38 使い魔アクアと新魔法
アクアいわくマント、着せた知紗子はローブのつもり、千花はポンチョだと思っているそれは今の季節には暑過ぎたようでアクアは色褪せた丸首シャツ一枚でゴスロリ千花のポシェットにすっぽり入っている。
莉子の自作のポシェットが実は内ポケット二つに外ポケットまでついた機能性を備えた一品であるのに対し、千花のポシェットは魔法による自動装備でレースひらひらで更にレースで出来たお花がワンポイントになっている口がせまくてポケットなしのほんとに見た目だけなダメポシェットである。
しかしアクアが入る分にはとてもよかった。内ポケットがないので足をひっかけて股裂きになる心配もないし、口が狭い分、体がホールドされて安定性もよい。千花だけでなくアクア的にもこのレースひらひらはなしだがそこはしょうがない。
「で、どれくらい魔法が出ないクマ?」
「全然」
「最後の電話からひとつも進歩してないクマか?」
「いえいえ、ひとつ出来ましたよね」
千花の代わりににこやかにステラが答えた。ちなみにこの世界には魔法使いはいても『使い魔』という存在はない。ステラはさすが王族なのかもともとそういう性格なのかあまり物事に動じないタイプらしく、ぬいぐるみのくまがしゃべることはあまりというか全然気にしていないようだ。
「俺、それ見たいクマ!」
「えー(棒読み)」
まったくやる気のない返事をする千花。最近やる気がないとすぐ棒読みになる。
「この前はたまたま出ただけかも。もう出ないと思うなー(棒読み)」
「なんでこんなにやる気がないクマか?」
短い手でこっちこっちとステラを手招きしたアクアが小さな声でたずねる。小さな声にしたところでアクアは千花に密着状態であるので当然千花にも聞こえていたりする。
「魔法自体に問題はないと思うのですが、どうやら名前が」
「そんなに嫌な名前なら変えたらいいクマ」
「それがそう簡単な話ではないようで」
どうやったって聞こえているのにわざわざ小声で話すところがしゃくにさわるが、千花はさらりと無視をした。
現在二人と一匹はハチヤ島北西部の海岸に来ております。
いやだいやだとダダをこねくりまわしても始まらないのは千花も重々承知なので、さくさく移動陣で魔法練習場へとやってきたのです。
「なあなあ、早口で『キューティクルスマッシュアタック!』と『キューティクルースマッシュアターック!』って気合い入れて叫ぶのと魔法の強さは変わるクマか?」
「試してないからわからないけど違うのかな?」
「俺は違うと思うクマ♪」
得意げにアクアがひとさし指で鼻の下をこする。といってもひとさし指どころか指そのものがないのでまるい手でごしごしやっているだけである。あばれはっちゃくかお前は。だったら早く逆立ちしろ。と光ちゃんあたりがいれば突っ込むところだが残念ながらここにいるものは全員あばれはっちゃくを知らない世代だった。ステラにいたっては世代ではなく世界が違う。
「試してみてもいいけど」
千花はもう半分やけのやんぱちくんなのでばんばん魔法を使ってやるぜオラオラ状態である。
「試してみてもいいけど、ところでアクアって何をするの?使い魔って具体的に何するの?」
「特に何もしないクマ」
「え?」
「使い魔ってことは要するにおつかいくまみたいなものクマ。どうがんばったって千花の方が強いから、わざわざ俺がちょろちょろして千花の邪魔をしたり足手まといになる必要もないクマ」
「もしかしてそこにいるだけ?」
「俺は使い魔だから千花の命令は絶対クマ。千花が囮になれとか援護しろとか命令すれば言われた通りするクマよ。もちろんおつかいも肩もみもするクマ」
自分より確実に弱いと聞いているのを囮に使うとか千花には無理だ。ちょっと囮になってくれない?とか関西人風に言えば「よう言わん」である。最初に弱いとか足手まといとか囮とか命令には絶対服従とか、絶対服従なわりには命令しづらくさせてるあたりなかなかの策士のようだ。この色褪せクマめ。
「まあそれは時と場合に応じてということで、何かあったときには頼むかもしれないからそのときはチャキチャキ働いてよね」
「まかせろクマ!」
「ところでアクア殿はなぜそのような魔力を?かなりの魔力を保有しているようですが、あちらの神様が何かなされたのですか?」
「俺には様も殿もいらないクマよ。魔力についてはちがうクマ。もともとクマ。昔からちょろちょろ千花に魔力を注ぎこまれていたクマ」
「うそ!」
「うそついてもしょうがないクマ。その話はあとでするクマ。今は魔法の練習クマ!」
千花の『キューティクルスマッシュアタック!』を見たアクアは
「名前聞いたときからこれはないわと思っていたクマ。実際見てもこれはないクマ。俺たちはシルクドソレイユとは違うクマよ。千花は正義の味方だけどやることは魔物の殺戮クマ。こんなファンタジーなメルヘンでは盛り上がらないクマ」
魔物を倒せないからダメなのではなく、盛り上がらないからダメなのだと断言した。
結果として、アクアは非常に優秀な使い魔であった。使い魔と言うよりコーチと呼んだ方がわかりやすいかもしれない。
巧みにチャチャを入れて千花に違う方向からやる気を起こさせ、しかし最後までチャチャを入れ続けるわけではなく途中でほめ言葉を混ぜたりしはじめるのである。あそこの魔法はこう変えた方がいいのではないクマか?などと珍しくまじめな口調で提案されたりすると千花もそれじゃあなどとまじめに答えたりしてしまい…。
そんなこんなで本日、千花とアクアの合作『メテウォチョークスリーパー』が完成いたしました。ぱちぱちぱち。
涼夜が見たらがっかりすること間違いなしの大技である。
コンセプトは魔物の大群を一匹残らず掃討する魔法、である。でっかい光の球を落とし(本当は隕石を落としたかったのだが千花は錬金術師ではないのでなにもないところから岩石を出すのは面倒なので手っ取り早く光で代用した)それであらかた魔物をやっつけ残りは地面から生えてきた土の蔦が絡みついて絞め殺す。と言えばたいしたことないように感じるが、実際にみると結構えぐい。
千花とアクアは「土の蔦」と言っているが蔦というよりどう見てもミミズか触手だし、なくてもいいはずの節がなんともいえない味を出している。made of 土のくせに蔦にもよく見ればあるとか言って産毛まで生えているその無駄な細やかさが不要だ。産毛ってどないなっとんねんなひとのためにもうちょっと詳しく説明するとミミズタッチな表面から磁石で砂鉄を集めたときのようなあのジャクジャクがまだらにあるいは密に生えているのである。そこにある土がそのまま土の蔦の材料になるわけで、出来るならさわやかな地質の場所で使ってほしい魔法である。
光の球で焼き尽くさないのは魔物に精神的ダメージを与えるためなのだと言うが、結局その場で全員殺してしまうのなら与えた精神的ダメージが他には伝わらないのでは?という質問は心の中にとどめておくステラであった。声に出していたらアクアの「ただの嬲り殺しクマ」という物騒な台詞を聞けたかもしれない。
「なんかいろいろ出来る気がしてきた」
「そうクマそうクマ。今まではイメージの力が足りないんじゃなくてイメージの方向性が間違っていただけクマ。あの変態の思い通りになんてこのアクア様がさせないクマよ」
「うふふ。頼もしいわね。やっぱり付き合いが長いだ…け、の…あれ?」
「チカさん!」
千花が熟練芸人のようにまっすぐなまま倒れていくのをあわててステラが抱きかかえた。
「セクハラクマ~」
「何を言って…大丈夫ですかチカさん」
「ありがと…ひん、けつ?…………う、きもちわる…」
急激な魔法の消費によるものなのか千花の顔が真っ青だ。実際は青と言うより白、白と言うよりは生気が抜けた肌色というかそこらへんは適当に。
「む、り…」
そして千花はステラの、エルフの王族が着用する超高級魔法使い用ローブにむかって吐いた。ちなみに質素を美徳とするエルフが自分で用意するわけはなく、繊維業界からの献上品である。アクアは直前でポシェットから緊急脱出していたので無事だった。
「おっと……浄化」
ばっちり正面から千花の吐しゃ物を目撃してしまったステラはもらいゲロを回避するべく視線を逸らし素早く浄化魔法をかける。
「浄化」
目の前のブツが印象的すぎてそれのみを浄化したが、あたりに漂うスメルに気付いてあわててもう一度浄化魔法をかけた。
「すみません、うごかさないで。ゆれると、はく…」
腕の中の千花が力が出ないのか非常に小さな声で呟いている。揺れると吐くとか二日酔い?もしかして魔法酔い?そんなもの聞いたことないが、もしかするとそうなのかもしれないとステラは思う。
お願いだから1mmも動かさないでくださいと千花に頼まれ、微動だにせず千花を抱きかかえたまま三十分ほど不自然な姿勢で海岸に立ち尽くしていたステラは漢であった。




