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外典・マガツヒ教創世記 ~働きたくないので弱小女神で宗教を始めたら、街を乗っ取る最悪カルトになっていた~  作者: 溝上 良
第1章 動き出すカルト編

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第10話 死ぬのは











「(あ、だーめだ。こいつは俺よりも強い)」


 シーサイスの動きを見て、ゴールはあっさりと自分の敗北を認めた。

 身のこなし、剣の振り方、足さばき。

 それらを確認し、冷静に分析した結果である。

 あまりにも軽い身のこなしに、こちらが振るった剣はまったく当たる気がしない。


「随分と慣れた動きだな! こういうことを、今までに何度も続けてきたのか!?」

「お前に話す必要はないわ」


 取り付く島もないとは、まさにこのことだろう。

 しかし、ゴールは必死に身体を動かしながら、それが正しいことを確信していた。


「(ただの新興宗教だと思っていたが、こんな化け物も抱えているのかよ。とすると、普通の善人がしている宗教、というわけではなさそうだな)」


 一癖も二癖もある。

 裏にも、何か抱えているものがある。

 それは、官憲として認められるわけがなかった。


「(……あ? なんでこんなことを考えているんだ?)」


 そこまで考えて、ゴールは自分の考えに唖然とする。

 賄賂を求めてきた悪徳官憲である自分が、武力を持つ宗教組織を危険視した?


「(何を。ばかばかしい)」


 今更善人ぶるのかと自嘲する。

 さんざん自分の欲望のために好き勝手やってきて、危険な宗教組織がいたら、他者のために何とかしないといけないなんて考えるのか?

 官憲という本懐を忘れて久しいのに、今更優しいおまわりさんに戻ろうとするのか?

 滑稽な話だ。

 それは分かっているはずなのに、どうしてか胸の奥に沸き上がった小さな火を、消すことができなかった。


「くだらないことを考えているようね」

「ぐっ……!?」


 複数の斬撃がすさまじい勢いで襲い来る。

 必死に身体を動かすが、すべて逃げ切れるはずもなかった。

 熱心な同僚と違い、日々の鍛錬もサボりがち。

 加えて、今は深酒した後である。

 こうして、凄腕の暗殺者とギリギリ渡り合っていることが、ゴールにとってすごいことだった。


「今更何を考えているのかって話だが……やっぱ、お前はここで生かして返すわけにはいかねえな!」


 自分の命のため、そして何よりこの危険な女を抱えているマガツヒ教を報告するため。

 ゴールはこの女を殺すことに死力を尽くすこととした。


「おおおおおおおおおおおっ!」

「……バカなの?」


 怒声を挙げて突っ込んでくるゴールを見て、シーサイスは心底蔑んだ目を向けた。

 剣を懐に構えて何をやるかと思えば、捨て身の突撃である。

 とんでもないバカだ。今までの戦いで何を感じ取っていたのか。

 身のこなしについては、明らかにシーサイスに軍配が上がる。

 そんな相手に対し、ただ突撃してどうにかなるとでも思っているのだろうか?

 嘆息するシーサイス。

 まあ、それでいい。さっさとこの愚かなクソ虫を殺害し、ライアーに傷つけたことを後悔させてやろう。


「ぜあっ!」


 鋭い突きは、官憲になるまではしっかりと鍛えていたというのが分かるものだった。

 加えて、後先考えない突撃のため、威力はある。

 だが、それは馬鹿正直に正面から受けてやった時の話だ。

 シーサイスはひらりとその攻撃をかわした。

 残るのは、突きを繰り出して隙だらけとなったゴールの無防備な姿である。


「安心して、すぐには殺さないから。さっさと気絶しなさい」


 冷たい目でそう言うと、シーサイスは剣を振るった。

 刃の方ではなく、峰打ちである。

 まあ、それでも斬られないというだけで、場所によっては深刻なダメージが残る。

 しかも、シーサイスはゴールのことを大して気にかけていないので、割と容赦のない一撃となっていた。

 狙った部位は首。

 峰打ちとはいえ、相当な衝撃が与えられることから、下手をしなくとも致命傷になりうる攻撃。

 攻撃する側がある程度力加減していたら話は別かもしれないが、シーサイスは全然配慮していなかった。

 別に、致命傷になったところで、仲間を使えば何とでも拷問する程度には回復させることができるし。

 そんな思いを持ちつつ、ライアーへの攻撃に対する多大な私情を含んだ攻撃は、確かにゴールの首に吸い込まれ……。


「ん?」


 ガキン、と重たい音とともに止められた。

 人体を遠慮なく殴った時の爽快な感覚ではなく、自身の攻撃が受け止められた時のような不快感が襲う。

 シーサイスの手がしびれるほどの衝撃。

 そして、攻撃を受けたゴールは気絶することなく、剣を振った。


「ちっ」


 飛びずさって距離をとるシーサイス。

 彼女の頬に、一筋の切り傷が発生し、血が垂れる。

 もちろん、その程度で戦意がしぼむことはなく、むしろ忌々しそうに顔を歪めていた。

 ゆらりと構えるのは、ゴールである。

 確実に致命傷になりうる攻撃を受けても、平然と立っていた。


「ひい、あぶねえなあ、怖いなあ。今の一撃、普通に首がへし折れていたんじゃねえか? こちとら、お前の大好きな教祖様を蹴って金をせびっただけなのに、そこまでしてくんのかよ」


 やれやれと首を横に振る。

 こんなにも命の危険を感じたのは久しぶりだった。

 シーサイスは不愉快そうに眉をゆがめていた。


「大丈夫よ。あなたの首が折れても、生きながらえさせることはできるから」

「治すつもりはない、というのがやべえところだよな」


 瀕死のダメージを負いつつ放置されるようだ。

 これは、自分のためにも決して負けられないと、改めて引き締める。


「それで、大してダメージがないというのは、どういうことかしら? 話したくなかったら、別にいいけど」

「話すさ。話したところで、どうにかできるものじゃないしな」


 油断や慢心、というのもあるかもしれない。

 しかし、それ以上にあるのは圧倒的な自信。

 たとえ、自分が何をしているか分かったところで、対応することなんて不可能なのだ。

 ゴールは誇らしげに胸を張る。


「これは俺の固有魔法みたいなもんでな。『ゴルゴア』っていうんだ。自分の身体を、とてつもなく固くできるんだよ。それで、お前の攻撃を防いだっていうだけの話だ」

「刃が通らないのは分かるけど、衝撃も吸収するの?」

「そうだ。正直、この力を使っている間、俺にダメージなんて一切通らん。だから、今までさんざん好き勝手することができたんだよ。報復されても、全部返り討ちにできたんだ」


 つまり、ゴールの固有魔法『ゴルゴア』は、絶対的な防御力向上。

 ありとあらゆる攻撃が通用しなくなる。

 攻撃が通らないということは、少なくとも敗北がありえないということだ。

 あとは、ゴールのやりたいようにできる。

 戦って勝てるのであれば、戦闘を継続して敵を殺す。

 苦戦するようであれば、一度退却し、今度は部下たちを引き連れて数の暴力で押しつぶす。

 どちらにしても、ゴールの敗北はなくなるのが、この『ゴルゴア』だった。

 今までの復讐者たちを返り討ちにすることができたのは、この力がすべてだった。


「それで、今回はお前ってわけだ。この後のマガツヒ教も楽しみだよな。お前みたいな暗殺者がいる新興宗教を見逃す理由なんてねえ。天使教にも報告がいくだろう。そうなれば、あの教祖と聖女も終わりだな。天使教が敵とみなした異教の末路は悲惨なものだぜ? 楽しみだよなあ」

「…………」


 スッとシーサイスの目が細くなる。

 冷たい殺意が吹き荒れるが、自分に攻撃が通らないことを知っているゴールは、微塵も恐怖を抱かない。

 すでに敗北はなくなった。あとは、どう勝つかだ。

 この場でいたぶって殺してやってもいいし、あえて引いて、後ほど目の前で教祖と聖女を痛めつけてやってもいい。

 嗜虐嗜好がくすぐられて気分がいい。


「謝ったところで、もう遅いぞ。悔みながら死ね」

「死ぬのはあなただけよ。毒はもう仕込んでいるんだから」


 そんな風に調子に乗るゴールに、シーサイスは冷たく笑い、仕込んでいた毒を発動させるのであった。



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