第九話 マーベラス突入作戦 前編-2
三人は八刃花隊の隊章が大きく書かれている扉を開け、隊舎へと向かっていく。
ラナンキュラスが隊舎内に足を踏み入れた瞬間、大勢の女性隊士に出迎えられた。
「やぁみんな。元気だったかい? あれ? 今日はちょっと少ないね!」
ラナンキュラスは隊士一人一人に声をかけ、やや離れた所で取り残される形になったジニアがキキョウに呼びかける。
「なぁ……キキ」
「はい」
「長ない?」
「はい」
「もう5分は経ってんとちゃうかな……長ない?」
「隊士を労うのは 隊長の立派な役目です」
「せやけど……これは」
「どこかの、デリカシーも気品も礼儀も威厳も思いやりも無く、食べるときもご飯粒は残し、
後片付けもしな──」
「ちょちょちょっ、あれ? 聞き間違いかぁ? ふっつうに悪口言われてる気ぃすんねんけど!!」
15分後──隊員達への労いも一通り終えて、ようやく隊舎内を進む三人。
「いやぁーしっかし派手やなぁー八刃花隊舎は! こんなキラッキラしとったら落ち着かんわ」
「フッ。すぐに慣れるよ」
「くっ……しかもすれ違う隊士が全員、女ばっかやないか!!」
「僕の隊は女の子の入隊希望者が多くてね。毎年、募集枠が瞬く間に女の子で埋まってしまうのさ」
「なんやねんそれ」
隊士たちの挨拶に手を振りながら応えるラナンキュラスと、独特の環境に違和感を覚えるジニア。そんな二人の会話の合間を見計らい、キキョウがラナンキュラスに声を掛ける。
「ラナンキュラス隊長。少しお聞きしたい事があるのですが」
「どうしたの?」
「なぜ、八刃花隊舎に損傷が見られないのでしょうか」
「ああ、簡単な話さ。アキレイがこの前戦った場所とは遠く離れているし
ここには幾重にも刃術を施してあるからね」
「せやで。八刃花隊は戦闘刃術特化の部隊やからな。この手の刃術は お手のもんやろ!!
まっ、俺んとこの副隊長も刃術は負けへんでぇ!」
「ちょっ!! ラナンキュラス隊長には流石に!!」
八刃花隊の特徴を語りながらも、自身の副隊長の実力も誇らしげに語るジニア。
唐突に矢面に立たされたキキョウは、比較対象の格に狼狽する。
「フフッ。僕は どちらかというと滅刃寄りだけど。キキョウ副隊長の噂は聞いてるよ。集団刃術戦が得意なんだって?」
「ああ!! せやから副隊長に選んだんや!」
「そうだったんですか? 私はてっきり子守かと」
「えぇえ!!」
「フフッ……相変わらず賑やかな隊だね。君のところは」
「いえ、賑やかなのはジニア隊長だけです。他の隊士達は真面目ですので」
「えぇえ!! そんなことないわ!!」
キキョウはジニアに冷やかな視線を送ると、
気を取り直す様に咳払いをしてラナンキュラスとの話を進める。
「ゴホン。それで八刃花隊の隊士の皆さんは
集団刃術も勿論ですが、三十番の刃術は使えるのですか?」
「もちろんさ。中には四十番の刃術を使える子も居るんじゃないかな?
集団刃術においては、二重詠唱以上の刃術が勝敗の分かれ目だからね。
複合刃術の組み合わせの数に関しては、千刃花で右に出る隊はいない。
うちの子達は皆、刃術の達人の集まりだよ」
「凄い……複合刃術も四十番台の刃術も、とても難しいのに」
「フフッ。僕が教えれば、誰だって簡単に出来るようになるよ。
僕らの隊と組むことがあったら、寸分違わぬ集団刃術をお見せしよう」
「後方支援に八刃花隊がいてくれたら、とても頼もしいと思います」
「女性隊士が多くなると、前線で戦うよりも
後方支援が多くなるからね。
四刃花隊みたいに 前線で戦いに明け暮れたりして、僕の大事な子猫ちゃん達に怪我なんてさせられないしさ」
刃術に秀でた隊士達による後方支援は、他隊であるキキョウも有用性を認め
後方支援特化に至った理由の一つである女性比率と
それに関する持論を述べたところで、ジニアは四刃花隊 隊長への印象を口にする。
「こ、子猫?まぁええわ。俺あそこの隊長苦手やわぁー
ホンマっ鬼畜やで」
「ああ、少し化け物じみてるね。
戦闘特化は間違いなく、死刃花隊と揶揄される彼処だろう。
それに内輪の喧嘩も多いから、何度修復依頼が来たか」
「各隊の特色が顕著なのも、千刃花の特徴ですね。
先ほどの隊長会議で、六刃花隊には 一刃花隊 隊長から罰則が課せられていましたが」
「規律と法を司る一刃花隊の任務の一環だね」
大規模な集団に必須であり、通常は主たる活動とは別の立ち位置に存在する法曹関連さえも組織内に存在する特異性を語るラナンキュラスを横目に、ジニアはまたもぼやき始める。
「あそこの隊長も苦手やわぁ──」
「隊長に得意な隊長なんているんですか?」
「えぇーんですぅ!! 普段、任務以外で会う事ないから
得意不得意なんて、関係ないんですぅ!
俺んことよりもラナン! はよぉ副隊長選ばなあかんで!
全部お前通してやってたら、回る仕事も回らんっちゅー話しじゃ!」
「副隊長かぁ……うーん。僕にこの子たちから
誰か選べなんて……そんなこと出来るわけないよ。この隊の一人一人が僕の副隊長さっ」
そう言ってラナンキュラスが周りを見渡すと
女性隊士達は黄色い声を上げる。
ジニアは、その独特の雰囲気に圧倒されていた。
「な……なんや……ここの隊は……」
「さて、着いたよ。先客がお待ちだ」
「先客て……?」




