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29 ルルル工房



 ルルル工房。ドワーフの天才職人、スールとナールとハールが経営する武器工房である。

 以前は防具なども扱っていたが、早い段階で武器専門になった。最初はオストレイの商業区に店舗兼工房を構えていたが繁盛して手狭になったときに広さを優先して街のやや外れの新規の造成地に移った。

 街中と言うより郊外といっても差し支えない場所であったため、土地の販売の最低単位が街中よりも広いうえに安く、またのちのち何かあったときのためにと三人で三区画購入したので相当広い。当初は土地にたいして建物の割合がすくなかったためさびしい印象だったが、増築を続けていまは三区画分の土地にいっぱいいっぱいだ。

 そしてルルル工房がここに移ってから防具屋や家具屋、宝飾工房に洋服店など生ものを扱わない業種が次々移転してきたためいつからかこの地域一帯が工業区あるいは問屋街などと呼ばれるようになった。






「広ーい♪」


 ルルル工房にやってきた小梅の第一声は広い、だった。

 つい実家の町工場と比べてしまった。店舗もそれなりに広いがなんと言っても圧巻なのが作業場だ。

 体育館くらいの広さはあるだろうか。ただっぴろい場所に屋根がついている。作業中は可動式の壁をよせて風の通りを良くしてあるので柱で屋根を支える広すぎる土俵のようだ。

 その屋根の下で何人もの職人がもくもくと作業をしている。

 作業中のドワーフたちはこちらに見向きもしないが、作業の合間のものたちはきっちりとあいさつをしてくる。

 工房に着いて店舗ではなくいきなり作業場に入ったのだがすぐに店舗の方からドワーフではなく人間がやってきた。


「おかえりなさいませ」


 身体つきはそれなりにしっかりしているが、眼鏡と顔立ちはよくいえば繊細、別の言い方をすると神経質そうに見えなくもない年齢不詳の人間の男性だ。もしかするとドラゴンの人型かもしれないが小梅にはわからない。


「ムラマーはなかった」

「だがホウチョを作る」

「勇者の剣も作る」


 スールとナールとハールが一言ずつしゃべる。が、誰が誰だかわからないのでどれが誰の発言であるかは不明だ。

 眼鏡の男性は最初の一言であからさまに残念そうな顔になり、二言目で眉毛をぴくりと動かし、三言目でうれしそうに目じりを下げた。


「おっちゃんたち、紹介してよ」

「ああ、すまんすまん」

「アニージョ、勇者のコウメ殿だ」

「殿なんていいよ、はじめまして小梅です。武器を作ってもらいにきました。よろしくお願いします」


 まさか勇者が女の子とは思わなかったのだろう、アニージョがびっくりした顔で小梅を見つめている。


「わたくしはコウメさまの護衛のシースです。ハチヤ島からまいりました」


 執事が一歩前に出て自己紹介をすると頭を下げ、再び一歩引いて小梅の斜め後ろに下がる。


「申し遅れました、わたくしルルル工房で番頭をつとめさせていただいておりますアニージョと申します」

「コウメ殿、武器はとりあえずアニージョに相談してくれ」

「アニージョは武器のこーでぃねーたーじゃからの、コウメ殿に合った武器を考えてくれる」

「決まればあとはわしらが作るだけじゃ」


 おっちゃんたち三人は武器を作るのが天才的にうまくてもそのひとが剣向きか槍向きか、どれくらいの長さの剣で握りはこんな感じで、とかまではよくわからないのだ。以前は勝手に作って商品を並べ、買いに来た人が自分に合った武器を購入していたが、この番頭が来てからはオーダーメイドも取り扱うようになった。

 直接おっちゃんたちに好みを伝えれば、という話もあるがいまやルルル工房は大陸一、おっちゃんたちは超多忙なのである。いちいち客の好みをふんふん聞いている時間はないのだ。のわりにはハチヤ島に出かけたり好き勝手にやっているが。


「じゃあアニージョ頼んだぞ」

「わしらはホウチョの試作品を作るから」

「おーい、手が空いてるのちょっと手伝えー」


 おっちゃん三人組はしゃべりながら作業場の奥へ消えていき、その場には小梅とシースとアニージョが残された。






 番頭さんことアニージョは武器マニアであった。

 もともと武器が大好きで(といっても純粋に武器が好きなだけでそれを自分が”使う”ということにはあまり興味はない)ルルル工房の武器をみたときにビビビっと何かが落ちたそうな。

 おしかけ店員になり、そのうちお客さんの相談に乗るようになり、コーディネーターまがいのことをするように。そして弟子が増えてもドワーフたちは作ることは大好きでもその他の事はあまり好きではないため店の掃除とか(ドワーフたちは作業場の掃除だけはきっちりやる)近所づきあいとか経理とかいろんなことがおそろしいくらいの適当で、それは弟子が何人増えようがドワーフである限り変わらなかった。番頭さんはこのままではマルサに踏み込まれて最悪売り物が差し押さえられてしまう、とドワーフがしないことをいろいろフォローしているうちに気付いたらただの売り子から武器コーディネーター兼番頭扱い。


「へぇー」


 ドラゴンの籠をおりて休憩もなくまっすぐここに来たと聞いて店舗の方で番頭さんの部下みたいなひとが淹れたお茶を飲みながら歓談中。

 島にいたときはほとんどがハーブティーだったのが、ここで出されたのは何か違う種類のようだ。コーヒーに近い、なんだかカフェインががつんと入ってそうなパンチの効いたお茶でこれはこれでおいしいな、と思いながら小梅は後ろに立っているシースにもすすめる。

 最初は断ったシースも小梅がこれ気に入ったしシースさんも飲んでみたら?と勧めるので口をつけると確かにおいしい。おいしい飲み物に出会ったとシースの無垢な執事スマイルが炸裂し場が一気になごむ。


「まとめて購入してハチヤに送りましょうか」

「莉子とちーちゃんもよろこびそう」

「問屋に知人がいるので卸値で融通してくれると思いますよ」


 のほほんとした時間が流れる。


 と、そんなもの流すのもほどほどにしないとね、と適当なタイミングで三人はほぼ同時に立ち上がった。

 案内された工房の見本倉庫にはハチヤの砦では見なかった不思議な形の武器などあるわあるわ、博物館状態である。アニージョの説明によるとアニージョの趣味と仕事が一緒くたになりルルル工房製以外の武器もあるんだとか。そういうのは基本お客さんには見せないらしい。

 小梅はたくさんの種類のものを試したが、結局作ってもらうものは剣に落ち着いた。


「防具はまだなんですよね。うちも昔は作っていたのですがここのところ作っておりませんし、いい防具屋を紹介しますね。防具との兼ね合いも考えないといけないのですがやはりスピード重視がよろしいですか?」

「そこしか売りがないかも」

「どの程度の速さか見せていただいても?」


 見本倉庫の中で一番扱いやすかった剣を借り、シースと手合わせをすることになった。シースはおだやかそうな見た目にだまされるが実は砦の執事のナンバー2である。通常からモード移行した小梅の動きにもついていける実力者だ。砦の執事たちはどれだけ強いんだという話である。小梅が勇者をやらなくても砦の執事が全員で出ていけばすごい戦力なのでは、とも思うがそれはそれこれはこれでいろいろと大人の事情があったりで話は簡単にはいかないのである。






「これは…」


 目の前で打ち合う二人を見てアニージョは驚きの声をあげた。

 ハチヤ島の執事の噂は聞いたことがあったがここまでとは思わなかった。小梅もさすが勇者なだけのことはある。ただ小梅はアニージョの目にも明らかなほど発展途上な、生まれたての勇者のようだった。初心者だと自称している通りまだまだ荒削りだがびしばしと才能を感じる。


 しばらく打ち合ったあと、小梅がモード移行する。これはもう人外レベル、魔法レベルの速さなのだがこの大陸の人間ゆえ何度も魔法を見ているアニージョはその速さをぎりぎり目で追っていた。

 小梅とシースの打ち合いはシースが小梅の右上段からの剣をうまく流してかわし、そのままバックステップで多めにひいたところで終了となった。


「コウメさまはもちろんですがシースさまの武器もうちで新調いたしましょうか?」


 シースはとんでもないと首を振ったがアニージョの心はもう決まっていた。

 マニアの血が騒ぐ!&滾る!

 美しい武器は美しい使い手のもとに、強い武器は強い使い手のもとにあるべきである。

 もちろん最前線に向かう兵士たちの手にルルル工房の武器があることに異存はないが、ルルル工房の武器にはふさわしい人の手の中でこそ輝いて欲しいのだ。そのためにわたしはこの工房に来たんじゃないか!

 マニアの血がGO!&LOCK ON!

 アニージョの眼鏡に一瞬にして斜線が入り、背後から怪しげなオーラが立ちあがる。


 残念なことに小梅とシースはたったいま終えた打ち合いのプチ反省会中でアニージョに背中を向けていたためその姿を直接見ることはなかった。

 が、その瞬間小梅が首筋にたった鳥肌を無意識に剣を持たない左手でさすり、同じくシースが剣を持たない左手で無意識に自分のおしりをそっと守ったのはさすがというべきかハイそれ間違い!なのか、正解を知る者募集中。












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