第45話 マリア行きます!
その日は、砦には緊張した空気が流れていた。
騎士達は鎧を着込み、部隊毎に指示を待っている。魔法師団も同様であった。
そして会議室では朝から会議が開かれていた。
「国境付近に軍隊。前回よりもしっかりとした鎧にあの紋章、王都からの援軍とみて間違いないかと」
テーブルに広げられた地図を見ながら騎士団の副団長が予測を説明している。
今朝方、見張りがエルガー王国が国境付近に展開している事に気づき、再び戦の準備に入ったのであった。
「こちらの援軍は間に合わなかったわね。幸いマリアのおかげで戦力に余裕があるわ、援軍が来るまでなんとか持ち堪えましょう」
「そうですね、まずは遠距離から魔法で——」
会議中、ノックもなしに勢いよく扉が開かれ、若い騎士が慌てて入って来た。
「た、大変です!」
会議をしていた全員が騎士の方を向いたが騎士は気後れする間も無く続きを口にする。
「マ、マリア様が単独で戦場にへ飛び出して行かれました!」
「「なんですって⁉︎」」
ロゼニアとセニカの悲鳴にも似た叫びが部屋の中に響く。
マリアは今回の戦には参加せず、時を見て王都に返すつもりでいたのだ。
2人は顔を見合わすと会議を放り出し、外を見渡せる場所へと走るのであった。
◇◆
時は少し遡る。
マリアは1人で遠くを見つめていた。
「ここに来た時も思いましたがダンジョンの奥のような威圧感は感じませんわ」
マリアが見つめる先にはエルガー王国の騎士団が居るはずである。
しかしマリアは全くといっていいほど恐怖を感じなかった。
「これなら、皆様の手を煩わせる必要はありませんわよね?」
マリアは部屋に戻ると、いつもはイザベルに付けてもらっているベルトを自分で装着する。
「慣れていないと難しいですわ。こう……で、いいんですのよね?」
ベルトのながらさの調節に戸惑いながらもなんとか装着すると、次にメイスを手に取った。
「よし、誰かが被害を受ける前にぶちのめしてやりますわ!」
砦の兵士に会えば止められるであろう事は分かっているので、マリアは勢いよく窓から外へ飛び出した。
気づいた兵士や騎士がマリアに声をかけて止めようとするがマリアに届く事なく、マリアは1人でエルガー王国の騎士団に向かって駆けていくのであった。
◇◆
エルガー王国の騎士団長バルバンは国境付近に建てた天幕の中で部下から報告を受けていた。
「バルバン団長! こちらに走ってくる人物がいます!」
「なに? 偵察か?」
「そ、それが、ドレスを着た令嬢がメイスを片手に1人でこちらに向かっているとの報告が——」
「はあ? ふざけてんのか?」
バルバンは部下の報告に呆れ顔で返事をした。
「それが、事実のようでして……」
「どうします? 姫様?」
バルバンは隣に座っているカタリナに投げやり気味に相談する。
「あれは……」
カタリナは望遠鏡を兵士から借りて報告された人物を確認していた。
「あれはマリア・エンリエット。ポルニッカ騎士団の精鋭を1人で倒したという情報があります。しかし彼女は軍人ではないはず、なぜここに?」
「エンリエット! エンリエットですか! ここに来た甲斐があるというものです!」
カタリナの言葉を聞いて、バルバンが歓喜の声を上げる。
王都で指折りの実力者の彼がここに来るのを志願した理由は、この砦を守るのがある男の家族だったからだ。
エンリエット伯爵。
停戦前の戦で因縁があり、家族がピンチになればやって来るだろうと予測しての事だった。
実際、ここから近い砦を守っていたエンリエット元伯爵は援軍としてこちらに向かって来ている最中である。
「なに! マリアがいるだと! 俺の所まで連れて来い! 俺に無礼を働いたあいつは辱めた後に晒してやる!」
「カタリナ様」
品性のない言葉で命令をするハインツに顔を顰めた後、バルバンはカタリナの方を見る。
「ハインツのいう通りにしてあげて」
「御意に。まあ、あの男もその方が怒るでしょうしな」
バルバンは後にエンリエット元伯爵と戦う事を想像したのか顔を恍惚とさせた後、気を引き締めて騎士団へと命令を下す。
そして信頼できる自分の部下で揃えた第一部隊を率いて、マリアの方へと出陣するのであった。




