるとそれも、演技かもしれないが。
「……うん、おれ、男でよかったなって思ってる」
裏切り者、と夕闇が睨み、アヴィはその視線を避けるかのように一瞬、視線を逸らす。
「…けど夕闇なら、ドレスより男装の麗人とか似合いそうだよな」
「……褒め言葉ですか、それ?」
「いやー、……素直な感想?」
「……検討しましょう」
他意を感じなかったせいか、不思議と機嫌は直ったらしい。それはそれで、また騒動の元になりそうだが…まあ、それはまた、そのときのことだろう。
そんな夕闇に笑いながら窓の外を見る。畑や民家はなく、ただ道が続く。見通しはよくしてあって、森の中を行くという雰囲気ではなかった。時折遠くに羊の群がいるが、草がないせいか、街道の方には寄ってこない。
触りたいな、とアヴィは呟いた。触るときっと、めーっと鳴くんだ。など、空想が膨らんでいく。
「アヴィ」
めーっと何かが聞こえた気がしたが、アヴィの空想は止まらない。
そうそう、あの鳴き声も可愛いんだよな。あのもこもこに埋もれて寝たら、楽しいだろう。ああ、野宿の時に羊がいると楽しいだろうな。枕にしたり、布団代わりにしたり…ああ、もしかすると勝手にどこかへいくんだろうか。布団がいなくなるといやだなあ、とか。
「アヴィ、聞いてますか?」
めえめえと聞こえたような気もした。
鳴き声も可愛いし、餌は草でいいし、一人に一匹連れ歩いたら…いっそ羊飼いに偽装する? ああ、それだったらたくさん飼えるし、まさか魔王さまが羊飼いとか思わないだろうし、いいかも……
「アヴィ! いい加減にしてください!」
「え、なに…おわぁっ!?」
夕闇の悲鳴で我に返り、羊に埋もれた自分を見て焦る。…幸か不幸か、生きた羊ではなくて、どうみても縫いぐるみ…ただしとても本物にそっくりな、質の高い大きな縫いぐるみである。それが、…ざっと七匹。領主用とは言え、少人数向けの馬車のなかに、である。
「……これ…おれがやった?」
「はい、貴方です。こんなことに魔力を無駄遣いしないでください」
怒ると言うよりは、呆れたという風情で夕闇がしかりつける。あやまりつつ、ぽんぽんと羊を叩いて消すのだが、…一つだけ、夕闇が自分の脇に置いて、護衛している。
「えっと……夕闇、さん?」
「後でイーリスさまに見せましょう」
しかしその目はとても優しく、どう見ても自分の趣味に確保したとか思えない有様であった。
「アヴィ、寝ていいですよ」
「何、いきなり?」
羊を撫でつつそんなことを言い出す夕闇に、アヴィは訝しげな目を向ける。
「また何か作り出されると面倒ですから、寝てください?」
う、とアヴィは言葉に詰まる。……今し方、羊を作ってしまった身としては…反論の余地がない。……しかし、である。
「眠くないんだけど……?」
「何も考えずに、目を閉じていると眠れますよ」
ようやく吐き出した一言は、あっさりと撃墜されてしまった。まあいいかと、単調な景色が続く窓から視線を外し、目を閉じる。何も考えずには難しいな、と内心で思いはしたものの──そんな心配は不要だった。
「全く……疲れている自覚もないんですね、あなたは」
不服そうに黙り込んだと思ったら、すでにアヴィは眠っていた。原因はおそらく魔力の使いすぎだろう。魔力の生成が落ち着いただけで、慣れない術をさんざん使ったのだし。
夕闇は、そんな彼から視線を外し、じっと羊の縫いぐるみを見つめた。
「…消えてしまいますよねぇ…」
アヴィが作ったものではなるが、意識して作ったわけではない代物なので、存在が不安定だ。触ったくらいでは何ともないが、消すつもりで叩けば消えてしまう。たぶん、時間経過でも消えるだろう。それを安定させるには、魔力を注ぐしかないのだが。
「…わたしがやって、いいものでしょうか……」
まだ自力では現界出来ず、誰かしらの魔力に頼る身だ。本来ならばそんな余分なことに魔力を使わず、安定させるための努力をするべきだろう。……とは、思うのだが。
かわいいのだ。本物によく似ているのに、とてもかわいい。いや、もちろん本物も可愛いのだけれど。
ちょっとだけ、と呟いて羊を撫でる。その呟き通り、注ぐ魔力はほんの少し…表面を保護する程度のものに留めた。これで、簡単には壊れないと安心する。
さて、これからどうするか…だが。
「……退屈ですよぅ……碌なこと、考えないじゃないですか……」
三人ともが眠るわけにも行かない馬車の中、夕闇はぼやいたのだった。
※ ※ ※
「──……」
ふと、イーリスが目を覚ます。自分を覗き込む夕闇に苦笑し、その顔に手を伸ばした。
馬車の扉から叩音が聞こえていたが夕闇は逆らわず、その手に誘われるまま、イーリスに顔を寄せて。
うわぁ、という表情でアヴィが二人から目を反らした。
「お待たせいたしまし……し、失礼しましたっ!」
二人の唇が重なるかという絶妙のタイミングで馬車の扉が開かれ、間髪入れずに閉じられた。
「うまくいったか?」
「大丈夫だと思いますよ。……アヴィもあの通りですし」
互いの吐息がかかるほどの位置のまま、二人がほくそ笑んだ。
市販のルゥを使わなくても、ホワイトシチューは作れるんです。美味しいよ?




