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仁藤の初戦

僕たちの学校に転校生が来た。仁藤を名乗る40歳近いその生徒は札付きのワルだった。

何しろ元々女子校で、共学化の波にのまれたとはいえ未だ女子比率99越えを誇るこの学校を狙って入学してきたのだ。表向きはリスキリングとかなんとか横文字を並べて編入してきたのだが、仁藤は悪ぶれることもなくクラスでの自己紹介で本音を打ち明けた。自分は根っからのニート、無職で、勉強にも興味はない、ただ豊富な女子高生達を狙ってきたのだと。

その純粋なまでのワルさに僕たち……僕っ子である貝瀬津美子を含め……はキュンだった。初心な女子高生はワルに惹かれる。これは宇宙の法則である。

早速人気者になった仁藤だが、彼の目的は他にもあった。この大和撫子濃度80越えの本校にも不良はいる。当然女子だが、不良に性別は無い。愚昧な悪があるだけだ。そんな悪を懲らしめる事……懲らしめを口実にたっぷりと分からせる事……それもまた仁藤の目的だった。

ちなみに仁藤を名乗る、と言った通り本名ではない。彼は本名を明かさない。それが武術だ。武術にとって真名を知られる事は即死だ。だから彼は仁藤を名乗っているのだが、僕たちにも仮名を与えた。貝瀬津美子という名前もそうだ。

この、仁藤……様……に仮名を与えられるという儀式を経て、初心な女子高生の僕たちはいよいよキュンどころではなくバキュンであった。仁藤様には真名を知られ、どうにでもされてしまう条件を満たしているというドキドキの一方で、そんなワルの仁藤様に仮名を与えられ守られている。こんなの初心な女子高生にはとても耐えられない。バキュンバキュンは当然の帰結と言える。

さて本題だが、仁藤様は転校初日に早速不良達に挨拶に向かった。武術において、挨拶とは殲滅と同義である。だが不良も中々のもので、斥候として現れたスケバン、窯誠子、いかにもかませ犬のような見た目の地味な不良さえ、相当な実力者だった。

仁藤様の思惑は外れたが、むしろ楽しそうに笑った。バキュン。僕はもうバキュンバキュンだが窯誠子も同様だった。だが窯誠子には武術の心得があるらしい。武術はバキュン予防にも役立つ。仁藤様に屈服したがる乙女心を何とか抑え込んだ彼女は、得物の鎖鎌を駆使して仁藤様の排除を試みた。

鎖鎌を軽く弾かれた窯誠子だが、彼女はにやりと笑った。初めから弾かせる狙いだったようだ。

宇宙空間に放り出された鎖鎌は高速回転を続け恒星となった。恒星となっても元は鎖鎌、窯誠子とは一心同体である。窯誠子の必殺技、恒星砲。地球は滅亡の危機を迎えている。

僕たちはあわわとしてしまったが、流石は仁藤様、落ち着いていた。

仁藤様は地面を冷酷なまでの気安さで蹴とばした。その途端、恒星砲の熱も、窯誠子も、全てが止まった。何が起きたのか。

仁藤様は地球という乙女に適切なDVを与える事で自転を停止させ、時を止めたのだ。

そして武術において一は全である。全宇宙にとって地球は砂粒でも、砂粒の動きを止める事で全宇宙を止める事ができる。これでは恒星砲も意味を成さない。

でもなぜ静止した時の中で僕たちは動けるのか。それは仁藤様の御力だ。

武術は調和と言われるが、これはあくまで方便である。調和するだけでは力を加え事物を変化させ制する事は出来ない。

調和と見せかけた支配こそが武術の神髄である。

時を止めるだけならだれでもできるが、調和ゆえに自分も止まってしまうので意味が無い。仁藤様は違う。時を止めながらも自らや僕たちを自在に動かせるのだ。正に武術である。

だが窯誠子も頑張った。何とかして止まった時の中で自力で動き、仁藤様に抗おうとする。

そんな頑張りを仁藤様は称えて、窯誠子の頭をぽんぽんした。羨ましい。僕たちもして貰った事ないのに。

頭ぽんぽんは誰もが知っている通り初心な女子高生を即殺する。窯誠子は不良だが、不良と言っても所詮は大和撫子であった。

こうして仁藤様は完全勝利を収め、不良殲滅に向けて更に歩を進めるのであった。

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