38…反撃
「――セシリア!!」
アイの叫ぶ先には凛とした立ち振る舞いのセシリアの姿があった。
「――な…何故?!何故戻ってこれたのだ?!!」
ぶわっと風が吹くとセシリアたちの目の前には魔神の姿が浮かび上がる。
本体がないためか透き通って見えるが、恐ろしいほどの闇の魔力を纏い怒りを露にしているのがわかる。
「よくも私を闇に引きずりこんでくれましたわね!…あのような悍ましい幻影まで見せるだなんて!」
「はっ!あれは本当に幻影かのう?現実やもしれんぞ?」
「いいえ!貴方にはもうだまされないわ!私とハリーの貴重な時間を、あんなものを見せて台無しにしてくれたお礼‥きっちり倍にして返させていただきますわ!!」
「何を馬鹿なことを!!先ほどまで消えたいとほざいておった者の言葉とは思えぬな!強がりなどよせ!我のモノとなるのだ!」
魔神の言葉を鼻で笑うと不敵な笑みを浮かべ、先ほどのことなど身に覚えもないかのようにセシリアは笑ってみせる。
「強がりかどうかは確認してみなさい。私が女神様の代わりにあなたを滅するわ!」
言葉と同時に胸元のネックレスをぎゅっと握りしめると聖属性の魔法剣を発現させ魔神に向かって駆け出す。
「アイ!!援護をお願い!!」
「任せて!!!」
セシリアの魔神への攻撃に向けて、アイも聖魔力で闇魔力を抑え込み空間浄化を強化させる。
魔神へ聖魔力の籠った一撃を繰り出し、誰もがその素早さに勝利を意識した。
―――キィィイインっ!!
鋭い刃のぶつかり合う衝撃音が辺りに響き渡る。
セシリアの目の前にいたのは真っ黒な刃を握りしめ、全身を黒い靄で覆わせたハリアスの姿だった。
「ハリー?!!」「「殿下?!」」
3人は自分の目を疑い、目の前の男を凝視する。
「ふふふ…まさかセシリアではなく王太子が我のモノになるとはのう?ははは。よい!!良いぞ!面白いではないか!愛するもの同士殺し合うがよい!!
どちらかが我の器になればよい!」
「――いいえ。私はハリーを傷つけない!!私たちはそんな力に屈しない!!」
刃を交えたままセシリアは更に聖魔力を刃に流し込んでゆく。
「――これは貴方の力!!闇の魔力になんて絶対に屈しない!!戻ってきて!!」
真っ黒に染まりきっていた刃は聖魔力によってどんどん浄化されていくように白く輝いていく。
それに呼応するようにハリアスはうなり声をあげ苦しみ始める。
「――ぐぅ…ぅあぁあ…」
ハリアスの持っていた魔法剣は消え、苦しむようにハリアスは両手で頭を押さえ藻掻く。
「――大丈夫!今助けるわ!」
セシリアはハリアスの胸倉を掴み、グイっと自分に引き寄せ後頭部に手を回すと降りてきた彼の唇に吸い付いた。
目を見開き固まるハリアスに愛を込めて魔力を注ぎ込んでゆく。
次第に体にまとわりついていた黒い靄は霧散し、瞳には光が戻っていた。
ハリアスの固まっていた体は優しくセシリアを抱きしめる。ゆっくりと唇を離すと目の前には、いつものように優しく微笑みを返す彼がいた。
「――リア、ありがとう。」
「――…私こそ!!」
2人は苦笑しあうと強く抱きしめ合った。
「…な…我の闇魔力より聖魔力が勝るハズなど…女神の力は弱まっているはず…あ…ありえぬっ!!」
顔を蒼白させ愕然としている魔神は、信じられないものを見るように震えていた。
たとえ復活していなかろうと…我の力は繰り返される度により強くなった…この世界で我より強いものなどおらぬ…なぜなのだ!!」
次第に魔神の周りは禍々しい黒い靄が集まって体の中に吸収されてゆく。
「――どんなことがあろうとも…たとえ封印が一時成功しようとも…我を倒せるなどと考える浅はかな者どもよ‥もう器などいらぬ…すべて壊し無に帰してやるっ!!」
「貴方はわかっていないわ!!女神様が何故何度もやり直したのか!
私たちが勝てると信じていたからよ!!
貴方のような身勝手な愛になって絶対に負けないわ!!私たちが貴方を消滅させる!!」
「はっ!その聖魔力をカラにした魔法石でどうやって抗うのだ!!」
「――おやおや…魔神は私たちが魔法石を1つしか持っていないと思ったのかな?」
ハリアスがセシリアから体を離し不敵に微笑むと自身の指輪が光を発する。そして彼の周りにはいくつもの魔法石が発現し浮かんでいる。
「――なっ!!まさか!!」
「私たちだって色々と学んでいるのですよ?自分たちの今の力だけで魔神を倒せるなど思うはずがない。我々の本気と魔神の本気比べてみようじゃないですか!」
「…ふ…ふざけるな!!!我が負けるなど万が一にもあり得ぬ!!後悔するがいいっ!!」