第23話 「カイコ」って何ぷにゅ???
いや、それにしても、前回のオーランさんは「離婚」という単語が出てくるまでだいぶ前置きが長かったが、今回はそれと真逆で、直球できたな。あまりに直球過ぎて、そのまま答えていいのだろうか。いや、そもそも本当に「カイコ」すなわち「解雇」のことを質問しているのか?あるいは「蚕」か?「回顧」かもしれないぞ?
「ええっと、それは、その、どういう文脈で誰に言われたのでしょうか」
「ブンミャク?ってなんのことかわからないぷにゅ。おいらに言ったのは、セーヌ様ぷにゅ」
「なるほど、セーヌさんというのは、魔王軍四天王のひとりでしたね。つまり、あなたの属している組織の偉い方。そういうことでしょうか」
「そうぷにゅね」
「プニョンさんは、そのセーヌさんの組織の中では、どういう役割、どういうことをしているんですか?」
「おいらは魔王軍の中ではまだまだ見習いみたいなもんぷにゅ。そちらのシロイシさんと同じようなもんだと思うぷにゅ」
「わ、私と一緒……??」
「あ、そうなんですか」
城石さんはまだここの事務所に勤めているわけではなく、ただインターン生で仕事の体験に来ているだけだから、ちょっと違うかもしれないけれど、まあ、そこはいいか。
「だから、役割、仕事っていうのは、誰かから言われたこと全部ぷにゅ」
「ぜ、全部ですか?」
「んにゅ。ゴブリンのお頭に掃除をしろと言われれば掃除をするぷにゅ。オークの大将から言われれば肩もみもするぷにゅ。どこかに行って人間をやっつけろと言われれば、言われたとおり出陣するぷにゅ」
「ああ、そういうことですか。何となくプニョンさんの仕事上の立ち位置はわかったのですが、どういう場面でセーヌさんから『カイコ』って言われたんですか?」
「ある日、セーヌ様のお部屋に呼ばれたぷにゅ」
「はい」
「そして『あんたが問題のスライムね。あなたは『カイコ』するわ』って言われたぷにゅ」
「それだけですか?」
「それだけぷにゅ」
「うーん、それはですね」
うん、たぶん「解雇」ってことなんだろうな。
とりあえずこの言葉の説明をするか。
「『カイコ』ここでいう『解雇』っていうのは、おそらくものすごく簡単に言えば、あなたはもう魔王軍の一員じゃないから、ここで仕事しなくていいですよ、みたいな意味かな」
「んにゅうぅううううう!!??」
あ、随分とショックを受けているようだ……
青い身体の色が何だか青白くなっているような……
そうだよね。人間の会社でだって、身に覚えのない解雇をいきなり通告されたら、ショックだもんね。
「セーヌ様がおいらにそんなことを……おいら、もうセーヌ様にとって不必要ってことぷにゅ?もう魔王軍には戻れないぷにゅ??」
「うん。文脈的には、そういう風に考えられますけど……」
「ぷにゅぅううううう!ひどいぷにゅ!あんまりぷにゅぅぅううう!」
「そうですね。私の国の考え方でも、労働者、つまり働いている人をいきなり解雇するっていうのはそう簡単に有効と認められるわけではありません。たとえば勤務態度なんかが問題になるケースでは、いきなり解雇するのではなく、まず注意や指導をして、それでも改善されない場合に解雇を検討する、ということもあります。私の国では、解雇するには『客観的に合理的な理由』があって、『社会通念上相当』といえることが必要なんです。この要件は、そう簡単に認められるものではない。でも、プニョンさんのお話で、ちょっと引っ掛かるところがあったんですよね」
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【参考条文:労働契約法】
(解雇)
第16条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
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「んにゅ?」
「セーヌさん『あなたが問題のスライムね』って解雇っていう言葉の前に言っていたんですよね」
「んにゅ」
「それって、何か心当たりあります?」
「おいら、光の勇者たちと仲良くなってしまったぷにゅ」
「ん、それって、どういうことですか??」
「光の勇者一行」は、マリンダさんの相談のときにも登場していた。マリンダさんの夫を殺したとされる人たちだ。おそらく、というか確実に、魔王軍と敵対する存在なのだろう。どうやら魔王軍を討伐した後、魔族と人間が手を取り合える世界を目指しているというのが前回のマリンダさんの話からうかがい知れたことだ。決して悪い奴らではないような気がする。というか、ロールプレイングゲームだったら勇者たちの方が正義の味方で、魔王軍なんて危なそうなやつらの方が倒すべき敵となる。プニョンさんが勇者たちと仲良くなってしまったというのも、想像に難くない。
しかし、そういった情報は、プニョンさんにお伝えすることはできない。マリンダさんから相談を受けていたということも含め、弁護士には守秘義務があるのだ。関連する予備情報でも、マリンダさんの話をここでプニョンさんに伝えることはできない。
「んにゅ。おいら、ある日、同じスライム族のブニン先輩に呼ばれたぷにゅ。『おれが勇者をやっつけて手柄を立てるから、お前もついてくるぶに』って」
なるほど。ブニン先輩とやらの語尾は「ぶに」らしい。
いや、まあ、そこはどうでもいいのだが……
「はい。それで、一緒に付いて行ったのですか?」
「んにゅ。ブニン先輩は、おいらの100倍くらいでっかいスライムぷにゅ。おいらとブニン先輩も入れて、8匹くらいのスライムで、勇者たちに襲い掛かることにしたぷにゅ」
「ふむふむ」
「草原の中で勇者たちに闘いを挑んだおいらたちは、あの強かった勇者たちと互角の勝負を繰り広げたぷにゅ」
「おお、すごいじゃないですか」
光の勇者たちは、マリンダさんの夫が守っていたというバレル城を陥落させた程のツワモノだ。一城を落とすという一行に、たった8匹で互角の闘いをするなんて、スライムたちは結構強いのか?
「ブニン先輩が、その巨体を生かした突撃をして、勇者一行のひとり、怪力自慢の戦士に致命傷を負わせたぷにゅ。もう少しであいつを倒せるかもしれないというところで、ブニン先輩からおいらに号令がかかったぷにゅ。『お前も突撃ぶにぃ!』って」
「おお!」
え、勇者一行をかなり追い詰めたのか?
本当に、相当強いのか?
スライムって言ったらどちらかというと、昔遊んでいたロールプレイングゲームの影響か、雑魚モンスターというイメージだったけれど、今時はそうでもないのか?
「おいらは、この命全てをかけた突撃を試みたぷにゅ。そうしたら……」
「そ、そうしたら……」
「その怪力自慢の戦士は、おいらの突撃を受けて……」
「はい……」
「何と!体力を全回復してしまったぷにゅ……」
「……は?」
「……え?何で??」




