8 - 嵐の前の静けさ
部屋の中で、Kと朱里の二人きりだった。
「以上が今回の作戦の報告になります」
朱里は真剣な態度でKの前に立ち、今回の作戦の報告した。
作戦が終わった後、小隊の全員は自分たちの長官に報告しなければならず、朱里はいつも一人で報告していた。
ただ、今回はもう一人が来るはずだったが、その人が来られなくなった。
「そうか…お疲れ様」
Kは資料を研究しながら、朱里の報告を聞いていた。
Kの反応がないのを見て、朱里は問いかけた。
「本当に、あの作戦は何だったんですか…」
朱里の質問にKは顔を上げずに答えた。
「ただの…奇襲作戦…何か問題がありますか…」
朱里はKの返答に怒りを覚えた。
「何が問題…なのですか?私がいなかったら、その作戦は失敗していたでしょう? それに、なぜこんなに早く行動を開始する必要があったんですか? 普通は調査が終わってから行動するものですよね」
「今回は敵の情報が不明なまま奇襲を行った、もし相手が人間でなければ全滅するところでした!」
朱里の非難に直面しても、Kは資料を研究しながら答えた。
「だから、あなたを送り込んだんですよ…あなたがいるだけで最悪の状況に陥ることはなかったはずですから」
「それに、あなたは私の期待通り能力を使っていじゃないですか…朱里さん」
Kは顔を上げ、朱里が怒っていることに気づいた。
「体に問題はないですか?自分の限界を超えた能力を使っていないといいですが」
朱里は少し不快そうに答え、Kに言いました。
「何も問題ないですよ、体調はとても良いです、長官!」
Kは朱里の反応を見て、少し低い声で言いました。
「そうか…あなたが問題ないと言うなら、それでいいわ…」
この時の朱里の気持ちがあまり良くないことは、Kもよく理解していました。必要なことを早く終わらせて、朱里に家に帰ってもらうことが最善策だと考えていました。
でもKは手元の資料を素早く読み終え、閉じた後に指先をイライラさせながら机を叩きました。
「それで、もう一つ質問があります…その人のこと、どう思いますか…」
質問を聞いた朱里は表情を変え、少し困惑して考えた後、Kに答えました。
「その人…どなたのことをおっしゃるのですか…」
もちろん、朱里はKが聞きたい人物を知っていましたが、朱里はその質問に答えたくありませんでした。
Kは朱里の反応に驚き、朱里が自分が聞きたい人物を知っているはずだと理解していました。
「今は…タイチと呼ばれていますが、彼の能力はどう思いますか?」
「能力という点では、以前の回答と同じで、特筆すべき能力はありません」
「では、何か異常がありますか?」
朱里はKの質問にどう答えるべきか分からず、内心で2つの異なる回答を考えていた。
しばらく考えた後、朱里は深呼吸して目を閉じ、その後、目を開いてKに答えた。
「いいえ、異常はありません」
Kは朱里を見つめ、再び尋ねました。
「本当に…問題はありませんか?」
「はい、問題ありません」
Kは真剣に朱里を見つめ、何も言わずに少し考えました。しばらくして、朱里の回答が変わらないことに気づき、話を続けました。
「わかりました…能力を使わなくても大丈夫です…あなたの判断を信頼していますから」
朱里はKの話を聞いて目を閉じ、しばらくしてから再び目を開けました。
これは…朱里が長官に嘘をつくのは初めてでした、過去には任務上でKに対して嘘をついたことはありませんでした。
心の中では少し気が引けていたもの、朱里はよく分かっていました。正直に報告すれば、Kがどんなにいい人いようとも、タイチは組織に処分されてしまうだけです。
どうにかして、朱里はこのような状況を避けたいと思っています。
話しの途中で、Kは朱里の手に持っているものに気づき、ますます彼女にすぐに去るよう確信を持ちました。
「それでは、今すぐ出ていってもらって構いません」
Kは早口で言って手を振るようにして、朱里に早く去るように促します。
しかし、朱里は立ち去ることなく、手にはファイルを持っています。
「私のほうにも問題があるんですけど…」
朱里が話し終わる前に、Kは先手を打って朱里の言葉を遮ります。
「あなたの問題には答えられません」
「すべての情報は個人ファイルに書かれています。ファイルに書かれていない内容については答えられません」
Kは朱里が尋ねようとしている内容を理解しており、自分の立場に先んじて回答することを決定します。
朱里はKの反応をある程度予想していましたが、それでも少し面白みがないと感じていました。
「あなたは上層じゃないんですか...答えられないものがあるんですか…」
「無理なことは無理です」
「私たちの関係も駄目なのか?」
「規則は規則だ」
「たとえその人が私のパートナーだとしても?」
「必要な情報は全て書かれています。個人情報、成績、過去の経歴。手に持っているのはそれでしょ?」
Kの機械的な反応に不満そうな表情を浮かべながら、朱里は尋ねた。
「あなたが言う、白紙と同じの用紙のことですか?」
朱里が手に持っているファイルには、個人情報や成績は記録されているが、経歴に関しては簡潔に一文しか書かれていなかった。
5年間ハヤブサ小隊のメンバー
ファイルには目立ったところは何もなかった。
朱里は信じられない気持ちでKに尋ねた。
「これって上層部の意向ですか…任務だけじゃなく、記録まで…」
朱里は、どこまでKが理解しているのか分からず、不満をぶつけた。
Kはため息をついて、関係者しか知り得ない情報があることをどこまで朱里が理解しているのか分からず、適当に話を続けた。
「もしあなたが、何か書かれていない情報があると感じた場合は、それは閲覧禁止の情報ということです」
朱里は自分が聞いたことを信じられなかった。
「あなた、それ、本気で言ってるんですか…」
「私はスカーレット小隊の一員です。組織内の閲覧権限はかなり高いですよ」
スカーレット小隊のような精鋭部隊は、基本的に全ての情報を閲覧できる権限があることを朱里は知っていた。
朱里の身分ですら閲覧できないのであれば、それ以上の権限は組織の上層の者しか閲覧できません。
Kは朱里の言葉に何の反応も示さず、この問題については、朱里がどれだけ失礼な態度を取ろうとも完全に受け入れることに決めました。
「話は変わるけど、この成績って何?本当に正しいなの?」
「資料にはそう記録されているので、あなたが疑問があれば、彼の前の長官に直接尋ねることができます」
Kは強い目つきで朱里を見据え、何も言い返さないことを示しました。
朱里は同じ目つきでKを見据え、自分に有用な情報を得られないことは帰らないと表現しました。
その瞬間、部屋には冷たい雰囲気が漂っていました。
朱里が文句を続けようとしたその瞬間、部屋のドアがノックされ、女性が入ってきてその雰囲気を打ち破りました。
「何か用ですか?こちらは会議中です」
Kが先に話してこの状況を打ち破りました。
女性はKの言葉に驚いて戸惑いましたが、外に戻ることを決めたのですが、自分の目的を思い出して話を続けることにしました。
「長官、緊急事態の報告があります!」
「…続けてください…」
女性は部屋のもう一人の人物である朱里であることを確認した後、話を続けました。
「昨日逮捕された武装集団に関して、彼らの証言と実際の状況が異なるようです」
Kは少し悩んでいるように、その女性を見つめた。
「どうしたんだ?」
「銃の数が合わないんです…」
Kと朱里はそのことを聞いて、顔をしかめた。彼らにとって、この情報はあまり嬉しくないものであった。
「証言は確かなのか?」
「複数の人たちが審問後に言ったことですから、本当でしょう…彼らはこの作戦の前に、一度取引があったと言っていました」
「取引を担当した人は?」
「戦闘で負傷し、その後死亡したそうです。他のメンバーたちは取引相手が誰なのかわからないようです。その人がすべて担当していたようです」
「一つの買い手ではないとか…」
途中で朱里が口を挟んだ。この状況は予想外であり、朱里とKは銃が配分されていたことを思いもしなかった。
「記録は残っているのか?」
「それが…ないんです…」
Kはしばらく考え込み、非常に苦悩しているように見えた。
しばらくして、Kはその女性に命令を出した。
「どんな手段を使っても、残りの人たちからすべての情報を引き出せ!」
この命令を聞いた朱里は、その集団の人々が生きて帰れる可能性は低いと感じた。
女性は命令を受け取り、部屋を出て、その命令を取り調べの人に伝えるために行った。
Kは朱里を見返し、ため息をついた。
「聞いてるでしょ、これで終わりだ。今はあなたの問題に時間を割けない」
「そうですか!」
朱里は気分が悪かったが、Kは自分の質問に答えてくれないことを理解していた。
朱里はドアノブを握って部屋を出ようとしたとき、Kに向かって言った。
「あなたがその武器商人を捕まえることができたのは、タイチの犠牲があったから忘れないで!」
その夜、タイチを襲撃したのは他でもなく、タイチと縁がある人物だった。
タイチと朱里が調査任務中に路地で出くわした人物だ。
調査の結果、彼は武器商人であることが確認され、今は拷問されているはずだ。
Kは朱里に対して一言だけ返答した。
「君こそ、立場と着ているローブの重みを忘れるなよ。スカーレット小隊の…朱里」
これを聞いた朱里は不機嫌そうにKに顔を作ってドアを強く閉めた。
朱里が部屋から出て、何も落ちていないことを確認した後、悩んでいるKだけが次の行動を考えていた。
Kは自分の椅子で頭を抱え、ため息をつく。
「全く…問題は次から次へとやってくる。しばらくは忙しそうだな…」
もう一方で、二人の男が廃墟の建物で仲間の帰りを待っている。
やがて、1人の少年が建物に入り、彼らと合流した。
「取引をキャンセルしたのは正しい決断だった、彼らはもう消えたみたいだな」
建物に入ってきた少年が言うと、角に座っていた男が答えた。
「彼らの行動はあまりにも素人ぶりだった、その行動は組織に見つかるに決まっている」
フードをかぶった男も会話に加わった。
「僕たちが隠れ場所を提供してあげたのに、こんなに早く発見されるとは思わなかったな」
「彼らが上陸した時点で既に狙われていた、時間の問題だった」
「あの素人たちだったとは、本当に予想外だった。さて、商品はどうなった?」
「他のバイヤーに売りさばいたらしいな。ああ、早く去れていれば生き残る道もあったのに」
「狙われた瞬間から、この国を生きて帰ることはできなかったんだ」
隅に座っていた男はただ平静に話した。彼はナイフを肩の前に置いていたが、その姿勢だけでも異様な雰囲気を漂わせていた。
さっき建物に入った少年は、隅の人の態度や発言に不満を感じていた。
「お前、危険だと言い続けているけど、どれだけ潜伏しなければならないんだ?数ヶ月も経ったぞ!」
彼にとって、別々の都市で秘密裏に生活する数ヶ月はもう我慢できなかった。
しかし、その少年に不満を持っても、隅の男性はいつも通りの平静な態度で返答した。
「まだだ、組織は私たちを警戒している」
「はあ、またその返答かよ!」
少年が手を動かそうとするのを見て、フードの人が口を開いた。
「ちょっと、お互い仲間だろう。手出しはしなくてもいいじゃないか」
フードの人が話し終わると、その少年は手を引っ込めた。
しかし、隅の人はその少年の行動に対して何もせず、フードの人はこの雰囲気に少し残念に感じた。
「でも、まだ時は来ていない。もう少し待て、時が熟すると大暴れできるぞ」
フードの人が発言すると、その少年はもう何も反対や不満を言わなかった。
「では、今回は失敗だな…そうなったら、行こうか…僕たちの美しい未来のために」
フードの人が話すと、彼は出口に向かって歩き始め、先ほどの2人も後を追った。