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転生悪役令嬢の生存作戦  作者: 芹屋碧
2章 転生悪役令嬢は仲間と備える【3学年】
17/24

17…逢瀬









  ―――本当に来てしまった…


 美しい自然に囲まれたバトネ領の南にあるチェオリア湖は、女神の加護を受けた場所の1つとして有名らしい。

 しかし、聖域として守るため、チェオリア湖付近の森は塀で封鎖されていて、許可を得たものしか入ることを許されていない。

 管理はバトネ公爵家で行ってはいるが、王国の必要な儀式の際に、この湖は王家主催で使用されることもあるのだという。

 別荘は綺麗に整備されていて、邸の中では使用人が20名近く働いてくれている。

 

 6月の長期休暇初日、4人はランチを学園で済ませてから馬車で一緒にやってきた。

 最初はハリアスの煽りもあり緊張していたセシリアだったが、皆空気を読んでいるのか、いつも通り和気あいあいと他愛もない話で盛り上がっていた。


 「部屋は1人部屋を用意できていますので、夕食まで自由時間にしましょうか!」


 2人部屋でもよいとは思ったが、恐らくリュシードが王太子(ハリアス)と同室は良くない気がして、あえて1人部屋で案内した。

 アイはセシリアと同室を期待してくれていたようだが、強化訓練もあるので疲れをしっかり癒すためにも1人部屋の方がよいだろうと考えた。


 セシリアは特にこれといった荷物は用意してはいなかった。

 封印魔法関連の書籍は持ってはきたが、それ以外は必要最低限の着替えやケア品程度だ。

 この屋敷の中にも訓練用の場所が用意されているので、訓練用の防具や服もそこで手配できる。


 ―――コンコンっ


 片付けも済んでソファに腰かけ一息ついていると、アイが部屋にやってきた。


 「――セシリア、私…今からリュシードに言おうと思うの!!」


 「え?…まさか…告白…じゃないよね?」


 「告白に決まってんじゃん!」


当たり前だという顔をしてアイは胸を張って答える。


 「――でも今日から合宿だよ?…気まづくならない?」


 「ちょっとー?まさか私がフラれると思ってる?」

 

 「そ…そういうわけじゃないけど…万が一ってことも…そしたら合宿の間…顔合わせにくくならない?」


 「…セシリア、私は振られたって別に後悔はしないよ。今日からのお泊り会は、選抜隊合宿だってちゃんとわかってる。

 私たちいつどうなるかわからないじゃない?だから始まる前に私はちゃんと伝えたいって思ったんだ。

 突然元の世界に帰ることになったとしても、もし明日死んだとしても、私は今を後悔したくない。折角セシリアが誘ってくれたんだもん。

 もし振られたとしても、きっとリュシードはこれまで通り仲間として接してくれるって私は信じる。

 だから今から行ってくるね!」


 「…アイ、私は応援してるからね!後で話も聞くから!」


 「うん♡行ってきます!」


 見送ると、セシリアまで胸がどきどきと鼓動しているのが分かった。

 ーー私たちは今を生きている。

 先のことはわからないけれど、一瞬一瞬を大切にしたい。

 そんなアイの想いが伝わってくる。


 「…私はどうしたいんだろう。」


 思わず零れ出した言葉は、自分の率直な想いだった。

 この1年、本当にハリアスは優しくしてくれるだけじゃなくて、距離感を縮めてくるし、甘い言葉も多く囁いてくれるようになった。

 今までの友人関係とは明らかに違うとセシリアでもわかる。

 誕生日プレゼントも、もしかしたら本当に愛されているのかもしれないと感じつつある。

 しかし、セシリアの中には、やっぱり魔人化してしまう恐怖があったし、恋愛感情に溺れて彼に嫌われないかという不安もあった。


 ――未来を変えようと努力している。


 しているけれど、時折自分の行動が間違っていたのではないかと不安がこみ上げてくる。


 ――自分は弱い。


 セシリアは自分と向き合うようになって、自分が弱い人間なのだと改めて思い知った。

 強がって、結果が出やすい成果のでることにばかりのめり込んで、目に見えない自分の心を置き去りにしてしまったから、心と行動がちぐはぐなことが多いのだ。

 それをアイは理解してくれて、一緒に頑張れるようになって大分向き合えるようになったけれど、ハリアスが自分を大切にしてくれればくれるほど、自分はこれでよいのかと不安にもなるのだ。


 ――なんでこんなに不安になるんだろう…。


 答えの出ない迷路に迷い込んだように、窓の外を見つめながら呆けてしまっていた自分がいた。

 外にはリュシードと並んで笑顔で歩みを進めるアイの姿があった。


 「…アイ…私なんかよりずっと強い…」


 アイの微笑む姿を見守りながら、いつの間にか今を全力で生きる彼女に憧れていた。

 


 ――コンコンコン…


 「―?…はい?」


 「私だけど…入っても良いかい?」


 (――ハリー?!)



 「――どうぞ。」


 扉を開けると、そこにはシャツとジレとトラウザーズ姿のハリアスの姿があった。


 「もう片付けは終わったんですか?」


 ハリアスを部屋の中へ招き入れると、ソファに腰かけるよう勧めて紅茶を差し出す。


 「―ありがとう。片付けは終わったよ。

 アイ嬢がリュシードを必要としていたから、私もリアに構ってもらおうと思ってきたんだ♪」


 「ふふふ、では湖周辺を散歩でもしますか?」


 ウィンクしながら誘ってくる言い方が可愛らしくて、思わずくすっと笑ってしまうセシリアを、ハリアスは眩しいものを見るように目を細めながらも嬉しそうにこちらを見つめている。


 (…なんだか部屋に2人きりは余計緊張してしまうわ…)

 甘い雰囲気が部屋の中に漂い始め、緊張してもじもじしてしまう。


 「いいね。だけどリュシードたちとうっかりばったりは気まずくなるだろう?

 私はリアとここでゆっくり過ごしたい。」


 リュシードたちに気を遣うような言いぶりなのに、なぜか自分が狙われているかのように感じてしまう。

 向かいあって座っているだけなのに、すべてを脱がされて丸裸にされてしまいそうな雰囲気にセシリアはどう抗ってよいかわからない。

 無意識に心許なくなって、ネックレスを指でそっと撫でて気持ちを落ち着かせようとすると、ハリアスは顔を綻ばせる。


 「―嬉しいな。私がプレゼントしたネックレス…そんなに気に入ってくれていたんだね♡」


 「え?…あ…はい。すごく素敵なので…」


 自分が無意識に触っていたことに気づくと、慌ててぱっと触っていた手を離し、両ひざへ手を置いて居住まいを正すが、真っ赤になった顔とがちがちに固まった様子で、きっとハリアスにはバレバレだろう…

 セシリアの頭の中は恥ずかしさでどうしたらよいかわからずオロオロすることしかできない。

  


 「緊張してる?…2人きりなんて珍しくもないのに」


 確かにこの1年2人きりで出かけたり、話したりすることは増えた。しかしセシリアの心が無意識(・・・)に彼に煽られているように感じてしまうのだ。

 自分がドキドキして、もしかしたらキスするんじゃないかとか想像していることを、見透かされている気がして恥ずかしくて堪らない。

 返事をできずに俯いているとハリアスはいつの間にか隣に移動して腰かけていた。


 (――え?!いつのまに?!)


 驚きすぎてハリアスを見上げると、情欲に染まった彼の顔が目に映る。

 ほんのりと上気した頬は、彼の色気をぐんと引き立たせ、潤んだ様にこちらを見つめる瞳はきゅんと胸を締め付けるように心をかき乱す。

 少しだけ艶っぽい唇と唇の隙間から覗く舌が何とも言えない色気を放ち艶めかしい。


 「あ…ハリ…アスさ――」

 思わず緊張して呼び方を変えてしまった自分に後悔する間もない。

 呼んでしまった瞬間被せるように唇が何かで塞がれる。


 あたたかくてフワフワして、それなのになぜか唇をちゅるんとなぞられる感覚に、ドクンと鼓動が高鳴り更に顔がのぼせていく。

 

 「――んっぅ…」


 ―――はぁ・・・っ


 吸い上げられ名残惜しむようにセシリアから離れた唇は、濡れた果実のように赤みをおびてプルンと揺れた。

 セシリアはハリアスの唇が美味しそうで目が離せない。

 ほんの数秒の出来事が身体中を熱くさせ、熱に浮かされたかのようにハリアスの情欲に煽られたくて堪らなくなっていた。

 

 (――甘い…)


 混乱する脳内はただ彼の味を思い出し、まだ足りないと求めている。



 呆けるセシリアの初めてのキスは、甘くとろけるような蜜の味だった。

 


  

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