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外典・マガツヒ教創世記 ~働きたくないので弱小女神で宗教を始めたら、街を乗っ取る最悪カルトになっていた~  作者: 溝上 良
第1章 動き出すカルト編

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第9話 生きていられると思うなよ、ゴミカス











「はあ、今回もうまくいってよかったな」


 食事処から出て夜道を歩くのは、マガツヒ教から賄賂を受け取ることができたゴールたちである。

 官憲であるためしっかりと給料も出るのだが、それよりも臨時収入があれば、より日常生活に彩りが出る。

 今回の食事処もかなり高級な部類で、今回頼んだ酒も、普通に生活しているくらいだとそうそう手が出せないものだった。

 そんな美酒を、お金のことを気にせず浴びるように飲むことができるのも、マガツヒ教からせしめた賄賂のおかげである。

 夜道はひえているが、しかしゴールたちの身体は美酒のおかげもあって、かなり火照っていた。


「さすがゴールさんですよ。俺、これからも一生ついていきます」

「はいはい。ただ、勝手に行動するなよ。俺の言う通りにしていたら、それでいいから」


 自分の後ろをついてくる部下を見て、薄く笑うゴール。

 身体もごつくて威圧をする要員としては非常に有用だが、どうにも頭が少し足りていない。

 一歩間違えば、街でたむろしているチンピラとそう変わらない。

 だから、いちいちこうして暴走しないように釘を刺さないといけない。


「うっす。でも、あいつらもあっさり出してきましたし、宗教だから割と貯めていそうですよね。一気に搾り取ったりしないんですか?」

「バカ。そういうやつらこそ、長く搾り取るんだよ。一気に取ったらそれで終わりだが、長く生かさず殺さず飼っていたら、いつまでも利用できるだろうが」

「なるほど……」


 バカみたいな面でうなずく部下を見るゴール。

 止めていなければ、こいつらは勝手にマガツヒ教に突っ込んでいくことだろう。

 今突撃すれば、確かにマガツヒ教がため込んでいる金を回収することはできるかもしれないが、その理由がない。

 さすがに大義名分がない状態であまりにも非道なことをするわけにはいかない。

 今の状態でもかなりおかしいことをしているのだが、滞納者に対する納税要請という大義名分があれば、まだ言い訳ができる。

 加えて、そんなことをするよりも、長期的に少しずつ賄賂をもらっていた方がいい。

 定期的にお金が入ってくるし、長期間賄賂を渡すことで、ライアーのような善人は後ろめたさを覚える。

 そうすると、万が一彼らが納税者になった後も、自分たちとの関係を暴露することはできないだろう。


「また数か月経ったら援助してもらうぞ。それまでは、あいつら以外のカモを探しとけ」


 そういうと、威勢のいい声を後ろで上げる部下たち。

 こういうことを続けているからだろうか、部下たちはカモを見つけ出す目は養われていた。

 マガツヒ教のこともそうだった。

 使い勝手がいい時は、ちゃんといいように使ってやる。

 ゴールはそう思っていた。

 しかし、あまりにも後ろで盛り上がっている気がする。

 酒のせいもあってか、気が大きくなっているのだろう。

 面倒だが、少々抑えなければならない。

 ゴールは顔を歪めながら振り返った。


「おい、本当に勝手に行動するな、よ……」


 振り返った先には、誰もいなくなっていた。

 先ほどまで騒がしかった道中は、耳が痛くなるほどに静まり返っている。

 夜更けで、人の気配もない。

 だからこそ、ゾクリと背筋が凍り付く。


「……ちっ。どこに行きやがった」


 冷や汗を垂らして悪態をつく。

 部下はバカな連中だ。

 何も考えずに行動する奴らだが……。


「勝手に俺を抜いて行動する、わけねえよな。とすると……」


 バカな連中だから、しっかりと管理している奴らだ。

 そんな彼らが、自分に何も言わずに消える。

 それも、複数人同時に。

 とすると、なかなか考えにくいことだが、考えられることは一つ。


「襲撃だよなぁ!」


 自身に迫る鋭い剣筋。

 滑らかに人の命を奪い取るその振りは、ゴールをしても感心させられるほどのもの。

 だが、荒っぽいことを常日頃からしている彼だ。

 当然、報復や復讐に襲われたことは何度だってある。

 強烈な奇襲に対しても、とっさに身体を動かしてよけることに成功した。


「(おいおい、マジかよ)」


 逃げながら思ったのは、驚愕である。

 見れば、避けた地面は削られていた。

 石で舗装された道が、である。

 斬撃で石を削ることができる技術と力を持っているということだ。

 これは一筋縄ではいかないと、ゴールは気を引き締める。


「で、誰だよ。いきなり随分とご挨拶だな。姿を見せたらどうだ?」


 すでにどこにいるのかはわかっているので、ゴールはそちらをにらみつける。

 目を凝らしても、薄暗くて姿は見えない。

 だが、確かにそこにいた。


「…………」


 奇襲が失敗した時点で、隠れる必要はないと判断したのだろう。

 ゴールの求めに応じて、襲撃者は暗闇の中からゆっくりと姿を現した。


「あ? 見覚えがねえな……。俺に恨みはあるようだが……直接的に関係があるわけではなさそうだな」


 現れたのは、長い黒髪と眼鏡、そして恐ろしいまでに冷たい目が特徴的な長身の女だった。

 容姿はとても整っているので、一度見れば記憶には残るだろう。

 それがないということは、誰かから頼まれた復讐者か?


「私というよりも、私の所属している組織があなたに迷惑をかけられたのよ。今回は、それの報復ね」


 どうやら、随分と口が軽い襲撃犯らしい。

 個人ではなく組織ということは、ある程度絞られてくる。

 ここを切り抜けた後に痛めつけなければならないので、得られないであろうと予想はしつつも、情報を引き抜くために問いかける。


「ほー。そういうやつにも何度も襲われたことがあるよ。で、どこの組織かは聞いて教えてくれるのか?」

「マガツヒ教よ」

「……まさか、素直に教えてもらえるとは思っていなかったよ」


 目を丸くするが、女のバカさ加減にすぐに笑う。

 マガツヒ教という名は覚えている。

 先日襲撃し、賄賂を渡させることに成功した新興宗教だ。

 天使教が世界を席巻している今、カルトということができるかもしれない。

 その信者が、報復に来たということか。

 あまりにもよくある話で、ゴールは今更怒りも驚きも抱くことはなかった。


「しかし、マガツヒ教ねぇ。随分と早い報復だ。これも、あの教祖と聖女の命令か? ちょっと話した程度だが、善人だと思っていたんだけど……勘違いだったか?」


 しかし、この襲撃命令があの教祖と聖女から出ているとすると、少々驚きだった。

 虫も殺せないような二人だったのに、人の命を他人に奪わせるよう命令できるのであれば、それは決して善人とは言えないだろう。

 そのような性格なら、接し方も考える必要がある。

 そう考えていたゴールは、その思考を強制的に止めさせられる。

 それは、目の前の女から莫大ともいえるほどの殺気があふれ出たから。

 眼鏡の奥から吊り上がった目が、恐ろしい怒りの炎を宿らせながらにらみつけてくる。


「――――――お前みたいなゴミが、お二人のことを語るな」

「っ!?」


 とっさに剣を抜く。

 冷や汗を額に浮かばせながら、油断なく目の前の女を見る。

 彼女は構えていないのに、自分の首にその剣を突き付けられているかのような、鋭い殺気。

 とんでもない化け物が襲ってきたと、ゴールはここに至って初めて理解した。


「マガツヒ教に害をもたらし、あまつさえあの人の身体に傷をつけて……!」


 ぎりっと強く歯をかみしめると、口の中を切ったようで、みずみずしい唇の端から血が垂れる。

 その痛みで少し冷静になれたのか、女はペロリと艶やかな舌で血をなめとる。

 彼女の脳裏に浮かぶのは、痣を作りつつも、こちらを心配させまいといつも通りの笑顔を浮かべる優しい教祖の姿。

 自分を救ってくれた、この世で最も尊い存在。

 それを足蹴にした者なんて、生かしておく価値はない。

 それは、狂信者たちの『総意』であった。


「生きていられると思うなよ、ゴミカス」


 マガツヒ教の狂信者シーサイスが、街の悪徳官憲ゴールに襲い掛かった。



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