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外典・マガツヒ教創世記 ~働きたくないので弱小女神で宗教を始めたら、街を乗っ取る最悪カルトになっていた~  作者: 溝上 良
第3章 

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第57話 またかよ……











「なるほど。孤児たちに対する慈善事業は、うちだけではないと言っていましたものね。世界でも最大と言える勢力を誇る天使教が、孤児院を運営していないはずがないですよね」


 とりあえず、そうやって返しておく。

 いや、本当にダリアの過去話とか興味がまったくないんだもの……。

 元天使教の信者で、今はマガツヒ教の狂信者。

 ということは、どうせ天使教でろくでもないことがあったのだろう。

 知らねえよ、他人の不幸話とか。

 それを聞いても、俺は別に何とも思わないし。

 同情もしないし、義憤を抱くこともない。

 ただの時間の無駄だ。


「はい。私もその孤児院に入っていたので、今から考えると腹を捌きたくなりますが、天使教を信仰していました。その際、私の世話をしてくれていたのが、イリア先生です」


 お前、目の前でいきなり腹を捌くなよ、絶対に。

 これはフリじゃないからな。

 目の前で切腹自決を見せつけられるとか、一生もののトラウマになることは間違いない。

 別に他人のことなんてどうなってもいいが、だからと言って目の前で死を見せつけられると気分が悪い。


「私のいた天使教の孤児院はマガツヒ教のそれと違って、かなり質素な生活をさせられていました。食事も少なかったのですが、イリア先生が自分の分を分け与えるなどしてくれたおかげで、大人になるまで育つことができました。また、その当時は神聖騎士ではありませんでしたが、その候補となったころから、孤児院にも天使教から資金が贈られるようになって、ある程度裕福になっていましたね」


 昔を懐かしむように目を細める。

 ほへー。イリアってそんなにちゃんとしている奴なのか。

 それで、ダリアも何不自由なく……というわけにはいかなかったようだが、しっかり大人になるまで育ててもらったらしい。

 ……自分の食事を減らして他人に分け与えるとか、マジ?

 俺には到底理解が及ばない考え方だ。

 自分さえよければ、他人なんてどうなってもいいだろうに……。

 たぶん、俺がイリアのことを理解できる日は一生訪れないのだろうなと思った。


「そういう恩師が天使教にいると、天使教と戦うのはお辛いでしょう。いいんですよ、それで。というか、それがいいです、絶対。戦うとかは止めておいた方が……」


 ユーリエの言葉に、俺は思わず感心してしまった。

 うまい。なるほど、そういう言い方もあるのか。

 ちょっと焦りすぎのような気もするが、他人のために天使教とぶつからないように誘導している。

 厭らしい女だ。


「ああ、私程度のことをそんなにも気遣ってくださって……。本当にうれしいです、ありがとうございます」


 いや、別にお前のことはそんなに気遣っていない。

 自分のことを気遣っているのだ。

 そんな保身全開のユーリエの言葉に対して、ダリアは無情な笑顔を浮かべる。


「ですが、大丈夫です。ちゃんと天使教はつぶしますので」

「い、いや、あのね?」


 頬を引きつらせているぞ、ユーリエ。

 まだ抗うのか。無理だよ。

 だってこいつら、狂信者だもの。


「確かに、イリア先生には本当にお世話になったので、殺すのは少し悲しいです。ほかの連中を殺しても、虫と一緒で何とも思いませんが、特別視しちゃっているのかもしれません……」


 シュンと落ち込みを見せるダリア。

 それはそうだろう。自分の身を削ってでも育ててくれた人だぞ。

 ……あれ? そんな相手を殺すのに、『少し』悲しい程度で済むの? マジ?


「ですが、イリア先生も筋金入りの天使教信者ですから、激突は避けられません。その時は、ちゃんと殺すのでご安心ください」

「おぉぉ……」


 俺は天を仰いだ。

 この女、天使教と正面衝突するつもり満々である。

 終わった……。しかも、殺すって言っているし……。


『信仰のために恩師を殺すという宣言はどうなの……?』


 マガツヒ様が呆然とした声音で呟く。

 天使教が絡まないと、ある程度はまともですね。

 ちなみに、今のダリアの発言、マガツヒ教に利益をもたらすために天使教の戦力を削ろうとしているようにも聞こえますが……。


『信仰のために恩師を殺すという宣言、最高だよね! 天使教は全員死刑だよ!』


 手のひらくるくる過ぎるだろ! いい加減にしろ!


「ま、まあ、そういうことにならないように、わたしたちも丁寧な説明と質素な生活を続けていかなくてはなりませんね、ライアー」

「そ、その通りですね、ユーリエ。ダリアたちにも健やかに生きてほしいですから、危険なことなどなければいいのですが……」


 俺とユーリエは全力でアイコンタクトを取り合いながら、この場に限っては協調路線をとる。

 天使教とぶつかるようなことは止めて。

 その思い、届け!


「さすが教祖様、聖女様……。お優しいお二人がいるからこそ、私たちが安心して生活できるのです。少しでもお二人のお力になれるよう、これからも邁進していきたいと思います」


 感激したように目を潤ませるダリア。

 よっしゃ。適当に言ったらうまくいったわ。

 なんでも言ってみるもんだな。


「ですが、教祖様、聖女様。お二人がどれほどお優しくても、それを理解できない虫のような連中が、愚かにも牙をむいてくることもあります。その粗末な牙をへし折ることは、もちろん私たち信者の務めです」


 ……うん? 何か不穏なことを言っていない? 大丈夫そう?


「――――――ほら、このように」

「ぐぇっ!?」

「ぎゃぅっ!?」


 不安に思っていると、ダリアが突然俺とユーリエの首根っこを捕まえて教会から飛び出した。

 し、死ぬぅっ!? 首は死ぬぅっ!

 半泣きになっていると、いつの間にか外に出ていた。

 こわ……。

 いきなり何してくれてんだこのアマ! 俺を殺す気か!?

 殺すならユーリエだけでお願いします!


「ふざけんじゃないわよ……!」

「いだだだだっ!? な、何も言ってない何も言ってない!」

「目は口程に物を言うのよ……!」


 この女……! どこまで俺の思考を読み取ることができるんだ……!?

 ……まあ、俺もこいつが不穏なことを考えていたら何となくわかるしなあ……。

 しかし、いきなり外に連れ出すとは……しかも、あんなダイナミックにするなんて、いったいどういうことだろうか。

 死を覚悟したぞ。絶対に受け入れないけど。

 その理由は、教会の中から現れた。


「どうやら、異教徒の愚者は察しだけは良いらしい。小動物のように脆弱だからかな?」

「いえいえ。私が気づいたのは、あなたたちの鼻が曲がりそうになるほどの悪臭ですよ」


 うわぁ……嫌味の応酬きつい……。

 教会から現れたのは、天使教の……誰だっけ? なんかイリアの後ろにいた連中だった。


「こんばんは、邪教の教祖と聖女。今宵はあなたたちを殺しに参った」

「またかよ……」


 なんで普通に生きているだけでこんなに暗殺されかけるんだ! おかしいだろ!



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