41…覚悟
「――リア…私たちも話せないか?」
「――…はい。」
私たちは特に移動することなくその場で話し始めた。
「――あの…私が外の世界から転生したって…話してなかったですよね」
「そうだね。――まさかアイ嬢と同じ世界から来たとは思わなかったかな。」
「ごめんなさい――私は今回初めてセシリアに転生したそうなんです。今までは私とは全然性格が違う魂がいくつもかわるがわるやり直しのたびに転生していたようなんですが、女神様がもうやり直せるのは最後だからって元のセシリアとは真逆の性格の私の魂を呼び寄せたらしいんです。」
「…え?…それって…」
「不思議ですよね。今までセシリアだけは全て別人だったらしいんです。それでも毎回結果は同じだったんですから。
これまで幾度となくやり直しても、セシリアは魔人化して、ハリーが後を追うように魔人化したそうです…」
「……」
セシリアの言いたいことが伝わったのだろうか。ハリアスは真っ青な顔で押し黙ってしまった。
「ハリーはとても誠実なのだと思います。婚約者であるセシリアを毎回愛してくれたんですから。…私の事も――」
苦笑しながら見つめると、彼は泣きそうな表情をしながらも、目を逸らすことなく見つめ返してくれる。
「――嬉しかったです。前の世界でも恋なんてしなかったから、すごく貴重な体験ができました。
多分、私以外は皆同じようにやり直ししているんです。それでも皆、私を好意的に見てくれてました。
元々セシリアは、実は悪役令嬢と呼ばれるほどの高位貴族らしい典型的なお嬢様だったんです。
突然異世界からやってきたアイが聖女としてハリーと仲良くしているのを、嫉妬していやがらせしたりしてしまうような人でした。
アイの性格を考えると、そうなってしまっても仕方がないのかな?と思うことはありましたけどね。
私はアイと同郷なので、苛だちを覚えることはなかったですけどね。
最初ハリーは元々のセシリアの事は嫌いなんだとばかり思っていました。
今までのハリアスは、いつもセシリアにそっけない態度をとっていたようなので…。
私の事を好きになってくれたのは、元々のセシリアと違う性格だったからなのかなって…。
ーーでもちがってたんですよ…
ハリーは毎回違うセシリアに真摯に向き合って愛情を注いでいたらしいんですから。
―――だから…これから女神様の干渉のない未来の決まっていない世界になって、私はこのままハリーの婚約者でいていいのかなって…思っったんです。」
「――リア…」
「――私…元の世界に戻るつもりはないですよ?。
この世界が大好きだし、魔法も魅力的だし、家族も仲間も皆大好きなので。その覚悟はできています。
…ただ、ハリーには考えてほしいんです。
決められた世界線から外れて、自分の意志で人間関係をこれから築けるようになるはずです。
それでも私と婚約を続けるか…それとも解消するか――」
「――待って。」
まくし立てるように早口で話していたセシリアをハリアスは落ち着いた声音で止めた。
「リアの気持ちはわかったよ。
今の君以外のセシリアの事も、私は真剣に愛していたんだね。
それが決められたことだったから、今の私たちの関係もそうだ…と思っているんだよね。
ーーそれなら私の話を聞いてほしい。
幼いころに婚約者を決められて、将来の伴侶だと言われたら、私はきっとその令嬢を一生懸命愛したと思う。
だけど、今の私はもうすぐ成人を迎える年齢なんだ。誰かの指示で行動を決めるような年齢じゃないんだ。
今リアを愛している想いを途中で覆すような行為は、民を守る王族としてしてはいけないと思っている。
だから私の気持ちが今後他の人に移ることはないと断言できるよ。」
「…わかるわ…それが王族の務めだものね‥」
「――あと、私は小さいころから君が大好きだった。何でもできて、行動力があって、競争するのが本当に楽しかった。
正直他の誰とも分かち合えない素晴らしい経験だったと思っているよ。
――学園に入ってからもリアはどんどん綺麗になって、魔法の才能も輝いていて、みんなの人気者だったリアが、誰かに取られてしまうんじゃないかっていつも心配だったんだ。
アイ嬢がこの世界に来た時から、私は毎日のようにアイに嫉妬している。
――私はね。確かに義務だと考えれば、誰の事でも真摯に愛することはできるかもしれない。だけど、心から欲しいと思えるような令嬢は、私と切磋琢磨してこの王国を支えてくれるような格好良くて心まで美しい君のような令嬢なんだ。
だから、もし今までのセシリアの性格が今のリアと違ったのであれば、私の初恋は君なんだよ。
きっと今までのセシリアを愛していたとしても、国よりもセシリアを優先にはしなかったはずだ。違う?」
「…そう…だったわ…」
「――だろう?
私はリアに対してはいつも必死なんだ。初めてデートに誘った時だって、合宿の時だって…
…いつだって2人きりになれないかってヨコシマなことばかり考えている。
誰にもリアを触れさせたくないし、見せたくない。
アイ嬢とだって未だに牽制しあっている。
私はリアの前ではそんな情けない醜態をさらす未熟な王太子なんだ。
――それでも未熟だからこそもっと強くなりたいと思っているし、これからのリアとの毎日が楽しみで仕方ない。
1分1秒でも長くそばに居たい。
この想いは決められた世界だからなんて理屈に収めたくなんてないんだ。
――わかってくれる?」
いつの間にかセシリアの両手をぎゅっと握りしめたハリアスは熱の籠った眼差しで想いを伝えてくれていた。
気づけばぽろぽろと止めどなく涙は溢れ、傍にいるハリアスの顔がどんどんぼやけてゆく。
――わかっていた。
物語のハリアスは、ここまで熱い感情をさらけ出してくれる人ではなかったことを。
だからいつも戸惑いを隠せなかったことを。
愛されていると嫌というほどわからせてもらえたことを…
物語のハリアスはセシリアを愛していたらしいが、いつも国が優先だった。
だからセシリアはアイに嫉妬したし、寂しかったに違いない。
――デートなんて魔人になるまでの間に1度もしていなかったはずだ。
――お茶会だって月1回すればよい方だっただろう。
私には毎月3回以上デートに誘ってくれて、それ以外の日でお茶会もした。
毎日学園とか選抜隊の訓練で、会わない日はほとんどなかった。
――今までのハリアスとは全く違う。
「――ハリー…大好き…」
涙を流し汚れ過ぎたイブニングドレスに、何度も染みを作りながら満面の笑みでハリアスに告げた。
――ハリアスの顔はもう見えないけれど、暖かい雰囲気はちゃんと伝わってくる。
(…幸せって…こういうことなのかな…)
しみじみ感じてしまった。
ハリアスはグイっとセシリアの腕を引き寄せ、強く強く抱きしめた。
胸に閉じ込められて見えないけれど、震える身体がきっと泣いているのだろうと察することができた。
ぽたぽたと私の耳の近くが濡れていくのもわかる。
嗚咽を零しながら何も言葉にできず2人は抱きしめ合った。
――やっと…やっと感じられた。
私はこれからこの世界でセシリアとして生きていくのだと。
――きっと先の事は予想なんてできない。
でもそれは当たり前の事。
先がわからないから悩むだろうけれど、立ち止まるたびにこうやって話ができたなら、私は後悔することはないだろう。
今のハリアスの気持ちが嬉しいから。
きっと――きっとこれで良いんだと思う。




