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30 小梅とシース




 ルルル工房の敷地は広い。その広い敷地の中で一番大きいのが作業場である。他にも店舗兼経営者住宅、弟子たちが住む独身寮、そして大きさのちがう倉庫が三つありそのうち一番大きいのが小梅たちが見せてもらった武器倉庫である。それ以外にもちょこちょこした建物があるが全部が平屋である。


「いくら苦手でもあれはかなりぜいたくでござるな」

「致し方ございませぬよ、彼らはドワーフゆえ低さこそジャスティスなのでしょう」


 小梅とスールはなんだか雰囲気が変わったアニージョから体の隅々まで採寸を受け、また明日と工房を出て再びオストレイの中心地に向かっている。女性である小梅の採寸を男性であるアニージョがするのはどうかと思われたが、全裸になるわけでもなく何よりアニージョのまさに『鬼気迫る』勢いに小梅はもちろん護衛であるはずのシースも何も言えなかった。護衛失格じゃ?という話もあるがあの時に本気の仕事モードのアニージョにそんなことを言えるのはおそらく世界で数人いるかいないかだ。多分。


「しかし体力的にというより精神的に疲れた気がするのは気のせいでござろうか?」

「気のせいではございますまい。なぜか拙者もコウメ殿と同じ心地でござる」


 そうなぜかシースもあちこち採寸されまくったのである。

 アニージョは真剣であったが小梅のときと比べ何かが違っていた気がするのは気のせいか。気のせいか?(重要なことは二回書く癖をつけましょう)


「夕餉は名物などを食して気分を一新したいものですな」

「名案でござる、コウメ殿は苦手なものがなくて助かるでござる」

「シース殿『ござる』多すぎでござるよ」

「そうでござるか?」


 二人はルルル工房で小梅の武器を作ってもらう間オストレイに滞在し、武器が出来上がり次第ジャイロに向かうことになっている。

 島から一緒に来た黒将軍は島で遊んでいた分仕事がたまっているらしくドラゴンの籠から降りた瞬間いかにも仕事が出来そうな部下らしきひとにひきずられていった。あのでっかい黒将軍を片手で軽々ひきずっていったのだから部下も相当力持ちなのだろう。しかも軍服を着ていてもわかるナイスバディーなおねえさまときた。そしてあの黒将軍をさげすんだような目!たまらんひとにはたまらんタイプと思われる。

 ケンケンとララパとはジャイロで再会する予定だ。ケンケンいわく「説明するのがめんどくさい」いろいろな用事や事情があるらしい。でっかい日傘を持って待ち構えていたひととその他の大勢に囲まれてどこかに行った。


 ちなみに小梅とシースの間ではほんのちょっと前から「武士ごっこ」と書いて「もののふごっこ」がブームである。小梅が様やら殿やら敬称をつけられるのがどうにも嫌だと主張したところ、でもこの世界のひとから見たら小梅は勇者だから結局どこに行ってもそうじゃないですかとシースに指摘され、だったら殿がつけられてもおかしくないようにしゃべる→武士のふり、という小梅の謎の思考回路の結果である。

 子だくさんのシースはこの手のことには自分のかわいい子どもたちで慣れているので特に気にすることもなく武士ごっこに付き合っている。


「長いこと付き合わせちゃってほんとすみません」

「いえいえ仕事ですし。たまに島から出るのもこんなこと言ってはなんですが楽しいですしね」


 面倒になってきたのか小梅の口調が戻ったのでシースも口調を戻す。


「でも家族のみなさんもさびしがるでしょう」

「多少はさびしがってくれないとわたしの立つ瀬がないですからね。でも息子は学校で自慢してるんじゃないでしょうか。『うちのとうちゃん勇者さまの護衛なんだぜ』って」


 ふふふとシースがおだやかに笑う。

 シースは実は娘、息子、娘、息子と四人の子どもの父親である。なんと十五歳で二歳上の幼馴染と結婚し、それかららぶらぶなまま現在に至る。

 結婚してすぐに出来た長女はもう十六歳で来年島の若者との結婚が決まっている。

 シースが小梅の護衛に選ばれたのは腕が立つことはもちろん、アイラブヨメ、嫁命なことと、大きい娘とも良好な親子関係を維持していることで若い女性の対応に問題がないと思われたことが大きな理由である。おそらく小梅が急に生理痛で具合が悪くなっても、あわてることなく生理用品と鎮痛剤を買いにいき、小梅が頼めば嫁にしているようにくるぶしの上やひざまわりの生理痛に効くツボを押してくれるはずだ。下心0%で。

 下手に未婚の若い執事を護衛にして何かあっては大変だが、その点シースは本人はもちろんまわりの誰も小梅にたいして何かやましい行動を起こすことなどまったく心配していない。催眠術でもかけられない限りシースが小梅に何かをすることはないと思われる。もし万が一そんなことになったらおそらくシースは切腹するだろう。いやまじで。


 本来ならオストレイの迎賓館のようなところに泊まるべきらしいが小梅がそれを固辞した。堅苦しいのは苦手だし、マナーとかそういうものにあまり自信がない。テーブルマナーはレストランに勤めていたので問題ないと思うがそれ以外がよくわからない。小梅の勤めていたレストランでは月に一回懇親会と言う名の食べ歩きの会のようなものがあり、それはレストランオーナーのポケットマネーで行くのだが、時にドレスコードのあるような店にも行くものだったのだ。

 どこかの王族とか大臣とかいうひとに囲まれたり質問されたりするのはかんべんしてほしいし、どうしてもそうしなきゃいけない時は自分ではなく千花にまかせたいと小梅は思っていた。

 小梅のそういった希望もあり今回は武器をあつらえるための非公式な滞在ということで小梅とシースはオストレイの中心街にある宿を借りている。


「シースさん、出来ればレストランとかじゃなくて露店みたいなところで食べ歩きしたいんですけど」

「ここは治安もいいですし問題ないでしょう。一応街の警備担当者には連絡しましょうね」

「はーい」


 あまり世話にはなりたくないが、何かあったらお互いに困るのでオストレイにいる間の行動予定などはすべて報告することにしている。自治都市オストレイの独自の警邏隊と世界本部の移動により存在している治安部隊の話、どんな組織でとか役割分担とかそういうことは説明を受けたのだが、小梅はなんだかよくわからなかったのでスルーした。多分シースがちゃんとやってくれるので問題ないと思われる。


「買い食い超楽しみ!シースさんも今のうちだけだろうからビールとか飲んじゃったらどうですか?」

「そうですね。執事長にばれないようにこっそりビールでも飲みましょうか」


 強いけれどどこかのんきという共通点がある二人はアハハウフフと今日の宿を目指した。といっても二人は手配してもらった市の紋章入りのちょっと豪華な馬車に座っていただけである。



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