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Sweet Witch  作者: 波止 晴信
4/7

4話

 翌朝になって紬と一緒に登校する。 吐く息が日に日に白さを増すほど、朝は寒くなって来ている。 もうすぐすれば雪も降るんじゃないだろうか。

 そんな他愛のない話をしながら学校に行くだけなのに、紬と一緒にいると幸せと感じてしまう。 幸せと感じるほど、紬に何かしてあげたいと思う気持ちが強くなり不安にもなる。

 喜んでくれる方法は見つかったが、俺にそれができるか分からない。 どの場所で、どんなことを言えばいいのかすら分からない。


「柊史君……どうかしたの? なんか難しい顔してるよ……」

「ん? あぁ、なんでもないよ」

「それならいいんだけど……、もし何か悩んでるならいつでも話してね。 私、力になるから!」


 紬の顔に笑顔が貼られる。 心配している。落ち込んでいる。

 内面で紬は傷ついた。

 自分を頼ってもらえなくて、自分じゃあ頼りないと思われて。


「ありがと。 そのときは一番に相談するようにする」


 自分が嫌になる瞬間だった。 紬の内面に気づいていながらも見ないふりをした。 たとえ言えないことであっても、目の前で自分の一番大好きな女の子が無理をしている。

 それがどうしようもなく不甲斐無くて、むかっ腹が立ってまた顔に出そうになった。

 顔に出せばまた紬が無理をする。 俺は歯を食いしばって堪えるだけで、学校に行く間しゃべることができなかった。


「オーッス、柊史! って、ひどい顔だな……。 椎葉さんとケンカでもしたのか?」


 教室にカバンを置くと昔からの友達————海道 秀明(かいどうひであき)が話しかけてきた。


「自分で自分が嫌になっただけ」

「なんだ今更か」

「もっとかける言葉があるだろ……」

「いや、ないね。 ここんとこ、まともにはなってきてるけど、これまでのことがチャラになるわけでもないしな。 昔のお前はホッッッント扱いが難しいやつだった! 俺と和奏わかなちゃんがどれほど手を尽くして来たか知ってるか?」

「……あんまり記憶にない」

「これだから、お前は……。 気付くのが遅いんだよ。 けど、悩んでるなら相談ぐらい乗ってやるぞ?」

「ここじゃあ、あれだからちょっと……」

「そうなのか? じゃあ、トイレにでも行くか。 特別錬の方に行けば人もいないだろうし」


 俺たちは特別錬に行き、綾地さんに相談したことと登校中にあったことを話した。


「綾地さんに相談したことは、今さら俺が口を出す必要もないだろうが……そっか……。 確かに椎葉さんを喜ばせようとしているのに、それを本人にはしゃべれんわな」

「とっさに嘘ついちゃったけど、それが……」

「う~ん、早めに実行して謝るってぐらいしか言えないな」

「そうだよな~」

「なんかヒントみたいなものはなかったりしない?」

「ヒントってなんの?」

「そりゃお前、早めに実行できるヒントだよ! 今、どう動けばいいのか迷ってるんだろ? これまで付き合ってきて椎葉さん、ロマンチックなこと言ってなかった?」


 思い返す。 デートのとき、通学のとき、もっと他のことも。 ぐるぐると記憶をさかのぼって、これまであったことを一つ一つ思い返す。 いつでもどこでも変わらない紬の笑顔があって、俺もつられて笑っている。 何かプレゼントしても、紬も何か買って俺にプレゼントをしてくれる。

 俺は困った顔をしている。 紬は満足そうな顔をしている。 その顔を見て俺も顔が晴れる。

 俺の家に紬が来て、ごはんをつくってくれる。 父さんもいた。

 二人して作ってもらったおかずを取り合う。

 紬は困ったように笑って、また追加を作ってくれた。

 一つ一つが大切な思い出。 色あせてほしくない記憶。


『柊史君は私の————』


 ……なんだ。 今、何を思い出そうとした? いつだ……。 いつのことだ……!


「難しい顔してどうした、柊史?」

「思い出せそうで思い出せない……」

「あぁ~……悪いが柊史、時間だ」


 予鈴が鳴った。

 俺はモヤモヤしたまま教室に戻ることになった。 授業中もずっと考えた。 いつのことで、どこで、なにを言われたのか。


「柊史君は私の……」

「な~に言ってるの?」


 ぼやいていたら目の前に紬がいた。 弁当箱を二つ持って、俺の顔をマジマジと見る。 俺はなんだが気まずくて目をそらした。

 途端に口内に複雑な味が広がった。 苦いような、甘いような、酸っぱいような……。 不思議と嫌とは思わなった。

 何だろうと思い、顔を戻すと怪訝そな顔をしている紬と目が合った。


「……柊史君、なにか私に隠してる? 今朝から様子がおかしいような気がするけど」

「いや、そんなことはないよ」

「本当に~? さっきも恥ずかしいことぼやいてたじゃん」

「聞こえてた?」

「それは、まぁ……」

「紬は可愛いなって思ってただけだから気にしないで。 それより弁当持つよ」


 話を切りあげるために、紬の手から弁当を取ろうと手を伸ばす。 しかし弁当がサっと上にいってしまった。 何もないところで腕がさまよい、わきわきする。

 

「ついても良い嘘はあるけど、柊史君の嘘はそれじゃない気がするんだよね~」

「そんなことないって。 それより、おなか空いたな」

「本当のこと言ってくれたら、お弁当あげる」


 困った。 ……困った? これぐらいなら言ってもいいんじゃないか? 単なる思い出話だし、隠しときたいことはこれのもっと先のこと。 うん、大丈夫だ。 俺もこのモヤモヤをすっきりさせたい。


「わかった。 言うよ。 中庭行こっか」

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