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外典・マガツヒ教創世記 ~働きたくないので弱小女神で宗教を始めたら、街を乗っ取る最悪カルトになっていた~  作者: 溝上 良


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第3話 早くどけ!!











 ダリア。

 マガツヒ教のシスターである。

 銀色の輝くような長い髪が特徴的な、柔らかな印象を与える女だ。

 細く、糸目と言っていい目と薄く弧を描く唇が、彼女の柔和な性格を表しているよう。

 貞淑という言葉が最も似合うような、肌の露出が一切ない黒のシスター服を身にまとっている。

 身体に張り付くような形なので、線がはっきりと浮かんでしまっているが。

 貞淑とはまったく正反対の起伏に富んだ身体をしているため、スラムの住人からはそういった目で見られることも少なくはない。

 ただ、ダリア自身は少々抜けているので、気づいている様子はないが。


「いつも孤児の子たちの面倒を見てくださってありがとうございます。ダリアのおかげで、彼らは健やかに育つことができています。我らが女神マガツヒ様も、とてもお喜びになっておられることでしょう」


 ダリアが任されている仕事は、孤児たちの世話である。

 この弱肉強食の場であるスラムでは、真っ先に食い物にされるのが子供だ。

 子供のうちからスラムにいて無事に大人になることができる者は、ほとんどいない。

 そんな子供たちを保護しているのが、マガツヒ教である。

 スラムで唯一子供が生きていられる場所が、ここにはあった。


「それもこれも、マガツヒ様とライアー教祖のおかげです。子供たちがこの場所で生きていられるのは、間違いなくお二人のおかげですから。お二人がお優しくなければ、彼らは今も恐怖と苦痛にうめいていたことでしょう」


 スラムで子供を保護するメリットなんて存在しない。

 ただでさえ、自分たちがその日を生きていくだけでも精いっぱいな環境である。

 子供なんて労働力にならない者を抱えても、いいことなんて一つもない。

 だが、マガツヒ教は違う。

 そんな子供たちを助け、救っている。

 ダリアは感激していた。


「私のしていることなんて……。子供たちはとても元気で素直で……手間もかかりませんし、いい子たちばかりです。将来、必ずやマガツヒ教のために素晴らしい人材となることでしょう」

「それは頼もしいですね」


 マガツヒ教の運営している孤児院を卒業すれば、必ずマガツヒ教に関与しなければならない……ということではない。

 ライアーは子供の未来を拘束することを好まず、自分たちの好きに生きてよいと日ごろから言っている。

 だが、孤児たちの誰もが、自発的にマガツヒ教のために生きると決めていた。

 それは、幼いながらに自分たちを救ってくれた人が誰なのかを知っているから。

 そして、ダリアたち孤児の運営者の【教育】が行き届いているおかげであった。


「それに、私はマガツヒ様とライアー教祖に救っていただいた身。この身はすべてライアー教祖のものです。尽くすのは当然です」

「ははっ。そう言っていただけるのは嬉しいですが、私たちは女神マガツヒ様に尽くす者。あなたの素晴らしい献身は、マガツヒ様のためにお願いしますね」

「はい、もちろんです」


 にっこりと笑いあうライアーとダリア。

 平和でほのぼのとした空間が広がっていた。

 自分も祈りをささげようと、ライアーの近くに歩いていくと……。


「あっ……」


 躓いた。

 段差も何もないのだが、躓いた。

 よくあることなのだが、問題はその転びそうになった先には、ライアーがいたということである。


「ぐぇっ!?」


 素の反応が漏れてしまうライアー。

 女にのしかかられて出していい悲鳴ではなかった。


「(クソが! なんで何もないところで躓くんだよ! ありえねえだろ! というか、重い! 早くどけ!!)」


 表情には一切出さずに罵詈雑言をぶちまけることができるのは、面の皮の厚さを表していた。


「す、すみません、教祖様!」

「い、いえいえ、大丈夫ですよ。ところで、この体勢は少々まずいので、早く起きていただけると助かります」


 今の体勢は、まさに密着状態。

 仰向けになっているライアーを、ダリアが押し倒しているような状況。

 貞淑なシスターがしてもいい体勢では、断じてない。

 ダリアの美しい顔が間近にあるが、やはり早くどけの大合唱をしているライアー。

 起伏に富んだ肢体が密着していようとも、何ら効果はない。

 彼の求めるところに、美女との肉体関係はないのである。

 それゆえに、スイカを連想させるほどの大きな胸が当てられていたとしても、やはり邪魔だなあ、という感想しかなかった。


「あら? どうかしたのですか?」


 そんな二人に声がかかる。

 驚いたように目を丸くしているのは、マガツヒ教聖女のユーリエであった。

 彼女が立つところに光が当てられるような、そんな一種の神々しさを放つ彼女。

 美しさでいえばダリアも劣るところはないが、しかし神聖さ、尊さという意味でいうと、ユーリエに及ぶ者は誰もいないと確信できるほどの何かがあった。


「ゆ、ユーリエ聖女! こ、これは違って……」

「え、と……違うとは、どういう……?」


 ユーリエの視点からすると、ダリアがライアーを押し倒している状況である。

 知識があって多少意地悪な者なら、積極的にからかっていたに違いない。

 そして、ダリアを半泣きにさせて大喜びしていたことだろう。

 幸いにして、ユーリエはそんな性格ではないと信じられていた。


「そんなに慌てなくても大丈夫ですよ、ダリア。さあ、まずは一休みしてから、また私たちとお話をしましょう。孤児院にも最近行けていないので、子供たちの様子を聞かせてください」

「は、はい」


 顔を真っ赤にしながら、足早に去っていくダリア。

 時折躓きかけているが、大丈夫だろうか?

 と、そんな心配をすることなく、二人はニコニコとしていた笑顔を崩して……。


「……身体、いてぇ」

「悪いタイミングで戻ってきてしまったわね……」



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