第10話 ゴブリン調査先遣隊3
ギルバートはロックタイタンと間合いを取りながら深く息を吸った。
「この剣でロックタイタンは倒せない。彼女を守りながらどれだけ戦えるか……」
ロックタイタンは頑丈な皮膚を持ち通常の武器では攻撃は通らない。
魔法の補助や特殊な武器を使って倒すため、中級に上がった冒険者がパーティの意味を知る鬼門の魔物とも言われている。
ギルバートのいつもの大剣や、補助魔法師がいれば苦もなく倒せるのだが、ゴブリンの偵察だからと動きを重視して持ってきた片手剣では攻撃は通らない。
「援軍がくるまで耐えるしかないか」
ギルバートはそう呟きながらマリアの方をチラリと見る。
「一応聞いておくがお嬢さんは補助魔法は使えないよな?」
焦っているギルバートの言葉は取り繕う余裕がなくなって来ている。
ダメ元でした質問であったが、マリアが発した言葉は予想外のものであった。
◆◇
マリアは目の前の大きな魔物を見てもあまり心配していなかった。
イザベルからギルバートを紹介された時の街一番の冒険者で、彼と居ればダンジョンは安全という言葉を馬鹿正直に信じており、今の状況を正しく理解していなかった。
「あらあら、落とし物ですわね。後で届けて差し上げなければ」
一緒に来た冒険者がゴブリンの声を聞いて構え、ロックタイタンを見て放り出して逃げ出した金属製のメイスを、なんの緊張感もなく拾い上げる。
そしてメイスを握った瞬間、以前にゴブリンの棍棒を握った時と同じように豹変する。
「一応聞いておくがお嬢さんは補助魔法は使えないよな?」
「そんなもの必要ありませんわ!」
ギルバートの質問をマリアは鼻で笑い飛ばす。
そして不敵に笑ってメイスを片手で振り上げ、ロックタイタンに向かって真っ直ぐに走り出した。
「お、おい⁉︎」
その行動を見たギルバートはギョッとしてマリアを引き止めようと手を伸ばしたが、予想よりも数倍素早いマリアの動きに空振りしてしまう。
マリアはそのまま飛び上がり、ロックタイタンの頭目掛けてメイスを振り下ろした。
「この鈍亀がですわ!」
マリアの振り下ろしたメイスはドゴォーンと音を立ててロックタイタンの頭を粉砕してしまった。
「そんなバカな!」
一回転して着地するマリアの背中を見ながら、ギルバートは驚愕の声を上げた。
マリアの持っているのは普通のメイスなのは明らかだ。それでロックタイタンにダメージを与えるには魔力で武器を強化する必要がある。
魔力で武器を強化するなど達人と呼ばれる人の技だ。
そのため普通は魔力を内包する強い武器を持つのである。
それに、ロックタイタンを一撃で倒すなど騎士団長でも単独では難しい。
達人の技に加え、それだけ馬鹿げた魔力か筋力を目の前のお嬢様は持っているということなのだ。
「あなた方も、いてこまして差し上げますわ!」
ロックタイタンを倒した後、マリアはメイスを肩に担ぎながらそう宣言すると、ゴブリン達に向かって突撃していく。
「はは、俺は夢でも見ているんだろうか?」
マリアがゴブリンと戦う姿を見てギルバートは頬をつねった。
ギルバートはこの街で1番の強い冒険者だと自負している。
それはギルバートの慢心という事ではなく自他共に認める事。ルミナスの白虎のリーダーとはそういう事なのだ。
そんなギルバートでも、1人で目の前に広がる大量のゴブリンと戦うのは骨が折れる。
いや、無謀な事だろう。1人で、いやルミナスの白虎であろうと単独ではゴブリンの大群を相手にするのは難しい。
だから討伐体を組むのだし、騎士団の力を借りるのだ。
だから、目の前でドレス姿で笑いながらゴブリンの群に飛び込み、笑いながら殴り飛ばす令嬢が信じられない。
背中からゴブリンの攻撃を受けても、傷一つつかない令嬢が信じられない。
「小賢しいのですわ!」
メイスを振り抜いた後を見計らってゴブリン達がマリアに殴りかかるが、マリアはメイスを持つのと逆の腕で受け止め、その動きで棍棒を押し返し、その勢いのまま裏拳で殴った。
「まだまだやぁってやりますわ!」
ギルバートが呆然と見つめる中、先日マリアが倒した何倍ものゴブリンをマリア1人で殲滅してしまうのであった。




