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爆弾拾いがついた嘘 【改稿版】  作者: 生津直
第4章 命賭す者
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生還


「冴島!」


 その声に、はっと意識が戻る。


「いいか、よく聞け。今からお前にこいつを(かぶ)せてここに埋める」


 新藤が指しているのは装甲仕様の大きなドラム缶だ。


「約十分後に人為爆破。その後二十分以内には掘り出してやる。それまで耐えられるな?」


 気付けば、一希は両足の膝から先だけを鉄骨の下に残し、一段低い穴の中に仰向けに横たえられていた。穴の底に掘られた浅いくぼみ。深さ五十センチは、ちょうど一希の膝から尻までの長さだったらしい。


 なるほど。この至近距離でも、円錐(えんすい)を描く爆風域を避け、軍用のドラム缶に入って地中に埋まっていれば、助かる可能性は格段に高まる。


 五十センチは心もとない気もするが、一希の足が自由にならない以上、深くしようにも限界がある。埋めた後に上から土を盛ってくれれば、何とかいけるかもしれない。


 新たに掛けられたものらしい梯子(はしご)を上っていく迷彩服が見えた。穴の中に残っているのは新藤と一希だけ。


「先生……」


 見つめ合えたのはほんの一瞬だった。不意にぐいと抱き起こされ、次の瞬間、一希は新藤の腕の中にいた。


「三十分後に会おうな」


 耳元で先生の声。ずっと恋しかった、体温と首筋の匂い。


「とびっきりうまいコロッケを食わしてやる」


――先生……。


 脳裏で駆け出しそうになる走馬灯を、一希は寸前で食い止めた。


――会いたい。生きてまた会いたい。あなたに……。


「泣くな。その分酸素が減るぞ」


 頭をさっと撫でる大きな手を感じた。いつの間にかヘルメットが外されていたらしい。愛しい圧力からとうとう解放されてしまい、防音用のイヤーマフ付きヘルメットが被せられる。その前面に付いているヘッドライトを新藤が点灯させた。


 一希が再び地面に横たえられたそのとき、新藤の腹で何かがきらりと光った。


――えっ⁉


 一点を注視した一希は、(おのれ)の目を疑った。


――まさか……どうして⁉


 直後、視界が(さえぎ)られた。


 ()び付いた金属の臭い。体の下の土ごとすくうようにして、頭の側から水平にドラム缶が被せられる。一希は膝まですっぽりとその中に納まった。ドラム缶に土が当たる音が微かに聞こえる。


――先生、急いで……早く逃げて……。




 あの日のサラナとは比べものにならない、とてつもない爆発音と激しい揺れを、何となくおぼえている。


 息が苦しい。恐ろしく喉が(かわ)く。右足が焼けるように熱い。


 見下ろすと、足の甲に真っ赤な血の色をした特大の三日月。


――違う、私じゃない! 私の足にはこんなものは……。


 自分の(うめ)き声で目が覚めた。白一色の世界は()()()を思わせたが、一瞬遅れて薬品の匂いが鼻を突く。病院のベッドに寝かされていることはすぐにわかった。再び意識が遠のく。そんなことを何度か繰り返した。


 看護師らしき女性との何度かのやりとりを経て、頭がだいぶはっきりしてきた頃、丸眼鏡の男性医師が登場した。


 一希の右足は脛骨(けいこつ)圧迫骨折との診断で、手術が行われたという。最も重量がかかっていたのは足首から下だが、安全靴が身を(てい)して一希の足を守ってくれたらしい。


 一ヶ月もすれば松葉杖で歩けるようになり、その後地道にリハビリを続ければ今まで通り問題なく普通に歩行可能とのこと。掘り出されたときには危うく酸欠に(おちい)りかけていたが、後遺症が残ることはないという。


 一希が収容されたのは個室だった。看護師たちが入れ替わり立ち代わり様子を見に来るたびに、一希は新藤が無事なのかどうかを再三尋ね、会わせてくれるよう頼んだ。しかし彼らは一体誰のことかと困惑するばかり。


 怪我もなく無事でいるという答えがようやく得られたのは、一希が麻酔から覚めてから二日後のことだった。




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