第25話 「情報漏洩」を理由とする「カイコ」の有効性
「ええっと、先ほどの話の続きに戻りますね。プニョンさんたちスライムの一団は、勇者たちに一度敗北して、作戦を練るため、一時退散した。そうでしたね」
「んにゅ」
「では、続きをお願いします」
「んにゅ。おいらたちは、作戦を練ることにしたぷにゅ。作戦はこう決まったぷにゅ」
「はい。どんな作戦に」
「勇者たちと闘った草原の先に、ぽつんと小屋があるぷにゅ。おいらたちは勇者たち一行を待ち伏せすることにしたぷにゅ。そこは、大草原の中に本当にぽつんとそこだけ休めるような場所だったぷにゅ。人間たちはよく利用していたし、きっとそこで休むはずだと思っていたぷにゅ。さっき初めておふたりに会った時みたいに、小屋の中のバケツの中とか、トイレの中とかに水になったふりをして隠れて、勇者たちが小屋に入ってきたら、一斉に襲い掛かる、そして、勇者たちが小屋の外に出たら、小屋の上に隠れていたブニン先輩がのしかかる!という作戦を立てたぷにゅ」
「おお」
「何か、さるかに合戦みたいですね。ブニンさん、最後にのしかかる臼みたい!」
「なかなか狡猾な作戦ですね」
確かに、さっきのプニョンさんみたいにバケツに入って、何もしゃべらなかったら、きっと誰も気が付かないぞ。これは勇者たちも大変だ。
「作戦を立てた後、ブニン先輩から全員に注意が伝えられたぷにゅ。『この作戦は、絶対に人間たちに漏らしてはならない。この場にいるスライムたちの間だけの秘密ぶに』って」
「そりゃあそうでしょうね。作戦が漏れてしまったら、元も子もない」
「んにゅ。そして次に、おいらに『お前は、この作戦からはずすぶに』って言ったぷにゅ」
「え、どうしてですか?」
「おいらは、『触れる者全てを癒す肌』だから、闘いの役に立たないし、勇者たちを回復してしまうやつなんていらないってことだったぷにゅ」
「え、でも、仲間を回復するという役割があれば……」
「ブニン先輩は、『回復なんて、弱いやつのすることぶに』っていつも言ってる昔ながらの硬派なスライムぷにゅ」
「ああ、そういうことですか」
スライム界隈では、そういうのが「硬派」と表現されるらしい。
猪突猛進ってことなんだろうね。
でも「待ち伏せするのは『硬派』なの?」と思わずツッコみを入れたくなってしまったが、それは何とか心の中で抑えることにした。
「おいらは、のけ者にされて、草原をふらふら歩いていたぷにゅ。そうしたら、おいらの前に、勇者たち一行が現れたぷにゅ」
「ええ!勇者たちと鉢合わせ?」
「んにゅ」
「どうしたんですか、それで?」
「勇者たち、特に、戦士の人間が、おいらに御礼を言ってきたぷにゅ」
「ああ、さっきの闘いで、助けてくれたから」
「んにゅ」
「おいら、勇者たちに御礼を言ってもらえて……」
先ほどの闘いで不本意ながら勇者たちに逆転のチャンスを与えてしまい、あまつさえ、そのせいで仲間から追放されてしまったわけだから、御礼なんて言われて、さぞ屈辱だったんだろうな……
「めっちゃ嬉しかったぷにゅ」
「(嬉しかったんかい!!)」
思わず心の中でツッコみを入れてしまった!
そうなのか?
それでいいのか?
スライムの心理は読めない。
「それで、勇者たちと仲良くなったぷにゅ」
「ああ、そういう流れですか」
「んにゅ」
「仲良くなって、色々話していると、勇者たち一行が訊いてきたぷにゅ」
「何をですか」
「他のスライムたちはどうしているのかって」
「ああ、それはそこ、尋ねてきますよね」
「で、おいら『ブニン先輩たちは、勇者たちをやっつけるため、草原の先の小屋で待ち伏せしてるぷにゅ。小屋の上でブニン先輩が隠れているぷにゅ』って教えてあげたぷにゅ」
「ええ!?」
「そ、それは……教えちゃダメなんじゃ……」
「おいらも、うっかりしていたぷにゅ……ブニン先輩に『秘密』って言われていたの、忘れてしまっていたぷにゅ……」
「それで、結局、その後の作戦はどうなったんですか?」
「勇者たちは、ブニン先輩たちが待ち伏せしている小屋にたどり着いたぷにゅ」
「それで……」
「真っ先に、小屋の上に隠れているブニン先輩を見つけたぷにゅ」
「作戦バレちゃってますからね。当然ですよね。ちなみにブニン先輩は、どうやって隠れていたんですか?プニョンさんの100倍くらい大きいってことは、かなりの巨体ですよね」
「んにゅ。ブニン先輩は、小屋の屋根に留まっている小鳥に変装していたぷにゅ」
「え、こ、小鳥??」
「んにゅ。先輩としては、見事小鳥に変身したつもりになっていたぷにゅ」
「そんな巨体で、小鳥って……」
「んにゅ。『ブニ、ブニ』って小鳥のさえずるマネまでしていたけど、残念ながら、おいらから見ても、バレバレだったぷにゅ」
「こりゃあ、作戦がバレるとかバレないとかいうレベルの話ではなさそうですね」
「んにゅ。で、結局、勇者たちは、真っ先にブニン先輩に攻撃を集中して、全滅してしまったぷにゅ。他のスライムたちは、『絶対に勇者たちにバレないよう何があっても待機』って命令されていたから、ブニン先輩を誰も助けなかったみたいぷにゅ」
「作戦が仇になっちゃいましたね……そりゃあ、そうなるでしょうね」
「んにゅ。それで、生き残ったのは、おいらと、あと2匹のスライムだったぷにゅ。その内の一匹のブノンが、『作戦が漏れたのは、お前のせいだぶの』って、魔王軍の偉い人達にチクっていたぷにゅ」
今度は「ぶの」が出てきた。
いや、まあ、それはそれとして、なるほど、そういうことだったのか。
「それで、プニョンさんは、その後どうしたんですか?」
「その後は、おいらも魔王軍に戻ったぷにゅ。そして、『あんたが問題のスライムね。あなたは『カイコ』するわ』ってセーヌ様に言われたぷにゅ」
「ああ、なるほど。他に誰か何か言っていました?」
「ブノンがあちこちでおいらの悪口を言っていたみたいで、みんなから色々言われたぷにゅ。『お前のせいでブニンがやられた』とか『ウラギリモノ』とか『ジョーホーローエー』とかぷにゅ」
「ああ。そうですね」
「でも、セーヌ様はおいらのこと、すごく褒めてくれていたぷにゅ。『触れる者全てを癒す《エクストリームキュア》肌』のこととか、1000年に一度の才能で、『すごい』とか、『もったいない』とも言ってくれたぷにゅ。あ、それと、『カイコ』って言われた後、『シメシがつかない』って言っていたぷにゅ。『シメシ』っていうのが、何の飯のことなのかよくわからなかったぷにゅ……」
「ああ、なるほどね」
「んにゅ?」
「プニョンさん、先ほど私は、合理的理由や社会的相当性を欠く解雇は、法律上は無効とされるっていう話をしました。今回の解雇も、私の国の考え方で言えば、不当解雇なのかな、と最初は思っていました。でも、もしかすると、いや、結構な確率で、今回の解雇は魔王軍からすると、正当かもしれません」
「んにゅ?どうしてぷにゅ?」
「さっき、プニョンさん、『ジョーホーローエー』って周囲の人から言われたとおっしゃっていましたね。それ、つまりは「情報漏洩」のことです。いかに仲良くなってしまったとはいえ、魔王軍の最大の敵である勇者たち一行に、大事な作戦を洩らしてしまった。これは、言ってしまえば『軍事機密の漏洩』です」
「グンジキミツぷにゅ!?」
「はい。軍事作戦って、相手にバレちゃったら、失敗しちゃう確率が上がりますからね。軍事じゃなくって、企業として考えても、例えば、大事な開発中の特許情報とか、顧客情報とか、ライバル会社に知られてしまうと自分の会社が大損してしまうような情報もあります。そういった有益な『営業秘密情報』を漏洩してしまうことは、私の国の法律のひとつの『不正競争防止法』で禁止されていることでもあるんです。もちろん、プニョンさんみたいにうっかり話してしまった場合が、そのままこの法律の犯罪になるという意味ではありません。ただ、それくらい企業にとって秘密情報は重要なものなんです。今回の一件、これに近いくらい、プニョンさんは悪いことをしてしまっているのかもしれない」
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【参考条文:不正競争防止法】
(罰則)
第21条 次の各号のいずれかに該当する者は、10年以下の懲役若しくは2000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
…
二 詐欺等行為又は管理侵害行為により取得した営業秘密を、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、使用し、又は開示した者
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