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32 アニキ!




 小梅とシースは翌日再びルルル工房を訪れた。

 きのうはシースと二人でのんびり屋台で買い食い、のはずがいつの間にかオストレイの夜市場で警邏隊と治安部隊と地元のひとも一緒になってなぜか宴会になってしまったのだ。小梅も両腕に計6枚の皿を載せたりビアジョッキをおかしな数まとめて運んで見せたりと元レストランのホール係の技を披露してやんやの喝さいを浴びたりして、そう、少々飲み過ぎて寝坊した。

 ちなみに夜市場とはそのまま夜にやっている市場で、朝と違うのは飲食できる屋台の数が多いこととアクセサリーや布、その他工芸品など観光客向けの店が多いことだ。


「あたし全然目が覚めませんでした。ほんとすみません」

「謝らなくていいですよ。ルルル工房には朝一番で伝言をお願いしましたから大丈夫です」


 小梅は飲んでも二日酔いになることは滅多にないが少々寝すぎる傾向がある。おそらく寝ている間に猛烈な勢いでアルコールを分解しているのだろう。小梅は三人の中で一番誕生日が早く四月生まれで既に二十歳を超えているので問題ない。というかここは日本ではないので二十歳になっていなくてもお酒を飲んで大丈夫なのだ。

 この世界には飲酒できるのは何歳から、という法律はないらしい。飲酒は成長にはよろしくない、とされているため成長期が終わるまでは飲まないというのが常識だそうだ。この世界でも男性は背が高い方が受けが良いということで若い男の子はあまり酒を飲みたがらないらしい。

 シースは場をしらけさせないようにと飲みはしたが自分で気をつけていたので普段とまったくかわらない。今朝も島にいるときと同じ時刻に自然と目が覚めた。起きてすぐに宿のフロント的なところに行き(安宿ではなくそれなりな宿に宿泊中)ルルル工房におつかいをお願いしたのだ。


「これでコウメ殿が酒臭かったらちょっと困りますが、全然残ってないみたいですね」

「はい。おかげさまで快調です」


 小梅はにっこり笑って腕をぐるぐる振り回した。

 二人は今日も市の紋章入りの馬車で移動です。






「きのうは結構盛り上がったそうですね」


 工房についてアニージョにいきなり言われて小梅は舌を出した。


「ばれてました?」

「お隣の職人さんが昨日居合わせたとかでお昼に話を聞きました」

「すみません、約束は午前だったのに」

「構いませんよ、その分考える時間が出来ましたから。それから今日は防具屋を紹介しますね。見た目は少々個性的ですが腕は確かですから安心してください」


 きのうとはちがうひとがいれてくれたお茶を飲みながら小梅は「あの耳さわりてー」と思ったが社会人経験もある大人なので一応黙ってお茶を飲み続ける。カップの中のお茶がまだ熱いうちに防具屋があらわれた。


   ぼうぐやがあらわれた!

   こうめはびっくりした!

   こうめ40のダメージ!


 とはならなかった。異世界トリップ三人組はゲームとは無縁に生きてきたのでそこらへんよく知らないのだ。ゲームといえば、せいぜいゲームセンターのモグラたたきかエアホッケーくらいである。女の子の場合、姉妹のみに「ゲームをまったく知らない」出現率が高いが、兄や弟がいてもやらない子はやらない、のよい見本がこの三人だった。


 目の前に現れたマッチョなお兄さんに小梅の目が一瞬大きくなったがそこは元客商売、あからさまに失礼な態度をとることはなくにこやかにあいさつをした。


「はじめまして、小梅です。よろしくお願いします」

「わたくしコウメさまの護衛のシースと申します」


 小梅のあとにシースもつづく。シースはさすが執事の落ち着きでまったく動じることがない。


「うふふ。ゲンティアーノです。防具を担当させてもらうわね。名前長いからゲンでいいわよ、みんなもそう呼ぶし。よろしくね」


 発音を正確に表記するなら「うふふぅ。ゲンティアーノでぇす。防具を担当させてもらうわねぇ。名前長いからぁゲンでいいわよぅ。みんなもそう呼ぶしぃ。よ・ろ・し・く・ね(キラリ☆)」だが、まあいいだろう。

 きのうショッキングピンクのドレスだったゲンは今日はぴっちぴちのシルバーのスパンコールのオールインワン、つまり全身スパッツだ。正直腰回りを見たくない。


「実はわたしの腹違いの弟になります。こんななりですが身元はしっかりしてますし、ちゃんと男で女性の婚約者もいますからご安心ください」


 アニージョの説明に小梅とシースはなにごともないように「はい」と微笑んだが内心では安堵のため息を盛大についた。二人ともこんな男性の婚約者の顔が見てみたい!と思ったがもちろん心の中にとどめておく。

 そう、アニージョは正真正銘ゲンさん、ゲンティアーノの兄なのである。変な意味のアニキではないのだ。


 ゲンティアーノは結構というか、かなり由緒正しいおうちの正式な長男で親戚には優秀な騎士や文官も多く、父に至っては某国の騎士隊長なんてつとめていた。ゲンティアーノの両親には娘がひとり生まれたがその後しばらくして母が何を思ったか娘を置き去りに家出、その面倒をみたのがアニージョの母でいつしか二人はそういう関係になりアニージョが生まれたが、アニージョ五歳の時母親は流行り病で病死。その一年後に正妻がひょっこり戻ってきて元サヤ、ゲンティアーノ誕生。と、まあこんな流れである。


 騎士隊長な父も家出妻な母もアニージョを長男として扱っていたが、アニージョはそれをありがたいと思いつつも名家の看板を背負うのは少々気が重く、いわゆる妾の息子という陰口を叩かれてまでの出世欲とかもないので早々に家を出た。

 父親に立派な体格のDNAをもらったゲンティアーノが家を継ぐのだと誰もが思ったが、ゲンティアーノの残り半分のDNAは家出妻な母親からきており、ゲンティアーノはアニージョ以上に家を継ぐことを嫌がってまさかの出奔。アニージョは円満に家を出たがゲンティアーノは家出である。


 家にいたときにそんな趣味は片鱗も感じさせなかったので、上手に隠していたのかあるいは見つかった時に連れ戻されない為の策なのか不明なのだが、アニージョが再会した時には弟は既にこんな感じになっていたのだ。お兄ちゃん大好きっ子だったゲンティアーノは兄が武器ならぼくは防具!となぜか防具屋に弟子入りし才能をあっちゅうまに開花させ独り立ちした。ちなみに兄が武器を作るひとではなく武器のコーディネートをするひとだと気付いたときにはゲンティアーノは既に一流の防具職人になっていたため今さら防具コーディネーターにならなくてもいっか、で現在に至る。


 ちなみにアニージョとゲンティアーノが異母兄弟というのは工房にいるひとはカロラ以外全員知っている周知の事実というやつなのだが、唯一知らないカロラは今日西の大陸から届いた鉱石の確認に港に行っており、かわいそうな勘違いはもうしばらく続くのである。




「体はまあまあ柔らかいみたいね。毎日欠かさずストレッチやりなさいよ」


 ゲンティアーノがオネエ言葉ではなく普通の口調で話しながら手許の紙になにやら書きつける。小梅は現在ゲンティアーノに言われた通りのポーズをとっている。今までは剣を持って構えたり切る真似をしたり仮の防具をつけて走ったり飛んだり。それを剣の重さを変え防具の形を変え延々と繰り返している。途中で休憩になったときに小梅はシースに武器や防具を作るのはこんなに面倒なのかと聞いたのだが、シースの答えは「わたしは島生まれ島育ちの執事ですからねえ」という全然参考にならないものだった。

 しかもそんなゲンティアーノに刺激されたのかきのう採寸は終わらせているはずのアニージョもそばで何やらしている。防具はともかく剣なんて長さと重さ以外に何かあるのかと小梅は思うがここは黙って言われたとおりにしている。


 そして何気に気になるのがギャラリー。パンクでロックなウサ耳おねえさんがいるのだ。何もしないところをみると助手とかではなく純粋なギャラリーらしい。ここの従業員にウサ耳のおにいさんがいたから、ウサ耳同士で恋人だったりするのだろうか。とか考えてもそこから特に考えや妄想が発展するわけでもなく、小梅は再びせっせとポーズをとったり走ったりを繰り返した。


 結局昼過ぎにはじまってすべてが終わったのが夕方、というよりほとんど夜だった。途中でルルル工房からゲンティアーノの店に行き、いろんな見本を見せられというより合わせられてちがうとか似合うとか。合わせられたのは色見本だ。小梅は正直トンチンカンなものでなければ何色だろうが構わないのだが、それは許されないらしく魔法のライトで快晴の場合とか曇りの場合とかいちいち状況を変えて色合わせ、とかいうのを延々やられ、最後は魂が半分抜けた小梅をシースが市の紋章入りの馬車に押し込んで強制終了となった。






 オストレイ三日目、今日から小梅とシースにはしばらく予定がない。きのう一週間後に仮合わせにきれくれとゲンティアーノに言われている。それより早く出来たらそれはそれで連絡をくれるらしい。

 武器の方はアニージョいわくあのひとたち一応天才なので、ということでいきなり完成品ができるとのこと。


「シースさん、何しましょう」

「そうですねえ、観光しますか」

「遊んでていいんでしょうか?」

「武器が出来てからジャイロで正式な訓練を受けることになっていますから、今無理にどうこうする必要もないと思いますよ。観光じゃなくて買い物にしますか?」

「うーん、買い物はそんなに興味ないので観光にします」

「女性で買い物にあまり興味がないとは珍しいですねえ」

「服とかアクセサリー見るより食べ歩きの方が興味がありまして」


 というわけで昨夜とはちがう市場に足を向けたのだが、なぜかまた警邏隊と治安部隊と地元のひとを巻き込み宴会となる。しかも今日は昼から。どうなってるんだ港湾自治都市オストレイ。

 そしてそこで出会った造り酒屋の若旦那とやらに気に入られ、翌日小梅とシースはオストレイ郊外の造り酒屋に見学に行き、ついでに近くの果樹園で桃狩りをし(ほぼ地球と同じ桃だった)、おなかいっぱいで腹ごなししたいねとくっついてきていた警邏隊のみなさんと団体でカヌーで川下りをしながらオストレイの中心地を目指していたところでドラゴンに見つかったのである。つまりリオンである。

 リオンから事情を聞いた小梅はすぐにハチヤに戻りたいと思ったが夜になると危ないと言われ、翌朝早くに島に向かい家族の声を聞いたのである。

 



 



 




 





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