43宝物庫もまた試練2
「ただの年寄りだよ。トウジン、という者だ」
「ここにいる人で、普通の人なんて一人もいないはずでしょう?」
「あの人は第二柱、毒を得意とする覚醒者で毒王なんて呼ばれてるのよ」
ふわっとした答えないトウジンの代わりにレオナが耳打ちして教えてくれる。
「ふーん」
「はっはっ! 興味なさそうだな!」
トウジンの正体を知ってもヨルの態度は変わらない。
むしろトウジンは、ヨルが平然としていることに大きく笑う。
「何でそんな偉い人がこんなところに?」
試験を見ていたこともそうだが、車に乗り込んでついてきていることの方が謎である。
「なんだ、年寄りを邪険に扱うのか?」
「年寄りだろうとガキだろうと意図が読めないのは警戒します」
「……そうか」
ヨルが答えるたびにトウジンは面白そう。
「お前に興味がある」
「俺に?」
「俺には実子がいない。弟子はいるが……どうにも抜けたものがいない」
「子供探しに見学してて俺のこと見つけちゃった、ってことですか?」
何を見ているのかと思ったけれど、そういった意味で注目されていたのなら悪い気はしない。
「その通りだ。君がどうするのかを見届けたくて……」
「トウジン様、ここでの勧誘は……ぐっ」
「勧誘ではない。少し話をしているだけだろう?」
トウジンは薄い笑顔を貼り付けて前を向いたまま、運転席の男の首を掴む。
少し掴んだ、というレベルではない。
呼吸ができないほどに掴まれて、運転席の男はみるみる顔が青くなっていく。
運転が不安になり、タクマも顔を青くする。
「良いだろう? 話しているだけだ」
「……あ、は、はい」
「俺たちを殺すつもりですか?」
「そんなつもりはないさ」
トウジンがパッと手を放す。
「言いがかりをつけられて怖くてね。ただちょっと年寄りが会話をしたかっただけだから」
笑顔を浮かべているようで、目の奥は笑っていない。
この爺さんもそこそこヤバそうだ、とヨルは思った。
「ここから……歩きになります」
しばらく咳き込みながらの運転だったが、かなり中途半端な道の途中で車は止まった。
車を降りると道の横には森が広がっている。
ひどく歪んだガードレールがあって、『私有地につき立ち入り禁止』と書かれた看板が立っている。
ヨルたちは運転手の男について森の中を進んでいく。
「見られるな」
「そうね」
「ほう、これを感じ取れるか」
森に入ったあたりから視線のようなものをヨルは感じていた。
レオナも同様で、あまりいい気分ではなかった。
「宝物庫は暗天の中でも重要な警備を敷かれているといったな? そ奴らがお前らを見ているのだ」
宝物庫には常に警備の覚醒者がいる。
今はちゃんと必要があるからここに来ているが、理由もないのに宝物庫に近づくものは容赦なく消されてしまう。
「こちらにはどのようなご用で?」
突如ヨルたちの後ろに男が現れた。
中年くらいの無精髭の男で、ヨルやレオナも後ろから声をかけられるまで気付けなかった。
「第三段階を通った。だから宝物庫に入る権利を与えられた」
トウジンが答える。
「さようですか。では、ご案内いたします」
やたらと重たい目をした宝物庫を守る男はヨルたちの横を通り過ぎて、先頭を歩き始めた。
「……霧?」
突如として霧が出てきた。
森の奥に進んでいくにつれて真っ白な霧が濃くなっていく。
前にいる宝物庫を守る男の背中だけがはっきりと見えるのに、すぐ横にいるレオナの姿は白くぼんやりとしていた。
「まっすぐついてきてください。迷子になると最後、宝物庫に入る権利は失われます」
小鳥が鳴くような声や風が枝葉を揺らす音すら聞こえなくなり、宝物庫を守る男の声が静かに聞こえてくる。
近くにいるみんなの足音だけが響く中で、互いの姿を見失わないようにしながら歩みを進めていく。
ヨルは霧から魔力を感じていた。
自然に発生した霧ではなく、何かの魔法で作り出されているのだろうと感じた。
おそらく迷子になったら森の浅いところにでも戻されてしまうのだろう。
「霧が……晴れていく」
そのまま五分ほど歩いていたら、雲の中にでもいるような濃い霧が晴れていった。
「こちらが宝物庫になります」
「…………物々しさがあるな」
森の中にあったのは、地下への入り口だった。
マンホールよりも一回りぐらい大きな金属の蓋が地面にある。
まるで何かのシェルターへの入り口のようだ。
「試験の結果は」
「旗を四つ奪い、サルを撃退した。だからの奴らは一人二つ、アーティファクトを与えられることになった」
トウジンが自慢げに答えると、宝物庫を守る男は初めて軽く眉を上げて驚きを表情にほんの少しだけ出した。
「そうですか」
しかし表情に出たのは一瞬だけで、あとは短く答えて終わりだ。
「この中にあるもの、二つ、好きに持っていってください。ただし……」
「ただし?」
何かあるんだなとヨルは小さくため息を漏らす。
「宝物庫は下に、そして奥に行くほど良いものがあります。ですが宝物庫を進んでいくのは簡単なことではありませんので、お気をつけください」
「それはどういうことですか?」
「入れば分かります」
何をさせるつもりなのか。
ヨルの質問を宝物庫を守る男は冷たく切り捨てた。
「一人二つ……出てきた時に何を手にしたのか確認させていただきます。誤魔化して多くを持ち出そうとすれば力づくでも取り戻します。では。お入りください」
金属の蓋についている大きなハンドルが一人でに回り、開く。
そこには下に降りていくハシゴがあったのだった。




