42…新しい世界
しばらくして戻ってきたアイもリュシードも明らかに泣きはらした跡が残っていた。
それでもしっかりとつなぎ合った2人の手はもうどうしたいか決まったようだ。
「――それでは聖女よ。貴女はどうしますか?元の世界に戻りますか?それともこの世界に残りますか?」
「私は残ります!!」
「――わかりました。」
はっきりと告げるアイの表情に戸惑いも迷いも見受けられなかった。
「――セシリア。貴女はどうしたいですか?」
「私もこの世界に残りたいです。」
「――そうですか。」
女神は慈愛の籠った微笑みで2人の気持ちを尊重してくれた。
アイがセシリアを満面の笑顔で笑いかけてくれたのは思わずまたうるっと涙が出そうだった。
「――皆さん。これまで長い間この世界の為に戦ってくれてありがとうございました。本当に感謝しています。
こうして未来を楽しみに思えるのもあなた方のおかげです。
私と魔神はこの世界となりますが、魔法はこれまで通り使えるはずです。
…しかし私の加護は消える事でしょう。恐らく聖魔力は違う属性に変わるのだと思います。
行った後でないと確実なことは言えないので、皆さんが確かめてみてください。
また、闇魔法も使い手は現れる事でしょう。しかし、使い方を間違えなければきっとこの世界の為に役に立つ魔法となるはずです。
上手く活用してもらえたら嬉しいです。」
「――責任を以って魔法の確認を行います。」
女神の言葉にハリアスは強い意志の籠った言葉を返す。
「――ありがとうございます。
それでは皆さん…どうぞお元気で。」
別れの言葉を告げた女神はすうっと跡形もなく消えたかと思うと、大地がふわっと暖かくなるのを感じた。
―――それは春の日差しのようなポカポカするような包み込まれる感覚だった。
***
あれからあっという間に時は過ぎ、セシリアたちは最終学年に進級していた。
無事に女神がこの世界と1つになった後、やはり闇魔法が使えるようになっていた。
セシリアは特に苦労なく修得できただけでなく、ハリアスもアイもすぐに使いこなした。
恐らく聖魔力と闇魔力は表裏一体。そこまでの違いはなかったのだろう。
ただ魔法の種類は全く違うので最高ランクまではまだまだ道のりは長そうである。
そして聖魔力は光魔法に変化していた。浄化の能力は落ちてはいたが、治癒魔法や光系の攻撃魔法が扱えるようになった為、主に神官たちが修得しているようだ。
ハリアスもアイも仕えたのは言うまでもないが、セシリアも幾度となく体内に聖魔力を取り込んでいた為中ランク位の光魔法であればすでに扱えるようになっている。
魔神の石碑定期調査隊は解散し、今は王国全体の魔力調査を行っている。
――しかし、選抜隊は例外として今後も特殊任務として継続が決まっている。
それは、闇魔力が使えるということは、魔神の影響がこの世界に少しであっても影響しているということは間違いなく、生物たちの生態に影響がないかなど、継続的に調査が必要だと父が判断した為だ。
教会は改めてトーマス・レギゼントが大神官に就任し、お目付け役としてそのままヘイル卿も補佐として神殿に残っている。
アイも学園卒業ア後は神殿で自分が出来る事を探していきたいと言っていたのでヘイル卿も安心だろう。
王国第1、第2騎士団は、今回リュシードの魔道剣での活躍が強く評価され、王国騎士団統括に叙任されたのだ。
あの最後の戦いでは、一人で魔獣を屠っていた為、とんでもない数だったのは言うまでもない。恐らく王国騎士団の伝説になるでえあろう程の実績で国王陛下も非常に喜んでいたのだという。
ハリアスは魔力調査と魔力の研究の責任者となり、今は学園に通いつつも非常に多忙な日々を過ごしている。
セシリアも魔法研究と魔力調査には間違いなく貢献できるであろうということで、ハリアスの補佐という形で同行しているのだ。
「――ねぇ?今日の卒業実技試験…ちょっと張り切りすぎじゃないですか?」
「そうかい?――きっと楽しめると思うけど?」
セシリアの怪訝そうな問にも全く動じないハリアスはむしろ楽しそうに言葉を返してくる。
毎年行われる恒例の卒業実技試験は、魔法科と騎士科を合わせた229名がA~Eランクに別れ、討伐試験を行うことになっている。
C~Eランクは難易度の低い王都周辺でも主に害獣駆除にあたるような討伐が用意されている。
しかしA~Bランクはモラン山の魔獣を対象とした討伐訓練なのだ。
特にAランクは一番魔力が濃い石碑周辺のエリアとなっており、Bランクは比較的安全な麓付近エリアとなっている。
実はこれまでの卒業実技試験と全く違う内容が今回から加えられている。
Aランクの討伐対象は、なんと魔法石に閉じ込められた魔獣が対象だからである。
しかも討伐ではなく封印なのである。
セシリアも反対派しなかったが、これからこの世界がどうなっていくかわからない以上訓練は実技をより現実に近い形で行った方が良いというハリアスの勧めにより、
魔法石の高ランク魔獣を6体石碑周辺に解き放ち、麓周辺には中ランク魔獣を10体解き放った。
今回のAランクの2組は、1組目がハリアスとセシリアのペア。2組目はリュシードとアイのペアとなっている。
BランクはもしAランク魔獣が麓に降りてきても対処できるように、王国騎士団でもリュシードの認めた魔道剣使いたちが10名選ばれ、万が一の事態に備え待機している。勿論Bランクの生徒たちのサポートにも入ることになっている。
――張り切りすぎじゃないか?とセシリアは言っているが、決してそのようなことはない。
まず選抜隊である4人であれば高ランク魔獣であっても6体など問題ない数であったからだ。
しかし、この世界から聖魔法が消え光魔法になったことで、威力がどの程度なのかを確認する必要があるということと、
女神の加護がなくなってもローランド王国の王太子、王太子の婚約者、聖女、聖女のパートナ―がいかに優秀であるかを知らしめるためでもあるのだから。
――だからAランクは4名だけなのである。
高ランクの魔獣を6体を4人だけで全て封印したとなれば世界はローランド王国を舐めるような真似はできないだろう。
都合の良い牽制となるのだ。
卒業実技試験は案の定Aランクの2組は競うように次々と魔獣を封印し、30分経たずして実技試験を終わらせることに成功した。
大々的に王国内だけでなく他国にも4人の英雄が名を轟かせることになるのだろう。
Bランクの生徒たちも誰一人負傷することなく10体の魔獣を全て封印できたそうだ。
次で完結となります




