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27 ドラゴンの籠の中で




 時間は少し遡る-



 小梅はドラゴンの籠に乗り島を離れた。離れていく島を眺めながら黒将軍に島の名前はハチヤだと聞いた。「そうなんですかー」と言ったら「聞いたことないのか」と不思議そうな顔をするので「多分聞いたと思うけど忘れましたー」とにこやかに答えたら「そうかー」とにこやかに返された。ちなみに砦の名前は聞いた途端に忘れた。

 小梅はひとの名前を覚えるのは得意だが別になんでもかんでも記憶力がいいわけではない。島の名前も砦の名前も別に知らなくても問題なかったので覚えなかったのだが、島を離れることになり島の名前だけは覚えた。砦の名前は覚えなくてもあの島に砦はひとつだけだったので「ハチヤ島の砦」で十分伝わるはずだ。


 ついさっきまで小梅のまわりで「ホウチョ」「ムラマー」と大騒ぎをしていたドワーフのおっちゃん三人組、スールとナールとハールは籠の隅で毛布とクッションに埋もれて眠っている。

 ドワーフは高い所が苦手なものがほとんどでドワーフの住居は地下室はあっても二階はない。そんなドワーフである三人がなぜドラゴンの籠なんていう世界で一番高い所をゆく乗り物に乗ったのかといえば、伝説のムラマーを見たいというその一念のみであった。職人魂というやつである。

 とは言っても彼らはドワーフの王様でもなんでもないただの職人だ。なぜそんな彼らががエルフの王族や人間の将軍などいわゆる地位の高い人、世界会議の主要メンバーと一緒にハチヤ島にやってくることが出来たのかというとわかりやすくいえば脅迫である。


 ドワーフの三人が経営する(もちろん経営者兼職人である)ルルル工房はドワーフの工房の中でも最も素晴らしい武器を作ると評判の工房なのだ。

 東の大陸にあるいくつも国家の王室御用達であり、魔物が再び出没するようになってからは対魔物最前線にむかう精鋭部隊の支給武器を製作しているのもルルル工房だ。自分の手にしている武器がルルル工房製であるかそうでないかは兵士の士気にかかわる。 

 工房で働く弟子はたくさんいるが三人がお墨付きを与えて外に出した弟子はたった二人しかいない。その二人はもちろん優秀な職人なのだがやはりルルル工房の名の持つ力には及ばない。

 そんな工房の三人が一緒に連れて行ってくれなければ工房をたたむとごねたのだ。


 これはもう仕方ないと三人を連れていくことに決め、ドラゴンの籠に乗せたはいいが今度は怖い怖い怖くてちびると大騒ぎをはじめたのでステラが魔法で速攻眠らせたのだ。

 とまあこんなことが行きにあったので今回は乗る直前にステラに眠りの魔法をかけてもらい、現在は三人仲良くすやすやと睡眠中だ。

 そしてケンケンとララパもつられたのか魔法をかけられたわけではないが寝ている。


 今起きているのは小梅と黒将軍、護衛としてついてきた砦の執事の計三人。既に顔見知りの執事は「護衛と言っても黒将軍より弱いので護衛といえるかどうか」と苦笑いしていた。将軍の地位は伊達ではないので黒将軍は相当強く、黒将軍より強い護衛などまずいないらしい。


「おっちゃんたちの腕は良さそうだから武器を作ってもらうのはいいんだけど、いや、いいんですが、あの鬱陶しいのがずーっと続くのかと思うと」

「ハハハ。がんばれ。ところでひとりでさびしくないか?大丈夫か?」

「そりゃあさびしくないといえば嘘ですが、でも、大丈夫です。不安はもちろんあるんですけど、それよりももっと、なんていうのかな、やりがい?なんだか奥の方でドキドキワクワクするような何かが、って言ってもわからないと思うんですけど」


 小梅は自分の中の高揚した部分をうまく説明できない。

 魔物と戦うなんてもちろん怖い。でも怖くても自分の中の何かうれしがっているのだ。この状況をよろこんでいる。

 中学校を卒業したら高校に行かずに冒険家になりたいと思っていた。犬ぞりで南極にいったりどこかの洞窟や鍾乳洞やジャングルを探検してみたかった。本気だったけれどその本気を信じて応援してくれたのは莉子だけだった。

 結局親に説得されて高校に行き(莉子は「あれ?冒険家になるんじゃなかったの?」と不思議そうな顔をしていた)就職指導の先生にすすめられるままになんとなく受けた会社に受かってしまったためそこに就職したが三ヵ月しかもたなかった。

 その後に勤めたレストランは会社に比べればずっとマシだったが、今思えば何かちがっていたのかもしれない。

 今は、うまく説明できないけれどしっくりきている。

 こんな命がけの状況でむしろよろこんで楽しんでるなんて自分はどうかしているのかも。そんなことを考えながら外を眺める。もうハチヤ島は見えなくなった。眼下にはどこまでも海が広がっている。

 自然に笑顔になってしまった小梅のその横顔を黒将軍が興味深そうにみつめていた。






「おい、見えてきたぞ」


 床に座り自分の手帳に何やら書きつけていた小梅に黒将軍が声をかけた。

 いそいで手帳とペンを自分のかばんにしまい窓に駆け寄る。


「うわぁ」


 籠の窓から見えたのは(寒い時期にはガラスが嵌めこまれ、さらに極寒になると板が嵌めこまれるらしいが現在は何もなくただ枠があるだけだ)海岸線にひろがる街。

 海岸線からやや内陸にはいったところに石造りのおおきな建物が点在している。どうやらその周辺には小さな建物が密集しているようだ。大きな街らしく内陸の方まで建物がたくさん建っているがそれはやがてまばらになり畑や果樹園のようなものがまざり始める。そのあたりで実は街の中からいくつかの大きな道が大陸の奥に向かって延びていたことが確認できた。大きく太い道はちょうど五本。それよりも細い道は面倒なので数えなかった。


「すごい。まじで異世界」


 父親のコレクションの世界遺産DVDにもこんな景色はなかった。

 港湾都市オストレイはありふれた色のはずなのにみたこともない色彩の街。小梅は期待と興奮で目を輝かせながら近づく街を見下ろしていた。




  

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