第十話 マーベラス突入作戦 前編-3
「遅すぎる。また女共の尻を追いか──ん?
なんでジニアがいるんだ?」
開かれた扉の中は会議室。足音に気付いた赤髪の男が、待ち人に物申す為 入口に目を向けると、想定外の面子に対する疑問を口にした。
「ちょうどいいタイミングで居合わせてね。
あ、スミレちゃん。紅茶を4つ淹れておくれ」
ラナンキュラスは 室内で待機していた女性隊士にそう言うと、スミレと呼ばれた隊士は頬を紅潮させながら頷き、紅茶を淹れるに別室へと向かう。
「先客てアキレイか。俺も同じ用件でラナンに会いに来てん。この任務が振られんのはラナンみたいやし」
「では話が早い。情報によれば、帝国国境付近に新たな軍事施設が建造されてるらしい。
それは、日々増築されている」
「増築……隊長、やはりあれは」
「せやな。あれは軍事施設やない──兵器や!!」
ラナンキュラスが通路で渡された資料を開き、皆の視界に入る高さで前に突き出しながら ジニアは大規模な構造物の写真を示し、誰もが予想だにしない言葉を口にする。
「バカな! あんな巨大な兵器など見たことがない!」
「確かに、リナリーの資料だと建物にしか見えない。ジニア……説明してくれないか?
──あっ、ありがとう スミレちゃん。もう下がっていいよ」
ジニアの言葉にアキレイは驚き、ラナンキュラスはそれに同意し説明を求め、緊迫した空気の中で おずおずと紅茶を持って来た隊士に気付くと、優しく声を掛けて退室を促した。
静かに扉が閉められた後で、ジニアが説明を始める。
「俺んとこの隊は知っての通り、斥候と隠密を兼ねてる。
情報収集の為、常に国境、国内、他国、至る所に部下を配置してんねんけど
最近 不穏な動きを察知して、独自に隊を分けて調べてん」
「なるほど……隠密部隊三刃花の手腕をもってしても、ゲイジュの策略には気付けなかったのか」
アキレイの言葉を受けて僅かに眉根を寄せ、彼に目を向けながらジニアは返す。
「せやから会議でも言うたやろ。俺はアナスタシアを調べるのに反対したって。
それやのに皇帝とお前が言うから、他の事そっちのけでアナスタシアを調べたってんねんぞ!
普段やってる隠密にアナスタシアの件、
兵器の件! これでも頑張った方やわ!
それに、俺んとこでも気付かんかった。そん位ゲイジュの策略は完成されてたっちゅー話や」
「アナスタシアを疑っていたわけではない!
俺の隊も、お前の隊も、アナスタシアの潔白を証明するために動いた」
「わーっとる! 後からゴチャゴチャぬかさんといてくれや」
「みんな騙されたんだ。誰が悪いとか、そんな事は今更どうでもいいさ。
僕達 千刃花の任務は帝国の守護。
最終的に国は守れたんだ。今はそれだけで良い」
ジニアとアキレイが剣呑な雰囲気で言葉を交わし、ラナンキュラスが二人に声を掛けて場を収める。二人が落ち着いた頃合いを見計らって、キキョウが口を開いた。
「では話を戻します。これが分隊からの報告書です。見て分かると思いますが……浮いています。日々 増築されているのではなく、日々 進軍しているのです
──この ナーベルク帝国に」
報告書に添付された写真には巨大な構造物の下部が写っており、キキョウが指差す箇所は 通常ならば写る筈のない底面。
その写真を見て、アキレイは忌々しげに言葉を紡ぐ。
「ラミオラス帝国め……」
「それで次の任務がコレなんだね」
「そうみたいですね。分隊の報告によれば
軍事施設との記述は一切ありません」
「なんて書いてあるんだ」
「移動要塞マーベラス 」
アキレイの問いに、キキョウは報告書にある名称を読み上げる。
大仰な名称は自信の表れか。写真に写る要塞を見ながら、ラナンキュラスは口角を上げる。
「フッ 面白くなりそうだね。
移動要塞マーベラスといい、対鞘花戦闘魔進KARE8といい
技術があり得ない速度で進歩している。
一体、ラミオラスで何が起こってるんだ」
「KARE8か。残骸を調べてる所だが、まだ分かっていない部分が多い。
俺達が止めなければ、先の戦いより更に大きな被害が出るぞ」
「で、どないすんねや」
ラミオラス帝国の急激な変化に懸念を抱く二人に決断を促すジニア。アキレイはこれからの動きについて、彼ではなくキキョウに問い掛ける。
「三刃花隊は、もう任務に戻るのか?」
「いえ、二刃花隊の隊長、副隊長の隊葬が終わり次第任務に戻ります。
我々だけが途中で抜けてきたので」
「そうか。他の隊士たちも参加出来なくて
残念に思うだろう」
「はい。皆、悲しんでいました。
私もキスツス隊長にお世話になったので……
しかし今は、ラミオラス帝国の侵攻も
時間の問題ですし」
「だからこそ、千刃花内においても
攻撃力に優れた鞘花がここに二人
そして防御力に優れた鞘花が一人」
「フッ……そうだね」
「お前のことだ。そのつもりで来たんだろう? ジニア」
「フンッ」
故人を偲ぶ間もなく、めまぐるしい変化を続ける戦況に表情を曇らせるキキョウの憂いを晴らす様に、アキレイは自分とラナンキュラスを指で示し、最後に指差したジニアに問い掛ける。
ジニアは、自身を見透かす様な言葉を投げ掛けられると、否定せずにそっぽを向いた。
「では、少数精鋭で?」
「そうだな。今すぐ行くぞ。
既にリナリアが 移動用飛行魔進の手配と、整備を済ませてある」
「ほぉ、一番予算もろてる隊やからなー
ファーストクラスで頼むわ!」
「フフッ。ナーベルク帝国 魔進技術開発局 六刃花隊。
貴族のご子息ご令嬢が隊長、副隊長を務めてる隊だからね。紅茶ぐらい出してもらおうか」
「たかるな 貴様ら。六刃花隊の名誉にかけて
失礼のないようにするつもりだ」
「マッサージ付きやろな?」
「フン、ちょうどいい。
ヘラヘラとしてるお前たちに、灼熱のお灸を据えてやろう」
「ほう? お坊ちゃんがよう言いますのぉ!!
俺に炎が効く思とんのか?」
『天輪・トコ──」
三人の間の軽口はジニアとアキレイの挑発の応酬となり、ついには鞘解放を行おうとするアキレイを、ラナンキュラスが慌てて遮る。
「ちょっちょっ!! アキレイ!
ここで解放するなって!」
「そうですわ! アキレイ隊長!!
リナリアさんに何て言われるか!」
「あーほ!あーほ!どアホー!」
ラナンキュラスと共にアキレイを制止するキキョウは、なおも挑発を続けるジニアをキッと睨み、呼びかける。
「隊長!!」
「なんや?」
「隊長室にある
あの雑誌……なんて名前でしたっけ?」
「な、なんや……きゅ、急に……」
凄味のある口調と射抜く様な視線。
嫌な予感を覚えたジニアの顔はひきつり、言葉に詰まる。
それを見ながら、キキョウはわざとらしく思い出した素振りを見せ、殊更ハッキリと言葉を続けた。
「あぁそうでしたわ! 確かぁ……スク水エチエチパラダッ」
「わーーわーーわーー!!」
「フン。少女趣味か貴様」
「僕の隊に近づかないでくれ」
キキョウが言い終わる前に大声で遮るとするジニアだったが
明らかにいかがわしいタイトルを聞いた二人は、一歩引いて冷たい視線と言葉で彼を射抜き
それを受けて、ジニアは先程の勢いが嘘の様に静かにうなだれた。
事態が沈静化したところで、キキョウが軌道修正を図る。
「はい!皆さん話を戻しますよ!
アキレイ隊長。移動用飛行魔進で間違い無いんですか?」
「それ俺も気になってん。
移動用? 戦闘用の間違いやろ」
「戦闘用は先の戦いで大分減ってしまってな。
徐々に再生産を始めてるが、現状で稼働できる物は帝国の守護に回すつもりだ。
今は移動用しか出せん」
「構わないよ。僕が戦闘用に仕立ててあげるから」
「ぇえ!? 無茶苦茶なやっちゃなぁ」




