藍と朱の約束 プロローグ
徳島の空は、今日も高い。
吉野川がゆるやかに大地を潤し、遠く西には、四国の屋根と呼ばれる剣山が、青く霞んで見える。
その山懐に抱かれたこの土地に、人々は古くから、二つの色を大切に育んできた。
ひとつは、藍――幾度も甕に浸け、幾度も陽に晒し、深く静かな青へと染め上げていく、忍耐と祈りの色。
もうひとつは、朱――この地の山肌に眠る辰砂から生まれ、魔を祓い、命を守るとされてきた、鮮やかな赤の色。
藍は隠し、朱は捧げる。
その二つの色に託されたのは、遠い昔、海を越えてこの島国にたどり着いた人々の記憶だったのかもしれない。
技術を伝え、言葉を残し、そして「決して奪われてはならないもの」を、山と川と、人の血の中に、静かに縫い込んでいった――そんな、途方もない約束の物語。
歴史の教科書には、載っていない。
けれど、阿波おどりの掛け声に、藍染めの唄に、山の名前に、神社の配置に――その約束の欠片は、今もひっそりと息づいている。
これは、一人の大学院生が、その欠片を一つひとつ拾い集め、やがて自分自身の血に流れる約束にたどり着くまでの、小さくも大きな旅の記録である。
藍と、朱と。
その約束は、時代を超えて、今もこの徳島の地に、静かに眠っている。
※活動報告にて、作者の完全な妄想による「もしも映画化されたら希望キャスト(笑)」を公開しました。お時間のある方はぜひ覗いてみてください!




