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36 閑話・異世界で勇者になった娘たちを応援するぞ委員会




 日本の首都東京。その東京の某所、住宅と比較的小さな工場がごちゃまぜな某区某町である。

 つい最近近所でもよく知られた昔はかわいい、最近はめっきり綺麗になったと評判の仲良し三人組が京都で大事故に巻き込まれ、残念なことに三人ともお空のお星さまになった。


 そんな三人組のひとりの親が社長をつとめる株式会社小泉製作所。上場はしていない家族で持ち株なちっちゃな株式会社である。

 最近ここに三人組の家族がよく集まるようになった。近所のひとはいろいろあるよね、と同情と記憶にある三人のかわいい女の子を思い出してホロリとしたりなんかしていたが、当事者たちは予想外に元気だった。なぜなら、


 奥様は魔女だったのです。

 違いました。

 娘たちはあの世で生きていたのです(あんまりどころか全然似てないな)





 今日は金曜日の夜、小泉製作所こうばは明日も通常営業だが、わらわらと人が集まってきた。最初に莉子の家、龍泉家に集合したその次から集まる場所がここになった。理由は小梅の実家、小泉家の人数が一番多いことと仕事の都合である。小梅の実家はその筋では有名だがいわゆる町工場なので常に納期と戦っていたりする。小梅の父の戦闘服は機械油にまみれた作業服なのでその姿で莉子の家や千花の家にいくわけにもいかず、いちいちお風呂に入って着替え…面倒くさいわー!というわけでここが本拠地になりました。


 簡単に家族を紹介しよう。

 まずは一応主人公のつもりの莉子の家、龍泉家から。

 父の理一りいちは普通のサラリーマンである。ただ異常にクジ運が強い。また鉄道模型のジオラマ作りが趣味であり鉄道模型界でジオラマの龍さんといえば知る人ぞ知る、である。自分の給料と副収入の宝くじの賞金で建てたマイホームには世のお父さんたちが羨ましがること間違いなしの八畳の趣味の部屋がある。

 母、里佳りかは途中から専業主婦になった普通のお母さんである。ただクジ運が人より強く懸賞の猛者である。

 兄、涼夜りょうやについては 25 閑話・龍泉涼夜という男 を参照されたし。


 続いて、小梅のおうち、小泉家の人々。

 父、光太郎こうたろうは小泉製作所の現社長。同業者からは旋盤の光ちゃんなどという素敵な二つ名を頂戴している。いわゆる職人である。

 母、琴子ことこ。経理担当だが簡単な作業ももちろん手伝う。箱詰めとかね。小泉製作所はその技術力で売っているので商品を作ることはないが門前の小僧というやつで実は旋盤をまわしたらそこそこの加工技術を見せる、なんてね。実は琴子さん、実家も工場なので子供の頃から結婚前までまわしてたんですね。こっそり経験者でした。

 弟、耕平こうへい。工業高校1年生。健全な反抗期真っ最中であったが、姉の事故死とその後の他人に言ったところで理解してもらえない異世界ファンタジー騒動のせいでせっかくの反抗期がぐだぐだになっている。某有名職人の著書を読んで感銘を受け、中卒で職人の修行を始める予定であったが『中卒』にちょっとだけビビって結局工業高校に進学したヘタレというよりは極めて普通な男の子である。

 妹、こころ。中学2年生。ごくごく普通の中学生。内心はどうでもいい思っているが周囲から浮くのもそれはそれで面倒なので一応おしゃれには気を遣っている。小梅に似て学校の成績はそれほど良くないが、常識と良識は持ち合わせており頭の回転もはやいので小梅及び千花は心と話すことを無意識に求めているようだ。莉子に関しては心の方がちょっと面倒だと感じている。涼夜に平気で突っ込める。

 祖母、紅子こうこ。実母コイのキャラが濃すぎたため、反動で極めて平凡に育った。若い頃から「安心」「癒し」と男女を問わず友人が多い。

 曾祖母、コイ。関東大震災と東京大空襲を生き延びた強者であり、いまだボケ知らずなチャキチャキな江戸っ子。年齢を聞くのはNGである。


 千花の家族。丁田ちょうださんち。

 父、智秋ちあき。外資系の会社で役付だったりするエリート。純粋な日本人だが両親がイギリスで生活する日本人だったためロンドンで生まれロンドンで育つ。ゆえに日本人なのにイギリス人的な思考も持っており、そんな自分に不安を覚えて大学卒業後に日本に来た。日本で永住&永眠の予定である。

 母、知紗子ちさこ。おっとりしているように見える専業主婦。

 兄、千尋ちひろ。アメリカの大学で助手をしている。熱帯雨林の研究で現在コンゴの森の中。千花の事故の連絡は衛星携帯電話で受けたが、どうがんばっても葬式に間に合うように日本に帰ることは不可能だったため未だ帰国していない。研究チーム全体で出国の目処が立っていないのは、研究が盛り上がっているためか森の奥に入りすぎたためか政情不安によるものか、微妙だ。賢さよりも情熱と体力で研究者になった男である。研究者と言っても一番下っ端のため、ひたすらデータ入力をしているだけらしい。今後彼と彼の仲間たちが中央アフリカのジャングルからの脱出を図るランボー風のハードボイルド小説は残念ながら書かれる予定がない。




 千花の兄の千尋は国外の為にいないが他の面々は何かと工場に集まるようになった。電池の問題もあるので電話はそれほど出来ない。なのに何故集まるのかというと、異世界で勇者をやることになった娘たちをバックアップするべく、知恵を出し合っているのである。

 つまり異世界で勇者になった娘たちを応援するぞ委員会である。


 現在進行中の重要議題は


 ・携帯電池問題

 ・千花の魔法問題


 この二つである。あまり多くても中途半端になるであろうから課題は少なめに設定し、皆の知恵をそこに総動員して早期の解決をはかり、成功しだい次の課題に着手する、というのが委員会の基本姿勢として決まっているのだ。


 電池問題については手動で電気を作る充電器を異世界に送る、あるいは異世界で充電器を自作してもらうの二つが解決案として出された。

 ではどのように異世界に充電器を送るか、考えられるのは千花の魔法である。

 というわけで、委員会が現在全力で取り組んでいるのは千花に自由自在に魔法を操れるようになってもらうこと、つまり千花を早急に一流の魔法使いにすること、である。


 聞くところによると千花は潜在能力は高いのにその能力はひたすら潜在潜行を良しとするため顕現せず、唯一可能な魔法は魔法少女への着衣変身のみという非常に痛々しい状況である。

 これについては耕平が「涼夜の呪い」と推理しているがまだその真相は暴かれていない。

 前回「次回までに一人ひとつは作戦を考えてくること」という宿題が出たので今日はいわゆる学校で言うところの研究発表会、企業におけるプレゼン、である。

 智秋が張り切ってプロジェクターを持ち込んだがそれはやんわりと遠慮された。

 ちなみに苗字で呼ぶと最低でも二人、最高六人が同時に振り向いたりするので委員会ではファーストネームで呼び合うのがルールである。これもなかなか難しく、親しみをこめて「こうちゃん」などと呼びかけると小泉家の三人が同時に返事をする事態に陥る。名付けというのはよく考えようといういい例である。



「このぬいぐるみに代わりをさせるというのはどうかしら?」

「代わり、と申しますと?」

「この前、心ちゃんが『千花ちゃんはイメージ出来ないんじゃなくて深層心理で魔法使いな自分が恥ずかしいんじゃないのかな』と言ったのを参考に、千花じゃなくてこのぬいぐるみが代わりに魔法を行使する、という形をとればいいのではないかと」


 知紗子の手には年季の入ったぬいぐるみ。経年で色がくすんでいるがもとは水色のくまのぬいぐるみらしい。水色とか現実にいたらかなりファンキーなくまである。


「これは!」

「ええ」


 理一の言葉ににこにこしながら頷く知紗子。知紗子の手にあるぬいぐるみは千花たちが小学校1年生のクリスマスに親たちが内緒でお揃いで購入したものなのである。千花は水色、莉子はピンク、小梅は黄色である。もちろん三人とも捨てることなく自分の部屋に大切とってあったのだが、千花のくまは千花自作の丸首の(5年生の時に作ったので襟は無理だった)シャツを着せられていたり、小梅のくまはなぜか10円ハゲが出来ていたりとそれなりの個性は発生している。


「知紗ちゃんおばさん!使い魔的なちっちゃいもふもふ生物とか!王道中の王道ですよ!」


 涼夜が興奮して叫ぶ。琴子のことを自分の母親が琴ちゃんと呼んでいたせいか、気付いた時には涼夜は琴子のことを琴ちゃんおばさんと呼んでおり、それをそのままトレースする形で知紗ちゃんおばさんと呼んでいる。

 そして親たちの議論は熱を帯びてゆくのである。確かにくまが代わりに魔法を使うなら千花も恥ずかしくないだろうとか、シャツしか着てないのもかわいそうだからズボンも作ってあげようとか、いやいやそれならやっぱりローブでしょとか、どうせならくまも三匹の方がさびしくないだろうとか、中の綿をチョコレートに詰め替えてあげたら娘たちの非常食になるとか…。




「それこそ恥ずかしいと思うんだけどねえ」


 親プラス涼夜の盛り上がりを冷めた目で眺める女の子がひとり。心である。


「お兄ちゃんも何か案とかないの?」

「うーん」


 ちなみに今日は紅子とコイは欠席である。区の老人連合会の旅行に行っている。正確には土日の一泊旅行では物足りない屈強な老人有志がいわゆる前乗りで現地に突っ込んでいるのだ。これは何年も前からの暗黙の了解的な恒例行事であり、こんなことをするので「某町のひとはちょっと困るよね」とか言われちゃっているのだ。もちろん首謀者は小泉さんちのコイさんである。


「少しは何か考えてる?」

「んー、とりあえず俺は涼ちゃんの思考の真逆の方向が正解なんじゃないかと思うんだけど」

「ほうほう!それで?」

「それがわかりそうでいて、具体的にというとなんかよくわかんなくなっちゃうんだよなあ」

「あー、それなんかわかる気がする」


 うーん、と若者二人は悩む。涼夜の真逆とはおそらく普通なのだと思うのだがそれだけでは範囲が広すぎてどうしたらよいのかわからないのだ。

 離れた場所では親たちが相変わらず少しずれた論点でああだこうだと騒いでいる。あれだと話が進まなかったり結局千花の魔法が成功しなかったりじゃないのかと心は思うが、特に何を言うでもない。

 旅行に行く前の曽祖母に言われたのだ。子をなくした親の気持ちはあんたたちの想像以上だよ、だからここはちょっとだけ大人になって見守っておやりなさいと。

 もちろん大好きなおねえちゃんをなくしたあんたたちの気持ちも想像以上だよね、と言って頭を撫でるのではなく、なぜかしわしわの手で両方のほっぺたをむぎゅっとされた。自分のあとには耕平もむぎゅっとされて、そしてあのひいばあちゃんがちょっとだけ泣いたから自分たちもちょこっとだけ泣いたのだ。

 今までさんざん泣いたけどまだ泣けたらしい。


「ひいばあちゃんとばあちゃんだったらどういう案だすと思う?」


 今日の会合のために夕方買い出しにいったお菓子をもそもそと食べている耕平に聞いてみる。


「そうだなあ…どうするだろなあ…」


 いつもならいらっとしそうな答えだけど自分も同じような気持ちだから心は何も言わなかった。




 そして工場の夜は更けてゆく―







 


そしてなにひとつかいけつしていないのだ

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