ステップ1 異物混入⑤
「は?どう言うこと?あなたまさか……!」
エマの発言に対し、真っ先に発言したのはルイーザだった。手元のシチューとハンバーグを見てあんぐりと口を開けている。
(え、まさかまさか、エマこれになにか入れたの?)
エマの方を向くと、相変わらず澄ました顔だ。
「え、エマ……」
「安心してくださいお嬢様。材料は普通と何ら変わりません」
やはりまんじりとも変わらない表情のエマ。嘘をついているわけではなさそうだ。
『君、何もいれてないなら条件クリアとは言えないよー。残念だなぁ』
機械からは訝しげな声が届く。
愛情を入れたとかなら必要最低条件だしね~、などとほざいている。
「でも私は、この中に体の一部を入れたと思います」
『嘘はいけないなぁ、嘘は。記録にないしね』
記録?
もしやコイツ、四六時中監視していたのだろうか。変質者だ。
ジト目になったルイーザを差し置いて、話し合いは進む。
「とりあえず、この問題の前に解決しておきましょう。自分の体の一部であれば、どんなものであれ構いませんね?」
『まあそうなるね。唾液でも血でも、髪の毛でも良いよ!』
「ありがとうございます。体液はアリと」
『でも嘘はだめだよー、すぐバレるんだからね』
「嘘はつきません。では、入れたと言う真実が明らかにされれば、この条件はクリアと言うことでよろしいですね」
『まぁいいけど……』
「約束を反古にされた場合は、こちらとしてもそれなりの処置を取らせていただきます」
……ああそういえばエマってお父様から交渉事任されてたわね、なぜか。
ルイーザは固唾を飲んで見守ると言うわけでもなかったが、何をすれば良いのかさっぱりだったので大人しく座っておいた。
しかし不穏な言葉のオンパレードだ。思わず鳥肌が立つ。
腕をさすっていると、エマがちらりとこちらを見た。
堪えてくださいね、お嬢様!と早口で言われたかと思うと、エマはすぐ機械に向き直った。
「まず、この中には私の体液が入っています」
「ゲホッ!」
……噎せた。
「大丈夫ですかお嬢様」
「大丈夫って言うかエマ何入れてんのよ!」
「だから堪えてくださいねって言ったんですが……もう少し聞いててくれませんか?」
エマが冷めた目で言う。その道の業界の人にはごほうびですと言われそうなものだが、あいにくルイーザは慣れきっている。慣れきっているけれど、それに逆らえるかと言われれば話は別だ。
圧に負け、渋々とうなずいた。
エマはさて、と話を戻す。
「あと、多分ちょっと皮膚も入ってるでしょうね」
「ゴホッ!」
またも噎せたが、今度は頓着する気もないようだ。
『そんな記録は確認できないよ?だから嘘ついちゃダメって……』
「嘘なんかついていませんよ。ご説明しましょう」
エマは淡々と話すが、こっちはそれどころではない。ルイーザの頭はパニックだった。
だがそもそも、ルイーザはエマの調理過程を間近で見ている。怪しい動きは見られなかったが、エマはどう言い逃れするつもりなのだろう。
「お嬢様、この厨房ってそれなりに暑いですよね」
「え?ええ、そうね、あなた料理してたし、シチュー作ってたからね……」
と、エマは唐突にルイーザに話を振った。
ルイーザは困惑しながら答えるが、意図が判然としない。機械も『それが?』と不思議そうだ。
「そうです、この厨房って暑いんです。私は動いていましたし、同時平行でシチューも作っていましたから尚のこと」
『だからそれがなんだって言うんだ?』
少しイライラしてきているのかもしれない。機械は鬱陶しそうな声だ。
エマは気にせず続ける。
「ハンバーグの作り方はもちろん知っていますよね」
『馬鹿にしてるのかい?玉ねぎをみじん切りにして炒めて、パン粉とか牛乳でつなぎを作って、挽き肉と一緒に丸めて焼く』
それを聞いて、エマは満足げにうなずく。怪訝そうな視線に構わず、まるで宣言するようにこう言った。
「はしょってますけど正解です。そうです、ハンバーグは『手で丸める』料理なんです」
しばらく沈黙が続いた。
ルイーザはエマの言ったその意味がよく飲み込めなかったが、機械は理解したようだった。
『……こ、こじつけだよ!へりくつじゃないか!』
「でも私は聞きました。『自身の体の一部』、つまり体液などが入ってさえいれば良いと。……調理中どうしても汗はかきます。その汗が手で丸めるハンバーグの中に入っていれば、それはお嬢様の体内に私の汗が入ったことになります」
ここまで言われ、ようやくルイーザも理解する。
なるほどと思わないでもなかったが、(嫌な言い方するわね……)と言う気持ちの方が強かった。
「さらに皮膚も少しずつゆっくり剥がれていって、二ヶ月ほどで生まれ変わるそうですから、手でこねるハンバーグには私の手あかがついてると思います」
「食欲なくすからやめなさいよ!」
我慢できずに叫ぶ。エマの口角がにやりとつり上がったのを見て、ルイーザは顔をひきつらせた。
コイツこんなときでもおちょくろうと……!
しかしそれは頼もしくもあった。こんな状況で余裕なのである。
それすらも気にくわないのか、機械がわめく。
『こんなのは認められない!やり直しだ!』
「……約束を反古にされると言うことでしょうか」
『それは……。ど、どうせ君たちは逆らえないでしょ?ボクの言うことに従うしかないんだよ!』
エマが静かに顔をあげた。
「では、しかるべき処置を取らせていただきます」
そういえばタグにガールズラブとかNLとかついてますが成分すっっっごい薄いです、すみません。
多分これから入るかな入らないかなって感じなので……。