41 貢がせる?
莉子とゲンティアーノが楽しそうに防具のプランを練っていると、アニージョと小梅とシースがやってきた。
「莉子!あんた何やってんの?!」
小梅がドワーフのおっちゃんズに呼び出され、作業場の片隅にて包丁の試作品で試し切り(試し斬りではない)をしているとアニージョにハチヤから勇者が来ているからちょっと相談に乗ってほしいとゲンティアーノの工房からうさみみのおねえさんがやってきた。
店舗と作業場はすこし離れているがドワーフの職人たちのあいだでうさみみおねえさんは結構人気なので「来てるよ」「今日は顔も安全ピン!」とかいう情報があっというまに流れてくるのだ。
勇者と聞いて千花が来ているのかと店舗にまわり、うさみみおねえさんに聞けば男前のドラゴンと一緒にリコちゃんというかわいらしい子が来ていますよと言うではないか。
何をしにきたんだと小梅はシースとアニージョとともにゲンティアーノの工房までやってきたのである。
「あ、小梅~」
小梅に気付いた莉子がうれしそうにひらひらと手を振る。
「ルルル工房にナイフの発注しようと思ってきたんだけどゲンさんと偶然知り合いになってね、今防具というか防具服の相談してるところ。っていうか、小梅カッコイイ~」
小梅はこちらに渡ってきたときの服ではなく、オストレイで調達したらしい服を着ている。早く体が慣れるようにと今ゲンティアーノが作っている防具およびその下に着る服と同じ形のもの(素材は違う。本物は高級素材)を着て、腰にはおっちゃんズが鋭意製作中(といってもこちらは素材待ちである。質の良い鉄鉱石の量が微妙に足りないらしい)の剣とほぼ同量と思われる重さの剣を佩びているのだ。目をきらきらさせて何かを言いだしそうな莉子をあえて無視し、小梅はリオンを見る。
「ナイフって…。リオンさん、わかりやすくせつめ…」
リオンは小梅に全部しゃべらせなかった。わたしにもわかりませんと目で語り首を振る。小梅はあきらめて莉子に視線を戻した。
「っとにあんたって子は…。何?実戦に出ることにしたの?」
「うーん、攻撃用というより護身用?」
「なんで護身用で50もナイフがいるわけ?」
道すがらうさみみおねえさんに話を聞いていた小梅である。
「50じゃないよ、54か53だよ。あ!今気付いた!お金!小梅って武器の代金どうした?わたしお金持ってないんだけど!」
「…」
小梅もお金は持っていない。といいたいところだがシースに何かあった時のため、と日本の感覚でいえば一万円程度は渡されている。オストレイの街ではすでに勇者として有名人な小梅はおごられることが多いし(出来るだけ断っているが断り切れずにおごられることがちょこちょこあるのだ)シースが経費で落ちますと支払してくれるのでほとんど使わずにいる。
ルルル工房で製作中の武器とゲンティアーノに頼んでいる防具はルルルのおっちゃんズ持ちだ。最初から言われている、プレゼントだと。
「リオンさん」
「わたしが持ってますから大丈夫です」
にこにこと答えるリオンをみて小梅はため息をおさえられなかった。自分たち三人は勇者なのだ。わざわざ異世界から召ばれた。
勇者の武器を一執事のポケットマネーからって、それでいいのだろうか。
「シースさん」
「ほんとに自由人同士で組ませてしまいましたね。あとはわたしがうまく処理しておきます」
「すみません。お願いします」
すこしは大人の事情とかメンツとか考慮してやれよ、とも思うのだがまだ学生だった莉子には思いつかなかったのかもしれない。それはまあ今回はいいとして―
「護身用にしちゃあ多すぎない?」
「そう?使い捨てのつもりだったからある程度数があった方がいいかなあって」
使い捨て!天下のルルル工房の武器を使い捨て!いくら勇者だからってそれはまずくないか?反感買いかねないよ、もう。小梅はぐりぐりとこめかみをもんだ。だめだ、リオンひとりじゃ絶対だめだ。セバスチャンにそっくりな双子の弟はいないのか。ぜひいてくれ!
「莉子、それはちょっと考えた方がいいかも。ルルル工房製って言ったらね、そうだねえ…あんたのしようとしてるのは安くても一本5万円のナイフを使い捨てます、ってことだよ」
「まじで?リオンさん270万円も貯金あるのかな?」
「買わせるのかい!」
思わず突っ込んだ小梅の肩をとんとんと軽く叩く誰か。
「コウメちゃん、アイスティー」
いつのまに用意したのかうさみみおねえさんが小梅に氷入りのグラスを渡す。うさみみおねえさんの慈愛のこもった苦笑に癒される小梅。さて、どう収拾をつけるべきか、というか、この小娘どうしてくれよう。
「ちょっと、いいですか」
二人のやりとりを聞いていたアニージョが口をはさむ。
「リコさん、でしたか。ナイフはどのような形状のものをどのように使うつもりでいらっしゃいますか?」
途中で話に割り込んできたアニージョが、いや、途中で話に割り込んできてくださったアニージョさまがアホの子の頭の中身をわかりやすく解剖してくださったおかげで、その場にいた面々に莉子が何をしようとしていたかが最短で伝わった。さすが天下のルルル工房の大番頭である。
話の終り頃にゲンティアーノが莉子の実力についてコメントすると、アニージョは面倒になったのかあきれと驚きを隠さずに天ではなく天井を見上げた。
「なんだかこの世界の一大事がコメディーになってきているような…」
その場にいたまともな人間の心にのみ、じーんと沁みいる台詞であった。
結局莉子の武器をルルル工房で作ることにはならなかった。話を聞いたアニージョがそれは武器屋ではなく魔道具屋に行く方がよいと判断したからだ。魔道具のことをよく知らない莉子と小梅だがアニージョもゲンティアーノもシースも確かに武器より魔道具だというので魔道具屋にいくことになった。
アニージョが心当たりがあるので紹介状を書いてくれるとのこと。
「じゃあ先に魔道具屋さんにいって、ガリガリ君ナイフ作ってもらってからここに来た方がいいよね?」
莉子の問いにゲンティアーノもそうねえと頷く。
「そうした方がいいけどぉ、ナイフの形がだいたい決まってるならおおまかなデザインは出来るわよぅ」
「そっかあ。ナイフも大事だけど、ゲンさんの作るのも楽しみだし、うーん、行ったり来たりすることにします!」
行ったり来たりって!ゲンティアーノの作るものは数時間で出来るものではない。長居するんかい!
小梅の顔をみてシースが続きを引き受ける。
「とりあえずお二人さん、ちゃんと皆に『東の大陸にいってきます』と断って出てきましたか?」
「はーい」
「はい、出かける前に行き先を」
「泊まりがけでといって出てきたのですか?」
「言ってません」
「ちょっと行ってきますとしか…」
「そう。そうですよね。どうせ泊まるなんて考えてないし、もちろん泊まるところも未定ですよね。そう、そう…ああ、とりあえずわたしたちの宿に行きましょう。その前に本部に寄って島に連絡をいれましょうね」
リオンは単体では問題なかったはずなのにリコさんと一緒だとなんだかやっかいなことになるようですねえとシースは思った。
「シースさん」
「はい?」
「帰る前に魔道具屋さんに寄ってもいいですよね」
「もちろん。用事はちゃきちゃき済ませちゃいましょうね」
保父さんスマイルで莉子を見下ろすシース。小梅は自分ひとりでなくシースがいてくれてよかった、と心の底から思った。
「で、使い捨てにする意味は?」
「弱い敵は『ワンペア』で、そこそこ強い相手には『フルハウス』とか『フラッシュ』で、ボスには『ロウォイヤルストレートフラッシュ☆彡』とかって決め台詞がかっこいいかなあって。そのあとにごそごそ拾いに行ったらかっこよさが半減しちゃうかと思ったんです。あ、『ワンペア』とか『フルハウス』っていうのはトランプという52枚のカードにジョーカーというなんでもありなカードをまぜたりまぜなかったりして遊ぶポーカーというゲームの役の名前でーす」
「確認しますね、トランプというカードを使ってするポーカーという遊びの役名をそのまま技の名前にする、トランプを模したナイフを役名とともに投げることで攻撃とする、この理解でよろしいですか?」
「いいでーす」
「使用するナイフは普通のナイフをトランプのつもりで投げるのですか?それともトランプにそっくりな形、つまりナイフというよりカードに近い形の刃物を考えているのですか?」
「うふふふ。あのですねえ、ガリガリ君型で考えてみましたー」
「ガリガリクンというのは?」
ここで小梅がガリガリ君について説明した。
「…そう、ですか」
「ガリガリ君っていってもそのままじゃないですよ。そうしたら一個一個が大きすぎるから。トランプの形に棒をつけたらガリガリ君っぽいっていうだけでーす。なぜ棒をつけるのか、なぜならトランプの方には毒を塗るからでーす。切れ味よくてもトランプもどきじゃ知れてるでしょう。ちいさい敵ならともかくおっきいのがきちゃったら困るし、手許が狂って急所を一撃できない場合もあるだろうし、そんなときのためにトランプに猛毒を仕込んでおけばばっちりオッケ~♪自分に毒がついちゃうと危ないからアイスの棒みたいに掴む所あったほうがいいかなあって。その猛毒の件もあって使い捨てで考えましたー」
「…ゲンティアーノ、そんなに都合のよい毒ってありましたかね?」
「んー、とりあえずぅこのファンシーなお嬢さんにはぁ、弱くても危険物は持たせない方がいいってぇ、天の声とぉみんなの心の声がぁ聞こえた気がするぅ」
「右に同じです」(シース)
「同じく」(小梅)
「(うんうんと深く頷く)」(うさみみおねえさん)
「(ちらりと莉子を見てから同意を示すように目を伏せる)」(リオン)
「それは空耳だと思いま~す♪こう見えて危険物乙4持ってるんだよ~」
「この世界にガススタないから」
アニージョは自動筆記のごとく流れるようなスピードで紹介状を書き終えたという。




