ハッピーウェディング
拓哉との婚約会見から一週間過ぎた。
今日は私と拓哉は結婚式の日を迎えた。
結婚式の二時間前に白無垢の振袖を着て花嫁のかつらを合わせていた私は
まるで別人のように鏡に映っていた。
「本当に肌が綺麗だからお化粧がしやすかったですよ」
「こんなに綺麗な花嫁さんはいないですね」
着物を着付けてくれた美容師さんが私の花嫁姿をとてもよろ音でくれた。
着付けが終わって私は介添えの人に付き添われて家族の待つ控え室に行った。
「ひろみ、綺麗だよ。生きているうちに花嫁姿が見られるなんて
幸せなことはないよ。
おじいさん、涙流してばかりいたらせっかくの門出が台無しになりますよ」
「ばあさん、今日だけは泣かせておくれ。ひろみの花嫁姿を拝めて幸せだよ。
ひろみ、拓哉くんと幸せになるんだよ。そして元気な赤ちゃんを産んでおくれ」
おじいちゃんもおばあちゃんも私の花嫁姿を喜んでくれている。
「ひろみ、結婚式の前に一つだけ言っておく。
幸せというのは神様がもらうものではない。
自分で考えて相手に尽くしていくことが大事なんだ。
これからは拓哉くんのため、そして両親になる勇次師匠と奥さんのために
一生懸命尽くしていきなさい」
「はいっ、お父さん。長い間育ててくださってありがとうございました」
「ひろみ、これでお別れじゃないんだよ。
おまえとの親子の関係はこれからも続いていく。
孫の顔を見るのを楽しみにしているよ」
お父さん、ありがとう。
私、幸せになります。
「それでは両家を紹介しますのでカーテンを開けます」
そして控え室のカーテンを隔てて拓哉が紋付き袴で立っていた。
「まぁ、綺麗な花嫁さんね」
「ホンマや、拓哉にもったいないわ」
それぞれの家族を紹介して私たちは意気投合していた。
「家元、これから拓哉がお世話になります。よろしゅう頼みます」
「こちらこそ至らない娘ですが、師匠のご指導よろしくお願いします」
お父さん同士がお互いに挨拶を交わしていた。
仲人は尚志くんの両親が引き受けてくれた。
大切な相方の祝い事だからと一つ返事で引き受けてくれたそうだ。
「今日はええ天気や。ホンマによかったな」
「ホンマに嬉しいわ。拓哉たちの将来を幸福にと
明美が空から頼んだやろな、きっと」
「明美ちゃん、空から喜んでいるで」
「ホンマやな、明美に一目見せたかったわ」
「きっと見ているで、なにしろ命がけで産んだ一粒種やからな」
「おおきに、そう言うてもろて嬉しいわ。
ワシもいよいよじいさんやな、なんか複雑やな」
「楽しみができたやないか。初孫が産まれるのが今は幸せなんやからな」
「それでは会場に入ります。
新郎様と新婦様のご家族の方は結婚式の会場にご案内します」
そして両家の家族は先に結婚式の会場に向かっていた。
あとに残ったのは私と拓哉だけになった。
言葉がなかなか見つからない。
「拓哉さん」
「ひろみ、綺麗だよ。初めて見た時と同じ気持ちだよ」
「拓哉さん、私今幸せです。
赤ちゃんを産むことを許してくれてとても幸せです」
「これからもオレたちは一緒だ。
産まれてくる子供のためにもオレは必ず幸せにしてやる。
安心して元気な子を産んでくれ」
あとは言葉にならなかった。
届かない想いと諦めていた私を愛していると言ってくれた。
あなたを好きな人はだくさんいるのに
あなたは私を選んでくれた。
それだけでも幸せなのに赤ちゃんを授けてくれた。
拓哉に出会わせてくれた神様に
感謝してもしきれない気持ちでいっぱいの私だった。
「そろそろお時間です。参りましょう」
介添え人さんから呼ばれて私は式場に向かった。
「本当に今日はいい天気でよかったですね。
幸せでなによりでしょうね」
私は幸せで言葉にできないくらい嬉しかった。
今日が夢みたいで一瞬で消えてしまいそうな気持ちだった。
「ひろみ、おめでとう」
「ひろみ、綺麗やで」
美由紀と律子、そして雅と圭織が廊下で待っていた。
「受付に美紀と未来がおるからな。
はるみ先輩と涼子先輩が来るって言うてたわ。
加奈子先輩はリサイタルで来られへんの残念やけどよろしく言うといてって」
トップになるとリサイタルショーをやる。
私も退団するまでやっていた。
そしてファンと一緒にお茶会もやってもらったな。
今になってドリームランドが懐かしい。
私の青春の思い出になった。
たくさんの思い出を本当にありがとう。
私、幸せになります。
いよいよ、神殿の中に入り神様の前で私たちは永遠の愛を誓った。
三々九度の時、嬉しく涙がこぼれた。
ようやく妻になれた実感が湧いていた。
拓哉から指輪をはめてもらった私は嬉し涙を浮かべていた。
結婚式が終わって記念撮影をした。
そして結婚披露宴が始まった。
披露宴の料理は雄哉さんがつくってくれた。
どの料理もとても美味しかった。
ウェディングケーキはとても大きかった。
拓哉と二人でナイフを入れた時は感動した。
これで夫婦になったことを世間に知ってもらえたのだから。
披露宴には大学の友達も来てくれた。
拓哉のクラスの仲間や小川先生も来てくれていた。
こんなに多くの人に祝われて私たちは幸せだった。
憧れていた男性と結婚に幸せが伝わっていた。
乾杯の音頭が終わってから私たちは記念写真を撮った。
いつかこの写真を見る時はどんなときだろう。
お色直しのたびに写真を撮っていくから緊張していた私たち。
「硬くならなくていいのよ、笑顔を出して」
介添え人からの言葉で緊張がほぐれた私だった。
結婚式も大詰めになった。
科yんドルサービスで出席のお客様のところにまわっていた。
そして両親への感謝の言葉を呼んだ私はまた涙がこぼれた。
いよいよ両親に花束を贈った。
「お母さん、ありがとう」
「ひろみ、幸せになってね」
「おふくろ、ありがとう」
「拓哉、ありがとう。あなたを育ててよかったわ。
あなたからたくさん幸せをもらったわ、ありがとう」
拓哉のお母さんは涙を流して喜んでいた。
拓哉は生まれてまもなく実のお母さんが亡くなり今のお母さんに育てられた。
生さぬ仲の子を育てていくのは苦労するものだとおばあちゃんが言っていた。
だから、お母さんにとって嬉しさもひとしおだろう。
今日の結婚式は一生の思い出になるだろう。
私の友達や藤村流のお弟子さん、そして拓哉の友達やクラスメートのみんなに
小川先生の見守るなか、忘れてはいけないのは寛先生と瑠璃子先生だ。
結婚式には俊治戦線と理恵子先生も来てくれた。
ありがとうございます、先生方に支えられてドリームランドで頑張れました。
はるみ先輩、涼子先輩、来てくれてありがとうございます。
私はとても幸せです。
これから拓哉と一緒に幸せになります。
私はキャンドルサービスで着たブルーのドレスで
披露宴に来てくれた皆さんに挨拶をしていた。
今日から夫婦として生活が始まる。
拓哉のために一生懸命尽くしていこう。
拓哉のために安心できる家庭を築いていこう。




