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転生悪役令嬢の生存作戦  作者: 芹屋碧
3章 悪役令嬢は立ち向かう【最終章】
32/43

32…誕生日前夜









 「お嬢様、旦那様がお呼びです。」


 「――わかったわ。」


 恭しく頭を垂れる侍女は、セシリアに伝令を告げると扉の外へ出ていく。

 セシリアは特に着替えることはなく、デイドレスのまま父の待つ執務室へと向かった。


 ―――コンコンっ



 「――お父様、セシリアです。」


 「入りなさい。」



 キィ――…とドアを開けると、執務室の椅子から移動してソファに腰かけようとする父の姿があった。

 

 「かけなさい。」


 侍女が2人の分のティーセットの用意を済ませて退出すると、父は紅茶を啜ってから薄く微笑みながら話を始める。


 「定期調査の報告の後から選抜隊の訓練も忙しいようだが、体は大丈夫か?」


 「問題ございませんわ。聖魔法の使い方もかなり慣れましたし、体力もついてきたのでバテる心配もなさそうです。」


 「そうか、それならば安心だ。

 本当であれば明日のお前の誕生日は盛大に祝ってやりたかったが、この状況では難しいだろう。だが、私はお前がこんなに大きく成長してくれて誇らしく思っている。」


 「お父様にそうおっしゃっていただけるのであれば私も嬉しいですわ。」


 穏やかに会話を楽しむのはいつぶりだろうか。いつもぴりぴりしていた父も今日は優しい表情で話しかけてくれている。

 お互い調査団や訓練が忙しく、会うのは夕食の時位だったので心も満たされていくようだ。


 「魔神(グリムディア)がこれから1年の間に復活する予定なのだろう?それが片付いたあと、近しいものだけで誕生日はしっかりと祝おう。」


 「ふふ…その気持ちだけでもうれしいですわ!」


 「しっかり祝いたいからな。昨年も祝ってやれなかった…

 ――それで今夜なのだが、王太子殿下がセシリアを晩餐に招待したいと連絡がきたんだ。今から用意できるな?」


 「まぁ!ハリアス様がですか?承知いたしました。用意いたします!」


 昨年は朝学園へ投稿途中にサプライズで祝ってくれたが、今回は前夜にお祝いをしてくれるらしい。

 ロマンチックなお誘いにセシリアは心躍らせるのであった。





 ***





 夕刻には王宮から馬車が寄越され、セシリアは豪華なイブニングドレスを纏うと馬車に乗り込んだ。


 着いたのは王宮のハリアスの住む離宮で、ハリアスが自ら侍従たちと共に出迎えてくれる。


 「セシリア!待っていたよ。今夜の装いもとても美しいね。」


 眩しいものを見るかのように微笑みながらセシリアの手を取るハリアスは全身白の正装で装いとても美しい。


 「ハリアス様もとても素敵ですわ。ご招待いただきありがとうございます。」


 久しぶりによそよそしい会話をする2人はくすぐったくて微笑みあってしまう。


 「今夜は晩餐に誘ったけれど、2人でゆっくり過ごしたかったからね。ここからはいつも通りで構わないよ。」


 ふふっと微笑みながらエスコートで腕に差し込まれているセシリアの手に、優しく手を添える行為に思わずどきっと胸を高鳴らせてしまう。


 「――それは良かったです。…気兼ねなくお話を楽しめますね!」


 

 案内された部屋はハリアスの私室のバルコニー。

 そこにはすでにテーブルセットが用意されており、着席すると執事が給仕をしてくれる。


 「明日はリアのお誕生日だからね。前夜は私が独り占めしたかったんだ!」

 

 「嬉しいですわ!こんな素敵な夜景を見ながらお食事できるなんてとても幸せです。」


 バルコニーから見える夜景はとても美しい。下に見える庭園もライトアップされ、王宮を見渡せば美しく光り輝いている。


 「あぁ、私もここからの夜景は存外気に入っていてね。ゆっくりリアと過ごしたかったしちょうど良いと思ったんだよ。」


 「そのお気持ちが嬉しいですわ♪」


 次々と運ばれる料理はどれもセシリアの好きなものばかりで、美味しい食事と楽しい会話に時間はあっという間に過ぎていく。


 「―――リア。折角美しいドレスを着ているんだ。良ければ一曲躍らないかい?」


 テーブルセットが用意されてはいるものの、ハリアスの私室のバルコニーは非常に広く、十分自分たちだけであれば躍るだけのスペースはある。

 気づけばハリアスは執事に指示を出し楽士を数名呼んでいた。


 「ちゃんと音楽もあるから心配いらないよ。いかがですか?レディ?」


 「さすがハリーですね。喜んでお受けいたしますわ」


 ハリアスはセシリアのテーブルのすぐそばまで寄ってくると、恭しく頭を垂れて手を差し出した。セシリアがその手を取って立ち上がると音楽が奏でられ始める。

 美しい音楽と夜景に酔いしれながら、2人は優雅にダンスを楽しむ。

 誰かに見られることのストレスも感じない空間は見つめ合い寄り添う彼らに2人だけの世界を感じさせる。


 「――まさかハリーとこんな素敵な前夜を楽しめると思いませんでした。」


 「私は独占欲が激しいからね。君の時間を少しでも私のものにしたかったんだ。私が送ってくれたネックレスもイヤリングもしてくれて嬉しいよ。」


 「ありがとうございます。まさかこんなものまでご用意して下さるなんて思いませんでしたわ!」


 「ふふ。贈れば素敵なドレスを着てくれるだろうと思ったからね!」


 「それは勿論ですわ。ただ…この装飾にはめ込まれた宝石も魔法石ですね?」


 「あぁ、いつでもリアにあげる贈り物には、君を守れるものを用意したいと思っていたからね。気に入ってくれた?」


 「当然です!こんな素敵なアクセサリーにしてプレゼントして下さるなんて、私にはもったいないくらいですわ。」


 ステップを踏む度にしゃらんと揺れるネックレスとイヤリングは、それぞれ大きなペンダントトップに魔法石がはめ込まれており、その魔法石を鮮やかに彩るように、宝石やチェーンが美しく施されていた。


 ダンスを楽しむと、2人は楽士やメイドたちを下がらせて2人きりの時間を楽しんだ。

 

 ゆっくりダンスを楽しんだ後、室内に入り紅茶を啜りながら会話を楽しめば、あっという間に夜も更ける。


 「大変ですわ!もうこんな時間…そろそろお暇しなくてわ!」


 時間を忘れて会話を楽しんでいたセシリアは慌てて時間を見ると、すでに0時をあと数分で回りそうであった。


 「大丈夫。今夜はちゃんと別室にリアの眠る部屋を用意しているから。どうしても誕生日をリアと過ごしたかったんだ。

 公爵にはちゃんと話しを通してあるから安心して良いよ。」



 (――え?!まさか…お泊り?!)


 「――でもこんな時間に二人っきりだなんて…良いのですか?」


 「よくなかったら呼ばないよ。大丈夫、リアを傷つけるような行為は絶対しないと誓うから。ただ一人占めしたかったんだ。」


 「嬉しい♡私もハリーを独り占めできてうれしいです!」


 微笑みあう2人は自然と体を寄せ合い抱きしめ合っていた。

 そのぬくもりはセシリアの心を安心させ、ハリアスを想う気持ちを脹らませていた。


 (――あぁ、これから先もこんな生活がずっと続きますように…)


 心からの願いであった。


 ――しかし、突然何故か言いようもない不安な気持ちが押し寄せる。



 不安を紛らわせるために顔をあげ見上げたハリアスの顔は、まるで虫けらを見るような冷たい眼差しをセシリアに向けていた。



 (―――え?)

  

 ――セシリアは17歳を迎えていた。



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