第201話 黒幕はあの人だった
『落とし子』のグンタイを倒した後、影空間に隠れていたウミウシを、メロンちゃんと影魔が探し出して全て始末しました。
これで再び『落とし子』が現れる事はないでしょう。
ポチャリーヌは、カエラス家を包んでいたバリヤーを解除して退避していたヘンリー達を入れました。
「あ! そう言えば、避難しているドラゴン族の人達を元に戻さなきゃ」
うっかり忘れるところでした。
放置してると、ドラゴン族の護衛をしているジョッカ様が拗ねてしまいます。
「そうであった。早くジョッカ様に終わったと伝えないと、拗ねてしまうぞ」
「そうなのですぅ、拗ねてしまうのですぅ」
どうやらみんなは同じ事を考えたようです。
「じゃあすぐに行って来るのだ。ドラゴン達を元に戻すのは大変だが、ミミエルも居るので、4人で手分けすれば早く終わるな」
「え? 何をするんですって?」
状況がいまいち飲み込めないミミエルですが、ラビエルが有無を言わさず引っ張って行きました。
そしてバハムートですが、訳も分からずミミエルに連れて来られたそうです。
「王都でナナミィちゃん達が、魔物に襲われて危ないと言われて」
さらにバハムートの姿で行った方がいいと言われて、変身して来たんだって。
あの子は有能なくせに、余計な事をしてくれたな。
そんなバハムートも、グンタイが討伐されたので、今は元のアリコーンに戻っています。人間の姿じゃなくてアリコーンなのは、女神の討伐隊の一員だと知らしめるためです。これはポチャリーヌのアイデアね。
そのおかげで、ヘンリーさん達は跪いています。
何と言っても、ムート君は女神様の息子ですからね。本人は居心地悪そうにしてるけど。
それにサミルさんの手前、人間の姿じゃ嘘をついたのがバレてしまうからです。サミルさんが女神様を訪ね歩いた時に、女神様とは無関係な家だと思わせたのに、ムート君が女神の息子だと分かれば、大騒ぎになっちゃうからね。
そう考えると、ミミエルの判断はナイスと言わざるを得ないでしょう。
カエラス家の屋敷が壊れたので、使用人さん総出で瓦礫の後片付けをしに行きました。ヘンリーさんと仲間達は、事情聴取のためにポチャリーヌが連れて行きました。サミルさんとドミィルさんは、カエラス子爵の介抱をしています。
それとペリゴールさんが、様子を見に来てくれました。
サミルさんの祖父のダスティさんは、メチャクチャになった庭の片付けを、ケットシー三姉妹と一緒にやっていました。
「あ~~~ナナミィ、無事だったぁ~~~?」
しばらくして帰ってきたジョッカ様が、あたしに飛び付いて来たよ!
「ちょっ……そんなに強く巻きつかないで~」
そんで、いつも通り巻きついて来たよ。
ジョッカ様は一通りあたしの無事な姿を確認した後、まだ気絶している子爵の所に行きましたが、嫌な予感しかしません。
「何があったか、ラビエル達に聞いたけど~~」
ジョッカ様の声がすごく冷たい。
サミルさん達はヘビに睨まれたカエルの如く、動けなくなっていました。
「ドラゴン族を、ナナミィを殺そうとしたのね? 私の可愛いナナミィを虐めた罪は万死に値するわ」
と言って牙を剥き出しにしました。
しかも牙から、ヤバそうな緑色の液体が出てるよ。あれって毒なの? ヘビの毒って、黄色い色じゃなかったの?
「ちょっ……待ってジョッカ様、何をするつもり?」
「何って? 腐敗毒と神経毒を合わせた最強の毒液で、重罪人を葬ってやるのよ」
「わ~~、待ってやめてストップ! せめて裁判を受けさせてあげて!」
「……チッ」
なんだか激おこのジョッカ様をなだめて、死刑をやめてもらいました。放っておくと、あたしが見ていない所で噛みつきそうなので、ジョッカ様を抱えて子爵から離れました。
さすがに3mもある体は重くて、抱きかかえるのも一苦労だ。
「あれ? ヘビは平気になったのナナミィ」
「いや、どうでしょう。ジョッカ様の事は、もうヘビだとは思えなくて。あ、でもフーギン様なら前から平気でしたよ」
「ああ……そうなの。クソ、フーギンの奴に負けた気分だわ……」
姉としては、複雑な気分なのでしょう。
「奴らから大体の事は聞いて来た。しかし、大した事は聞けなかったが、子爵と先代子爵からならば、色々分かるだろうな」
事情聴取を終えたポチャリーヌがやって来ました。
そんなに成果が無かったみたいです。
「子爵はまだのびておるか、しょうがない腕を治してやれムート」
「う……うん、分かった」
ムート君は額のツノを、子爵の折れた腕に向けました。ツノが光ると、腕も治っていきました。
治る前は酷い状態だったから、治っていくのがよく分かります。骨がバッキバキに折れて、筋肉も潰れたからか内出血で赤黒くなっていたからです。
まあ、あたしを罵倒した事はムカつくので、同情なんかしませんがね。
「すごいねムート君、治癒魔法も使えるようになったんだね。女神様みたいだ」
「今までは使えなかったけど、魔力が上がってからは使えるようになったんだよ」
「治癒魔法は人でも使えるけど、これほどの威力の魔法は、アリコーンの特性なんだろうな」
などと話しているうちに、全部治ってしまいました。
まだ気が付かないので、あたしが尻尾でぶっ叩いてやりました。
あ~~スッキリ。
「うわぁっ! 腕がぁっ! ……な……なんだ?」
飛び起きた子爵が、自分の腕を見て不思議がってた。腕が治ってるので、あれが夢だと思っている?
「起きたな、後は先代子爵か。じゃあまた頼むぞムート」
「分かった」
そう言うとまたツノが光って、庭の修繕をしていたダスティさんが引っ張られて来ました。
「な、なんじゃあ? これは魔法なんか?」
ダスティさんがスコップを持ったまま驚いていたけど、あんな騒ぎがあった後なのに庭いじりとはフリーダムすぎる。
「揃ったな。じゃあ色々と聞かせてもらおうか」
ポチャリーヌは子爵達の前で仁王立ちで言った。9歳の少女が、虚勢を張ってるようにしか見えないけどね。
「お主らがドラゴニアの領主の座を我が家から奪って、ナダム子爵を領主に据えようとした事は明白である。そこは王宮の担当官に調べてもらうとして、問題なのはこれだ」
ポチャリーヌが収納空間から取り出したのは、例のサモン・スタッフです。
「これが何をする魔道具か知っておろう?」
「それは……魔物を……召喚する物だ」
子爵は言葉を選びながら言いました。
「そうだ、魔物を召喚する事自体は罪に問われる事は無い。じゃあ何が問題か?」
そう言ってサモン・スタッフを、子爵に突き付けました。
「これが邪神を召喚する物だからだ。しかも召喚の際に、ドラゴン族を殺すように命令する機能付だ」
「な? そんな事は聞いていないぞ!」
子爵は邪神と聞いて驚いていた。
「どうやらこれは、特定の邪神を狙って召喚するようだ。聞いていない、と言う事は貰ったか作らせた物だな。相手は誰だ?」
「……それは言えない」
子爵はポチャリーヌから目を逸らした。よほど相手に義理でもあるのかな?
子爵の反応を見たムート君が前に出た。
「カエラス子爵、邪神を召喚などしたら重い罪に問われますよ。最悪、召喚に関わった者全員処刑もあり得ます。あなたにダスティさん、ヘンリーさんとそのお仲間、それにタマとクロもです」
女神様の息子の白いアリコーンに恐ろしい事実を突き付けられて、子爵とダスティさんは青くなっていました。
「すると残るのは娘のサミルだけだな。爵位も剥奪されるから、カエラス子爵家はお終いだ。助かりたくば、全てを白状する他はないぞ」
「あ……あれは、さるお方から頂いた物だ……」
「で、それは誰だ?」
「エルフのリヒテル様だ」
ここでその名前が出るのか。
エルフのリヒテルはあたし達を騙し、古代兵器でディアナ様の空中神殿を攻撃した悪い奴です。自分を慕っていたスピネルさんを、物のように捨てた事は許せないぞ。
思い出したらまた腹が立って来た。
ポチャリーヌの護衛のスピネルさんも、この場で話を聞いています。
「……そう……あの男が……」
ポツリと言いました。
まだ未練があるのかな?
でも女性って、見限った男から気持ちが離れるのが早いって言うし、もう何とも思ってないかも?
いや、むしろ愛情が反転して憎しみに変わっていそうだ。あれ? 好きの反対は嫌いじゃなくて無関心だったかな?
スピネルさんも落ち着いているみたいだし、取り敢えずは心配無いみたいです。
「あのお方が我々の思想に賛同して下さり、サモン・スタッフを授けて下さったのだよ。もしもの時は使うようにとな」
ダスティさんが教えてくれました。
「人の意識を支配して、操る事が出来るあの薬もか?」
「……そうだ」
子爵が躊躇いながら言いました。
洗脳や他人を操る魔法や薬の作成・使用は犯罪になるからです。
「リヒテルがカエラス子爵をそそのかして利用した訳だな。アリエンティ家を狙ったというより、目標はドラゴン族か?」
ポチャリーヌがあたしを見て言いました。
「そう言えば、トロナさんを女神にするために、前の事件を起こしたんだものね。あたしが邪魔になったんでしょうよ」
そうです、あたしと同じく女神候補のトロナさんを女神にしたくて、空中神殿を攻撃してディアナ様を殺そうとしたのです。
あたしの活躍でリヒテルの陰謀は阻止されました。
あたしがいなくなったからって、トロナさんが女神になれる訳じゃないでしょうに。女神候補はまだ100人ぐらいいるし、そもそもトロナさん自身が女神になりたいと思っていません。
「それに……奴はどうやって邪神の召喚方法なんて知ったのだ? それとも、まだ仲間が居るのか? 何にしても、奴を捕まえてみなければ分からないか……」
ポチャリーヌがブツブツ言っていました。
まだまだ安心は出来ないと言う訳ですね。
余談になりますが、カエラス子爵もペリゴールさんの教え子だったそうで、思いっきり説教をくらっていました。
子爵は恐縮しきりだった。
その後子爵は、王宮から来た騎士に連行されて行き、この件は王宮に任される事になりました。ここから先は、討伐隊の仕事じゃありませんからね。
これにて王都での活動は終了。
さあ、帰りましょうか。
……そうだ、ディアナ様へのお土産を買わなくては。




