第202話 ナナミィ、お土産を催促される
翌日、あたし達は揃って王宮に来ています。
むろん、国王に事の顛末を説明するためです。この前は人間の姿で王様に会ったけど、事件が解決したのでドラゴンのままで会いに来ました。ムート君は逆に、人間の姿になってます。
会う場所も前と同じく、王様の応接室でした。
「まあ皆さん、ご苦労様」
部屋に入ると、美しい女性に声を掛けられました。
一瞬、王妃様かと思いましたが、その女性はあたしのよく知っている……
「ディアナ様? なぜここに?」
そうです、女神様が人間の姿になって、王様の横に座っていたのです。
「あなた達に早く会いたくて来ちゃいました」
女神様が、てへぺろって感じで言いました。
自由すぎるぞこの女神様は。
「……母上……」
「……ディアナ様……」
ムート君とミミエルが呆れていました。
うん、言いたい事は分かる。
今まであった事、どうやって決着が付いたのかは、ポチャリーヌが話してくれました。こういう時、魔王は頼りになりますね。
「それで……カエラス子爵はどうなるのでしょうか?」
あたしは気になる事を聞いてみました。
正直、子爵がどうなろうといいのですが、サミルさんやドミィルさん、それにケットシー三姉妹の行く末が心配です。
ヘンリーさんは……まあ少しは心配してあげましょう。
「そうですねぇ……、サモン・スタッフと言う魔道具が、邪神を召喚する物だと知らなかったみたいですし、その事で罪に問うのは出来ないでしょう。あ、でもポチャリーヌさん達を襲う目的で魔物の召喚をしたのは事実なので、そこの罪はまぬがれないですね」
ディアナ様は少し困ったような顔で言いました。
「それで、ポチャリーヌ殿はどうしたいのかな?」
今度は王様がポチャリーヌに問い掛けました。
「そうですわねぇ……私としては、貴族同士の問題としておいて欲しいところです。討伐隊案件になってしまうと、処罰される貴族の家が増えてしまいます。そうなると無用な軋轢を生んでしまい、結果的に幾つかの家を潰す事になりますしね……」
と言って、ポチャリーヌはニッコリ笑った。
……ああ、これはゼッタイ酷い事を考えてるぞ。喧嘩を売ってきた奴らを、嬉々として潰して回りそうだ。
しかも、この子なら実行してしまえるだけに怖いよ。
「それに、人族至上主義者がただの同好会レベルの集まりでしたものねぇ。他に賛同者も居ないようですし、彼らの処遇は王宮に任せますわ」
ポチャリーヌはこれ以上は突っ込まないで、これでお終いにするようです。
……まあ、ポチャリーヌが一人で解決しちゃったら、王宮のメンツ丸潰れですもんね。それに面倒くさそうでもあるし。
「それで、ナナミィさんの抱いている、可愛いウサギはなんなのかしら?」
さすが、可愛いもの好きのディアナ様が、メロンちゃんに気付きました。
「なにやら変わった魔力を感じますけど……」
「ああ……、アブホースさんの分身に、あたしが姿を与えたからでしょう」
「アブホースさんって? ナナミィさんのお知り合い?」
「あたしじゃなくて、ラビエルの知り合いの邪神さんですね」
その場のみんながラビエルに注目しました。
「邪神……ですか?」
邪神と言う言葉に引っ掛かったのか、ディアナ様が真顔になったよ。
「え?……えっと、使徒になる前に会った事が何度かあったのです」
ラビエルも真顔のディアナ様にびびっています。
あたしだって緊張するよ。
ディアナ様はラビエルをじーっと見てましたが、すぐに笑顔になられました。
「そう言えばそうでしたね。忘れておりました」
「そうですよね~、なにぶん昔の事ですし……」
ラビエルはあたしの方を見て、言葉を濁したみたいだ。
あたしが眉をひそめているからかな?
まあ、ドラゴンに眉はありませんけどね!
それよりラビエルは、自分の過去を隠したがっているみたいです。前世はかなり強力な魔物だったみたいだけど、邪神と知り合いだなんて謎が多いです。
ハッと気付くと、ディアナ様のご尊顔が目の前に。いつの間に。
「あなたお名前は?」
「初めまして女神様。わたしはメロンなのです」
「まあ可愛らしいこと♪」
と言って、メロンちゃんの頭を撫でて下さいました。
「メロンちゃんを通じて、アブホースさんはこちらの様子が分かるんです」
「へぇ~~~、じゃあ向こうに、私の顔も見えてるのかしら?」
ディアナ様は、メロンちゃんの目を覗き込みました。
『そこの女神は随分気さくな感じじゃないか』
「あ、アブホースさん。そうです、お優しくて大好きな女神様なんです」
いきなり頭の中に話し掛けられたので、思わず答えてしまいました。
目の前のディアナ様は、あたしに突然大好きと言われてポカンとしておられます。
「え~と、今アブホースさんに話し掛けられたんです」
「あらまあ、そうなの?」
「そうなのです。ディアナ様は美人だと言っているのです」
「あらまあ♪」
アブホースさんって、おべっかも使えるんだな。
美人って言われたディアナ様も、まんざらでもないようです。
「……メロンの奴め、ディアナ様に取り入りよって……」
「……ナナミィさんの腕の中は私のものなのにぃ……」
向こうでラビエルとリリエルちゃんが恨めしそうに見てる……
後でケアしないと、暴走しそうだな。
「では、これで報告は終わりましたね。私達は戻らせてもらいます」
ポチャリーヌがそう言い、あたし達のお役目は終わりです。
後は王都の観光だね。
「そうそうナナミィさん、お土産楽しみにしてますよ♪」
まだ終わってなかった!
一番厄介な問題が残っていたよ! 女神様に何をあげれば喜ばれるのか、全然分からないよ。
っていうか、ディアナ様ってば王都に来てるじゃん。
お土産いらなくね?
「そんなに難しく考えなくても、あなたが貰ったら嬉しい物でいいのですよ」
「はあ……、えっ?」
誰かがあたしの尻尾をポンと叩いていったと思ったら、そこには見慣れたペンギンさんが……
「では皆さん、ご機嫌よう~」
帰っていくディアナ様の横に、いつの間に来たのかペギエル様がいました。
ディアナ様と一緒に転移ポータルに入って行ったけど、何しに来たんだあのひとは。
まさか、自分のお土産を催促に来たとか?
ますますプレッシャーになるよ。
「わたしはこれにて帰らせてもらうの」
「え?」
メロンちゃんが帰るって言ってる。どう言うコト?
「落とし子のことが終わったので、わたしはいらなくなったの。だから元の場所に帰るのよ」
「え~~~そんな! もうお別れだなんて~~!」
「それは大丈夫なの。わたしは七美ちゃんの使い魔だから、ずっと繋がってるのよ。だから呼ばれたらすぐ行くからね」
そう言うとメロンちゃんは、あたしの影に飛び込んで行ってしまいました。
邪神の分身だからか、別れを惜しむとか、後ろ髪を引かれるとかは無いみたいで、さっさと帰って行っちゃった。
「あぁ~~~……」
あたしはがっかりして、大いにため息をついた。
ラビエルの方をちらっと見たら、リリエルちゃんと一緒にハイタッチをしてた。
「七美も気を落すでないぞ。気晴らしに買い物にでも行くか?」
「そうですぅ、お土産を買いに行くといいですよ~」
なんて、嬉しそ~うに言いおった。
しかたないので、観光がてらお土産を買いに行くか。
やって来ました、王都の商店街。
王宮のある中心部より、2kmほど行った場所にいろんな商店が集まっています。そこにサミルさんの案内で来ました。
どういう訳かムート君も一緒にいます。
「それが……母上が僕にもお土産を期待してて……」
ムート君、ここに来た事で巻き込まれたんだね。大人しくお家にいれば、お土産を待つ立場だったのに、下手に王都に来たから……
「まあまあ、賑やかで良いではないか。我が輩が軍資金を出してやるから、買い物を楽しもうぞ」
ラビエルがご機嫌だった。
メロンちゃんがいなくなったからだろうけど、露骨だぞ。でも、お金を出してくれるのなら、思いっ切り高い物を買っちゃおうかな。
「まずどこに行こうか?」
あたしはポチャリーヌとムート君に聞いてみました。
「妾はどこでもいいぞ」
「母上に買うお土産なら、ベイス商店に行けばいいんじゃない?」
ベイス商店と聞いて、サミルさんがピクッとしました。そう言えばサミルさんてば、女神様ガチ勢だったね。ドラゴニアでもあちこち探し歩いたっけか。
「その店はドラゴニアにもあるんだろう? それにディアナ様は常連だそうだから、今更我らが何か買って行ってもしょうがあるまい?」
ポチャリーヌにあっさり反対されて、サミルさんガッカリだ。
「え、なに? あなたディアナ様に会いたかったの? 残念ね、さっきまで王宮にいらしたのに」
ミミエルに言われて、超ガッカリなサミルさんだった。
「じゃあ何を買おう?」
と、ムート君。
「お土産は、自分が貰って嬉しい物がいいと、聞いた事がある」
「フム、なら妾は魔道具が欲しいな」
「あんたの好みなんか聞いてない」
「ならお主は何がいいと思う」
「あたしなら可愛いキャラクター物かな?」
「「ええ~~?」」
自分の欲しいモノを言って何が悪い。
3人で話し合ったけど、これと言ったアイデアは出ず、早々と行き詰まってしまいました。
結局無難に、アクセサリーと香水を買って行く事になったのです。
しかし、これがあんな事になるなんて……
後日ディアナ様は、隣国の王族や貴族に会いに行きました。
その時、たてがみにたくさんのヘアアクセを付け、普段は付けない香水を付けていた事から、巷ではディアナ様が再婚をするのではと話題になりました。
新聞にはお相手は誰かとか、次に生まれる子供は息子か娘のどちらかとか、特集記事が組まれる始末。
マスコミにインタビューされても、ニコニコ微笑むだけのディアナ様に、憶測が憶測を呼んで、さらにヒートアップ。
すっかり世界中が、この話題で持ち切りになりました。
しかし、事態の収束に乗り出したペギエル様のおかげで、この話題も間もなく収まって行きました。
……いったい、どんな手を使ったのか、怖くて聞けませんね。
ディアナ様はと言えば、ペギエル様に説教をくらって、しばらくへこんでいましたとさ。




