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19 先鋒小梅、島を出ます




 千花が魔法少女になってから三日が経った。

 千花の普段着はゴスロリ改め黒の戦闘服になった。魔法を使おうとするたびにまず最初がお着替えタイムになるのは時間の無駄とあきらめたのだ。

 ステラがつきっきりで千花の魔法の特訓をしているが正直あまり進んでいない。


 一方小梅は日々着実にその腕を上げていた。元々の運動神経のよさもあるのだろう。明日、島を出ることになった。

 魔物との戦いの前に大陸にわたり小梅専用の武器を作るためだ。この島にある武器は日本人の女の子にはすこし大きすぎたし重すぎた。それは小梅も感じていたが構わずに執事たちの鍛練にまざっていたのだが、鍛練をのぞきにきた黒将軍に止められたのだ。合わない武器は体に負担をかけると。

 そして相談の結果、東の大陸に渡りドワーフの工房で武器を誂えたのち黒将軍のもとで修業をすることになった。ある程度の腕になったら魔物退治に出ることになるのだろう。






「小梅だいじょうぶ?」


 夕食をすませ三人は莉子の部屋の応接セットでお茶を飲んでいた。ほんとうにこの島のお茶はおいしい。

 明日、小梅は島を出るが莉子と千花は島に残る。


「だいじょうぶだよ。すぐに魔物と戦うわけじゃないし」

「でも」

「いい加減ドワーフのおっちゃんたちもうるさいし」

「あー、それはあるかも」


 日本刀の作り方は知らないが包丁なら見たことがある、古い鉄と新しい鉄をくっつけていた、などと話した小梅にドワーフのおっちゃんズがくいついたのだ。

 請われるままに小梅も覚えている範囲でドワーフたちに説明したのだが、彼らはどうしても小梅を工房に連れていき包丁作りに立ち合わせたいらしい。


「でもさあ、包丁作りに立ち合えって言われてもあたしアドバイスも何にも出来ないと思うんだけど」

「そうだよねえ、ドワーフって鍛冶?の専門家だよね。小梅が見てなくてもうまく出来るよねえ?」


 小梅と莉子で話していると千花がまざってきた。


「多分日本刀作りたいんじゃないのかな」


 千花はドワーフたちは日本刀を作ってみたいのだろうと、話に聞いた日本刀をとりあえず作って小梅にどれだけ日本刀に近いか確認してもらい、ダメなら改良して出来るだけ日本刀に近い日本刀を作ってみたいんじゃないかと予想した。


「なるほど」

「そうかもしれない」


莉子と小梅は千花の予想にうなずく。


「ムラマームラマー言ってたもんね」

「莉子の妊刀にはびっくりしたけど」

「ちょ、それもう忘れて」


 お茶請けのクッキーをつまみながらアハハと笑い合う。オレンジだかオレンジに似た何かが練り込まれたこのクッキーは絶品なのだ。お茶もお菓子も異常にレベルが高いのは執事だらけのこの砦に限ったことなのか、この世界的に普通なのかはこの島から出たことのない三人にはわからない。

 小梅が島を出るわりに本人を含め莉子にも千花にも悲壮感がないのは、黒将軍が今後三ヶ月以内に戦いに出ることはまずないと明言したからだ。

 こちらの世界の人間の国の軍隊では入隊してから三ヶ月は訓練などにあてられ実戦に出ることはないらしくそれに倣うべき、というのが黒将軍の主張だ。

 下位の魔物は生態や弱点もわかってきているらしくそういうことも最初に学ぶらしい。軍隊での暗号というか符牒のようなものも身につけておくべきだと莉子も千花も言われている。


 小梅は武器作りの件もあり大陸に渡る。莉子と千花も同時に渡って小梅とともにいろんなことを学ぶという案もあったが千花の魔法修行はこの島で行うほうがいいのではないかという結論になったのだ。

 島ならば人目を気にせず広い場所で集中出来る。現在島民には島の北西部の海岸には近付かないように警告が出されており千花はゴスロリなユニフォームもまさかの暴発もあまり気にせずに修行に打ち込めてていた。

 大陸に渡ればエルフの魔法部隊もおりたくさんの魔法使いがいて教師には困らないが、島のように人目を気にせずに魔法の練習をする場所を確保するのは難しかった。


「小梅はもう行くし、千花ちゃんも魔法がものになったら大陸に行くんだろうけど、わたしの場合何が基準になるのかな」

「うーん……」


 莉子が強化してもらった『運』は使い勝手が良いのか悪いのか。

 一か八かの状況において何割程度の確率で『運』が良い方向に転ぶのか。

 無理矢理『運』が試されるような状況を作り上げて莉子の『運』を試す実験をしてみるという案も出されたが万が一を考えて却下となった。

 こちらの世界のひとたちは小梅の身体能力と千花の魔力のすごさを目の当たりにして莉子の『運』もそれと同等だろうと考えてくれているので、莉子は肩身の狭い思いはしていない。


「ちーちゃんが出るときに一緒に出たら?」

「うーん」

「っていうかさ、莉子の場合基準とかいらないんじゃないの?」

「確かにそうかも。わたしが出るときに莉子ちゃんも一緒に行こうよ」

「それがいいの、かな?」






 翌日、朝食後しばらくして島に籠をぶらさげて二匹のドラゴンがやってきた。


「あれって乗り物酔いしちゃったりすると思う?」

「どう考えても揺れるよね、あれ」


 部屋の窓からドラゴンの姿を見つけた小梅のつぶやきに莉子が答える。

 現在小梅の荷造り真っ最中。あまりにも少ない小梅の荷物に驚いた莉子と千花が荷物の中身をあらため必要と思われるものを追加していたのだ。


「あんまり揺れるんだったら魔法で揺れなくしてあるんじゃないの?」

「おお!」

「そっかあ、そういえば魔法があるんだもんね」





 一時間後、小梅はケンケン、ララパを両脇に従え黒将軍とドワーフ三人組と一緒にドラゴンの籠に乗りこんだ。

 籠の扉が閉まりゆっくりとドラゴンが上昇すると籠もふわりと浮きあがる。ビルの4、5階くらいの高さまで上がるとドラゴンと籠は東の大陸へ向かって飛んでいった。

 莉子と千花は見えなくなるまで手を振っていた。


「行っちゃったね」

「うん」


 あんまりさびしい雰囲気にならないのは天気がよいからかもしれない。

 快晴なのにあまり日差しが肌につきささる感じがしないのは季節のせいなのかこの世界の太陽の性質によるのか。そういえばこの世界って日焼け止めってあるのかなあと莉子はぼんやり考えた。


「じゃあ莉子ちゃん、わたし行ってくるね」


 ぼけっとしていたところに声をかけられあわてて顔をあげると千花とステラが並んでいた。魔法修行の時間らしい。


「あ、うん、無理しないでがんばって」

「そろそろ無理でも矢理でもして自在に魔法出したいんだけどね」

 

 苦笑いを浮かべてから千花はステラと砦に向かって歩いていく。練習場所の海岸に行く魔法の移動陣が砦にあるからだ。魔法で移動、というのは出来ることは出来るがそれなりに魔力があるか移動魔法が得意な者にしかできないそうだ。そして初めての場所と距離があるのはかなりむずかしい。A地点とB地点の距離が短いほど簡単であり、更に繰り返すことによりそこに道のような慣れのようなものが出来て簡単に移動できるようになる、とステラに教えてもらった。今砦と海岸はかなりしっかりした魔法の道が出来ているのだろう。

 

「さて、と」


 莉子は小さくつぶやきつつのびをする。

 小梅は出ていき千花は魔法修行。わたしは何をしよう。とりあえずあのオレンジのクッキーの焼き方でも教わろうかなと莉子は砦の厨房に向かった。



 

 





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