53孤独な戦い6
「何が目的だ?」
強い相手にはほんの少しの隙でも致命的になる。
自分の部屋に逃げ込むのはまず無理だ。
そもそも逃げ込んだところで袋小路だし、助けも期待はできない。
他の部屋へ続くドアは開かなかったから助かる見込みはあるが、こんなところに侵入してくる段階でそうしたシステムは無効化されている可能性が高い。
「どうにもお前のことが気に入らない人がいるようでな。部外者の分際で、目立ちすぎたな」
「心の狭い奴がいるようだな」
予想通りというべきか、ヨルを狙う刺客であった。
正直ヨルに心当たりがないわけでもない。
「大人しくやられてくれないか? その方が俺も楽なんだ」
「同じ言葉を返すよ。大人しくやられてくれ」
「ふっ、そんな態度だから俺が送り込まれるんだよ!」
言葉の途中で男が走り出す。
体勢を低く飛び込み、一気にヨルと距離を詰めた男は左手に持っている大きなナイフを突き出して首を狙う。
「ふっ!」
「肝がすわってるな!」
ヨルはギリギリでナイフをかわして、男に向かって剣を振り下ろす。
命狙われてすぐに反撃に出られる人は少ない、と男は内心で驚いていた。
冷静さを保てる精神性は欲しい人材とすら思える。
ただどうして狙われるのかのも、一瞬で理解できた。
剣をかわして振られたナイフがヨルの頬を軽く斬り裂いた。
男は頬が切れた痛みにも全く怯むことがなく反撃してくるヨルから距離を取る。
「思ってたよりも面倒な依頼だったな……こんなに強いとは聞いてない」
「なら今からやめにしないか?」
「それは出来ない相談だ」
「じゃあ……さっさと終わらせてやる!」
戦う時間が長引くほどにヨルの方が不利。
体力も魔力もまだ余裕がある今のうちに一気に倒してしまう必要がある、と男に斬りかかっていく。
「時よ……」
強くなるとできることが増えていき、楽しい。
ただし多くの中が強くなって解消されていく中で、一つだけヨル自身も知らなかった弱点が判明していた。
時間停止の力はかなり強力であるが、色々と制限がある。
無理なく負担なく使うなら一日一回。
使えても二回とか三回ぐらいまでが限度であり、連続使用は負担がかなり大きい。
制限なんてそれぐらいのものだと思っていたのだけど、こうして強くなった今使ってみると時間停止にもう一つ制限があった。
「くっ……体が重く感じるな」
世界の時間が止まり、ヨルだけが動ける三秒だけの世界で思わず顔をしかめてしまう。
時間停止の弱点、それは時間停止中のヨルの能力が制限されることだった。
「魔力ないってこんな感じだったのか」
正確にいうと魔力があまり使えない状態になっているのだ。
今のフルの状態なら三秒でもかなりのことができる。
目の前の刺客を斬殺することも余裕のはずなのだけど、時間停止中のヨルは全力の状態ではなかった。
魔力の状態としてはかなり弱くなっている。
多少の違和感は感じることはあった。
しかし魔力の量がそんなに多くもなく、緊張状態の戦いの中では気にしていられなかった。
「くらえ……!」
時間停止も切り札で確かめるのにも慎重にならざるを得ない。
でも違和感を感じて試してはいたので、今更動揺はない。
だが急激に魔力が押さえ込まれて起こる変化は、魔力が少なくなって鈍くなった動きをさらに鈍らせる。
相手の男は接近したヨルに対応できるよう、やや体勢を低くするところだった。
軌道を修正して狙いを定め、自分の腕の力で剣を振り下ろす。
「なっ……」
「これが噂の超加速か……かなり厄介だな」
剣が男の首に食い込んだ。
その瞬間、三秒が過ぎて時が動き出した。
男は素早くヨルの剣を防いだ。
浅く剣は食い込んだものの、致命傷となるほどに深く斬ることはできなかった。
「お返しだ!」
「ぐっ!」
男が突き出したナイフがヨルの左肩を貫く。
「お前のスキルのことは聞いている。突然かなりの速度で動く短時間の超加速スキルではないか、とな」
切り札ではあるものの、そんなにしっかり隠していたわけではない。
人前で使ったり、見られている状況でも使ってきた。
流石に時間を止めるとまで見抜かれてはいないが、それに近い能力で対策を取られていた。
首と心臓を男は警戒して、いつでも防げるようにしていたのである。
「そんなに長く使えるスキルじゃなさそうだな。連続ではどうだ?」
男は首を押さえて出血の状態を確認する。
傷は浅くとも血は派手に流れている。
それでも男は動揺も見せずに、手についた血を腰元で手を拭って血を落とす。
「まだ奥の手はあるか? ないなら……このまま終わりにしようか」
時間停止の連続使用が厳しいことも見抜かれてる。
男はうつむくヨルのことを見下ろし、ナイフを振り上げる。
「惜しい才能だけど、次があるならもっと謙虚さを学ぶ……ぐぶっ!」
「悪いな。そんな文字、俺は知らないんだ!」
ヨルがいきなり立ち上がって男の首を掴む。
男も反応できないほどの速さで、ヨルは男の首を掴んでそのまま叩きつける。
「この……! ぐああああっ!?」
首が締め上げられる息苦しさと背中を叩きつけられた痛みを感じながらも、男はヨルにナイフを振り下ろした。
ヨルはナイフを持つ左手を剣で突き刺して、壁にはりつけにする。
「一体……何を…………その目は……」
「切り札は一枚だけじゃないんだ」
ヨルの目は真っ黒に染まっていた。
男がヨルから感じる魔力も爆発的に強くなっていて、首を掴む手を振り払おうとしてもびくともしない。
バングルがうっすらと黒い光を放っていることに、男は気づかなかった。
「く……やはり……こんな仕事…………受けるべきじゃ……」
首を掴んで持ち上げられて足がつかず、意識が遠のいていく。
「後悔するなら最初からやらなきゃよかったんだよ」
ヨルは首を掴む手の力を強めていく。
苦しげに男は呻き声を漏らし、そして最後には鈍い音が響いて男の首の骨が砕けて折れる。
「ああ……くそ……」
ヨルが手を離すと男の体が力なく落ちていく。
壁にはりつけにした腕も落下の勢いで切れて、支えにはならなかった。
ヨルは剣を抜いてフラフラと壁に背中をつける。
目の黒みが引いたヨルは、頭の芯を殴りつける肩の痛みに苦い顔をする。
「ここは安全だと思ったんだけどな……」
安全な場所だと思っていたのだけど、むしろ人目につかず刺客を送り込まれるようなところになるとは予想もしていなかった。
「やっぱり三日で攻略計画はお預け……くそっ! あいつで終わりじゃないのか!」
肩が治るまでは大人しくしている必要がある。
一休みするなら部屋に戻ってからにしようと思ったヨルは、二番の扉の向こうに魔力を感じて舌打ちする。
肩を押さえ、剣を構える。
今の刺客の男と同じ程度の実力でも持っている相手ならば絶望的だ。
「ほう? 生きていたのか」
二番の扉が開き、顔も隠していない白髪混じりの中年の男が入ってきた。
まずヨルが思ったのは、刺客の男よりも強そうだということだった。
「あんたは何者だ? 敵か、味方か?」
「敵か味方かは……お前の返事次第だ」
男はニヤリと笑う。
ヨルは肩からの出血でだんだんと思考力が落ちてきていて、男の回りくどい言い方に苛立ちを覚えたのであった。
ーーー第一章完結ーーー
こちらの作品、気分転換にも書いていたもので第一章部分まではとりあえず書いていたものになります。
この話で一章終わりですので、ストックはありません!
続きを書くかは不明です。
一応続きも考えていますが、今のところ他にも色々書いているのでどうするかは決めてません。
伸びたりしたら調子乗るので、評価なんかしてもらえたら嬉しいです。
感想なんかで続きが見たいとか言ってもらえるとそれでも調子には乗りますので、よかったら何かアクションあると喜びます!




