頼れる人
バイト終わりに花火大会が終わった夏祭りの会場へ向かう。
道には花火を見終わった人たちが溢れかえり、駅へ向かって歩みを進めていく。
そんな中、俺とギャル五人衆は人の流れに逆らいながら歩き目的地を目指す。
その道中、隣を歩く大秋は溜息を溢す。
「キクっちがついてきてくれて、助かったわ」
「なにかあったのか?」
「ナンパよ、ナンパ。さっきまで男共から声掛けられまくってて大変だったんだから。追い払うのに苦労したわ。ドーナツ屋に行ったのも逃げ込んだようなものよ。頼りにしてるわ、キクっち」
「頼りになるかわからんが、お疲れ様。でもそれなら阿久津先輩と一緒にいればよかったんじゃないか? 先輩がいれば大抵の男は近寄ってこれないだろ」
「フフッ、まあそうなんだけど。でも夏休みに入ってから一度も会えてないのよね。忙しいみたい」
「阿久津先輩って就職組だっけ? 高三の夏は忙しいんだろうな」
「それもあるだろうけど……たぶん違うわね。私と居るよりも、シバさんと行動することを優先する人だから」
「柴原先輩と?」
「ええ、問題が発生したら彼女なんてそっちのけ。夏祭りまで彼女と過ごさないなんて、彼氏失格よね」
「……まあ、一緒に過ごせなくて寂しいのかもしれないが、阿久津先輩も問題が片付いたら真っ先に大秋に会おうとするんじゃないか? 先輩は浮気をするような人には見えないし」
「そうだといいんだけど」
大秋は俺の言葉を聞いて笑みを浮かべる。
俺は真実を言ったまで。もしもこの先、男として成長するなら、強面でも猫が好きで後輩に気さくに接してくれる阿久津先輩のような人物になりたいと個人的には思う。
そして夏祭りの会場に到着した。
花火が終わり、人も少なくなったかと思いきや、それぞれの出店には多くの人たちがたむろしていた。
「私が焼き鳥貰ってくるから、皆はここで待っててもらえる?」
「わかった」
「キクっち、何か食べたいのある?」
「ネギま、皮とかかな」
「何本くらい欲しい?」
「十本ずつ」
「食べ過ぎよ。五本ずつくらいにしておきなさい。優里奈、皆の分を貰いに行くから手伝って」
「ほいほーい」
大秋と江夏の二人は出店が立ち並ぶ場所へ向かう。
そして残された春宮と冬樹は、近くにあるチョコバナナを買いに行くと言い出し、二人が出店に並ぶ後ろ姿を陽代美と見守る。
周囲に異常なし。
大秋から頼られている以上、残った三人に変な輩が近寄らないように辺りを警戒する。
その報酬に焼き鳥が食べられるのであれば安いものだ、
『ねえねえ、いいじゃんかよっ、これから俺たちと遊びいこうや』
と、近くで男の大きな声が聴こえる。
声のする方へ目を向ければ、男五人が浴衣を身に纏った女子三人に絡んでいた。
よくよく見てみれば、男たちは顔を赤くし酒に酔っている様子。そして女子たちは同じクラスのギャルグループ樋口たちだった。
『もうっ、ホント迷惑なんでやめてくださいっ』
男女八人を中心に人だかりは円になり、周囲はものものしい雰囲気になっていた。
男たちは樋口たちの腕を引いたりして、無理に自身へと引き寄せようとしたり、彼女たちをからかっているようにも見える。
「キク、あのね……」
「……みなまで言うな」
最近、陽代美が何を考えているか、わかるようになってきた気がする。
彼女はクラスメイトの心配をしている。しかし、今ここで自分が出れば余計な問題が発生しかねないと理解をしている。そこで隣にいる俺を頼りたくても言いだしきれない。
心優しい我らが女王様。だが、俺への心配は不要である。
陽代美に持っていた荷物を預け、気合いを入れて歩き出す。
途中で『誰か止めろよ』なんて話声が聞こえたが、そう発言するのであれば自分が出ろよと内心愚痴る。
「おい、嫌がってるだろ。もう、その辺にしておいたらどうだ」
「はあ? なにお前、ガキはすっこんでろ」
五人の男は、外見だけで判断するなら二十代半ばくらいだろうか。
かなり酔っているらしく、おぼつかない足取りで派手な服を着た男たちは俺に詰め寄ってくる。
だがこれでいい。
「俺たちに何か文句でもあんのかあ?」
「別にないけど。でもナンパをしているんなら、もう諦めたほうがいいと思うぞ」
「お前歳いくつよ。どう見ても俺らより下だよなあ? なんじゃその口の利き方は」
男たちが俺に標的を移したあたりで、樋口たちの方を見れば困惑したようにその場にとどまっている。
逃げてくれよ。今なら男たちから悟られることなく、この場を離脱できる。俺だけなら酔っ払い相手なら走って逃げきれるのに。
「なんか言えよオラっ」
「いや、だから、落ち着いて話を――」
「先に喧嘩売ってきたのはお前だろうがよっ」
肩を突き飛ばされ、身体がよろめく。そろそろ限界だ。
俺は所詮、学校内でも外でも平民である。
このまま走って逃げるのは容易いが、残されたギャルグループがどうなるか。と、考えていると思わぬ助けが入る。
「ハイハイ、お兄さん方、ちょっとよろしいですかぁん?」
現れたのはクラスメイトの東と西尾だった。
東は茶髪でオールバックの髪型に、肌は焼けておりアロハシャツを着ている。
西尾は黒いタンクトップに、首元やズボンにはシルバーアクセサリーを身に付けている。
「なんだよお前らっ」
「いやいや実はですねえ、すぐそこでお巡りさんたちが酔っ払い連中を取り締まっていたんスよ。このままだとお兄さん方も連れていかれるんじゃないんかなあ?」
「ああっ? お巡りなんか怖くねえよ。お前たちもこのガキと一緒に殺してやろうかっ」
「いいスよぉ、そのかわり仲間呼ばせてもらいますわ。二十人ほど」
「な、そんなひきょ――」
「卑怯、なんて言わないでくださいよ? そっちは大人、こっちはお酒も飲めないお子様なんですから。あと、お兄さん方は地元の人間じゃないっしょ? せっかくの夏祭りにガキから舐められるなんて面白くないっしょ」
「ぐっ――」
「どうせならお互い楽しくやりましょうや、ねえ?」
「……けっ、もう行こうぜ」
東に言い負かされた男五人は、野次馬たちをかき分けその場から去っていった。
そして東のもとにギャルグループが近寄る。
「もうっ、東。アイツらホントしつこくて怖かったんですけどお」
「へいへい、家まで送って欲しいんなら付き添ってやっから、ついてきな」
まるでハーメルンの笛吹きのように、東に続きギャルグループは去っていった。
そんな光景を呆然と見ていた俺に、シルバーアクセサリーをジャラジャラとさせながら西尾が近寄ってくる。
「キクちゃん、ナイスファイト」
「……いや、俺は何もできなかったから。助かったよ、二人が来てくれて」
「そうでもねえよ。キクちゃんが連中に声掛けてなかったら、俺らも気付かんかったし」
西尾の話を聞きながら東の方を見れば、俺に向けてウインクをしている。
カッコいい。遊び慣れている外見の彼らだが、俺なんかと違って頼れる男だと感じる。
「キクちゃんは、ヒヨミンたちと夏祭りに来てたん?」と、西尾が俺の後方に目を向ける。
そこには心配そうな表情の陽代美、春宮、冬樹の姿がある。どうやら、情けないところを見られたようだ。
「ああ、バイト終わりに今来たばかりなんだ」
「そっか、そんじゃそっちは任せた。樋口たちは俺らで送るから、最近物騒だしな」
「わかった。ありがとうって東に伝えてもらえるか?」
「気にすんなって、んじゃまたな」
そう言って西尾は東たちの後に続き歩き去る。そして周囲にいた野次馬たちは解散をしていた。
陽代美たちのもとに戻るのを億劫に感じながら、トボトボと歩いていると陽代美が近寄ってくる。
「キク、ありがとう。大丈夫だった?」
「……ああ、大丈夫」
「怖い人たちだったね。ねえ、サオリン」
「そうね、力任せのナンパをするやつってホント害悪でしかないわ」
やれることはやった。けれど、男としては情けなく感じる。
下を向く俺を励まそうとする彼女たちの言葉が、今では余計につらく感じてしまう。
「焼き鳥もらってきたよん。こっちの袋が塩で、こっちがタレ……て、どうしたん皆?」
江夏と大秋は、両手に焼き鳥の入った袋を持ち、俺たちのところまで戻ってきた。
その場にいた沈痛な表情を浮かべる俺たちを心配する二人に、冬樹が先ほど起きた事柄を説明すると江夏が怒りの表情を見せる。
「なんそれっ、そいつら今からアタシが――」
「やめなさい優里奈、それより皆に焼き鳥を配って頂戴」
「でもさあっ」
「いいから。それからキクっち、ちょっとこっち来て」
大秋は持っていた袋を冬樹に渡し、ギャルの輪から離れ、俺も後に続いた。
どうしたのかと思っていると、立ち止まった大秋は眉をひそめていた。
「どつかれたって聞いたけど、キクっちはナンパをしていた男たちに手は上げていなんでしょう?」
「うん、東が上手く収めてくれたから」
「ええ、それでいいわ。族にいた私が言うのも変だけど、暴力での解決なんてよくないからね」
「勿論そんなつもりはないが、でも情けないな。前にも阿久津先輩に助けてもらって、俺は助けてもらってばかりだ」
「いいのよ……でも、気にするなって言うのもなんか違うわね」
以前にも、今日と似たようなことがあった。
ガソリンスタンドでチンピラに絡まれているところを、二人の先輩に助けてもらったことがあり、そのうちの一人は大秋の彼氏さんだ。
「ねえ、キクっち。考え方を変えてみない?」
「え?」
「キクっちは私のカレから助けてもらったことがある、だからキクっちも別の誰かを助ける。こんな感じに世の中が回れば素敵だと思わない?」
「それは、そうだな……」
「私ね、すぐに手を上げる男に莉愛やハルミィの近くに居て欲しくないのよ。あの子たちって、とても優しいでしょ? 頼れても乱暴な男になんてならなくていいの。だから、キクっちはそのままでいてね」
「あ、ああ。わかった」
「ん、じゃあ戻りましょ」
大秋の言葉を理解していく。
誰かに助けてもらったら、別の誰かに手を貸してやれ。善行は回り回って己に返ってくる、確かにそれは素敵な世界だろう。絵空事のような提案だが、いつまでも落ち込んでいても意味はない。大秋の言葉を頭に入れ、意識を切り替えよう。
「キク、焼き鳥美味しいよ、はいこれ」
「ああ、ありがとう」
焼き鳥を頬張る陽代美から、袋を受け取る。
そんな彼女の姿を見てふと思う。
誰でも助けるヒーローになんてなれやしない。
しかし、彼女だけは、陽代美莉愛からは頼れる人でありたいとこの時強く思った。




