16…ご褒美
「う~~~…緊張する…」
カフェテリアでいつものように4人でランチに来たが、アイは1人真っ青な表情で項垂れていた。
「大丈夫よ!頑張ったじゃない!きっと良い結果が出せるはずよ!」
今日は3年生の5月テストが終わったばかり。初めての総合成績の発表されるテストだったのでどうやらかなり緊張していたらしい。
「…聖女なのに成績低かったら恥ずかしい…」
学園のテストは年3回あり、前期テストと後期テスト。それ以外に今回の5月の総合テストがある。
アイは後期テストは2年の終わりに初めて受けて、その時もこんな感じで項垂れてはいたが、成績表は張り出されるものではなかったのでそこまで落ち込みはしなかったらしい。
しかし、後期テストでは88人の魔法科で43位という微妙な順位だったらしく、総合成績では一体どうなるかと余計緊張していたようなのだ。
今も顔が真っ青でリュシードがアイの背中を優しく撫でてあやしている。
――うん。…もう誰が見ても恋人っぽいわ…。
セシリアの誕生日以降、アイが積極的になったのは納得できるが、何故かリュシードまで積極的になり始めたのだ。
――なんで??
一体何があったのかはわからないが、もしかしたらハリアスの行動にリュシードもあてられたのかもしれない。
去年の自分たちとは全く違う甘い空気に、周りの学生たちまであてられてしまっているらしい。
ちらっと周りを見渡しても、皆真っ赤な顔をして呆けている。
すでに有名なカップリング扱いをされているらしく、誰も文句を言うこともなくなった。
そういえば文句を言っていたディアも、未だに苦言は挟んでは来るものの、そこまでひどくはなくなったように感じる。
「どんな結果が出たとしてもそれは結果だから。受け止めるだけだよ。私たちは止まっていることはできない。違うかい?」
紅茶を啜りながら微笑むハリアスは、慰めているつもりかもしれないが、挑発しているようにしか聞こえない…
すでにアイのの頭には角が生え始めているように見える。
――お…鬼化?!
…実際に鬼化しているわけではないのに、まるで鬼のような形相にセシリアも慌ててアイの頭を撫でてあやすしかない。
リュシードは目でハリアスを非難するが、ハリアスは知らぬ存ぜぬな態度である。
ハリアスとアイは未だにこんな調子で、何かあるたびに喧嘩になりそうになりながらも、なんとかなんとかやっている。
ハラハラはするのだけれど、私には2人がぎくしゃくしているようには見えなくて、むしろ言いたいことを言い合えているようにも見えて、微笑ましくも感じてしまうのだ。
…そんなことをアイに言ったら数時間かけて文句を言われそうなので言わないが、私たちの関係はこの1年で本当に良い意味で変わったと思う。
「――そうだ!!それじゃもうすぐ長期休暇だし、石碑の定期調査の前にみんなで湖の近くにある別荘でお泊り会なんてしませんか??」
セシリアは、先日父から別荘の近くのチェオリア湖で、休暇を過ごすのはどうかと言われていたことを思い出した。
本当であれば、魔神がいつ自分に憑依しようとしてくるかわからないので、休暇などとっている場合ではないかもしれない。
しかし、貴重な学生生活を楽しむことも忘れないでほしいと父が助言してくれたのだ。
確かに3年生となった私たちは、学生生活自体もあと1年と少しなのだ。魔神に翻弄されるだけの学園生活はちょっと寂しくも感じる…
4人でのお泊りなら、強化合宿もできるし問題もないのでは!と期待してしまったのだ。
「――お泊り会?!」
しかし、思った以上に3人は想定していなかったようで、ハトが豆鉄砲を食らったかのような顔で目を丸くしていた。
「…だ…ダメでしたか?4人だったら、選抜隊としての強化合宿としてもよいかなと…思ったんですけど…」
「良いと思うよ!!そうだろう?リュシード?アイ嬢も行きたいよね?」
しばし沈黙の後、ハリアスはすぐにセシリアの案に乗っかってくれた。
「そ…そうね!いきなりお泊りの提案はびっくりしたけど、良いんじゃない…かな?」
いつもならすぐにノリノリで喜んでくれると思ったのに、アイは少し視線をさまよわせながら照れているようにも見える。
――私なにかまずいことを言ってしまったのかしら?
「セシリア嬢の大胆さにはたまに驚かされるな…」
リュシードまで・・・
なぜなのかわからずセシリアが逡巡していると、ハリアスの顔がいつの間にか近づいていた。
「まさかお泊りを誘ってくれるなんて…ご褒美のつもり?…期待してよいのかな♡」
耳もとで囁かれた言葉に、やっと自分の言ってしまった意味を理解した。
「いやっ…それは…えっと…その…」
自分の誘いが、【恋人たちのお泊り会】のように聞こえてもおかしくない発言だったことに動揺が隠せずうまく言葉が紡げない。
「…まぁ…私たちは友人関係なわけだし?…いいよね?4人なら♡」
アイのフォローも、すでに気付かされた今となっては羞恥でしかない。
――私から異性をお泊りに招待するなんて…何考えてるの!!
ーーそう、本当であれば日帰りが無難だったのだろうが、訓練だけじゃなく、散策やバーベキューなど沢山楽しみたいと思ってしまったセシリアは、日帰りではなく【お友達のお泊り会】を純粋に想像してしまっていたのだ。
しかし恋する少年少女がお泊りなど、何もないと思う方が不自然なわけで…
周りの学生たちも動揺してキャーキャー騒いでいることにやっと気づくのだった。
一番言い出しそうもないセシリアが誘ってしまったことで、お泊り会は確定してしまった。
勿論カフェテリアから出た後、アイには滅茶苦茶感謝されたのだが、「期待してよいのかな?」と、挑発してきたハリアスの言葉で、セシリアはそれどころではなくなってしまったのだった。




