15…花言葉
「リュシード!!」
振り向いた通学路には全身で呼吸をして、息を荒げるリュシードの姿があった。
「――何をやってるんですか…殿下…朝から…いい加減にしてください…」
どれだけ探し回ったのかわからないが、相当走り回ったのだろう。普段なら滅多に怒らないリュシードの目が血走っているのがわかる。
「―リュシード、勝手に抜け出したのは悪かったけど、今日はリアの誕生日を祝いたかったんだ。今は少しだけ時間をもらえないか?」
明らかにハリアスが悪いのに、動揺することもなく淡々とリュシードに告げる彼の表情はなんだか大人の男性の表情をしていた。
「・・・・・わかりました。」
(――!!!待ってくれるんだ!?)
明らかにカンカンに怒っているように見えたのに、ハリアスの言葉で落ち着いた…なぜだろう??
セシリアには理解が追い付かなかった。
「…リア、不甲斐ないところを見せてすまないね。16歳の誕生日本当におめでとう。ネックレス、私につけさせてもらってもよいかい?」
「―はい!…お願い…します。」
先ほどの美しいネックレスを向かい合った状態で、ハリアスはゆっくりとセシリアの首の後ろへ手をまわしてカチッと止めた。
真剣なハリアスの表情が近くに見えてドキドキと鼓動が激しくて、聞こえてしまわないか恥ずかしくなって思わず俯いてしまう。
「―これからまた1年よろしくね…リア♡」
耳元で甘い声が囁かれ、くすぐったさを感じた直後右の頬に柔らかい何かが触れた。
パッと見上げると、蕩けるように微笑むハリアスの笑顔があった。
「またあとでね♡」
近かった距離は急に遠ざかり、あっという間にハリアスとリュシードは行ってしまった。
「…キス…?」
セシリアはもういない彼の姿を思い浮かべ、頬を染め上げてその場に立ち尽くす。
――それは16歳になったリアの初めての頬へのキスであった。
***
「――え?!キ――」
「わ―――っ!!!あっあ…アイ、ストップ!」
突然暴露しようとするアイの口を両手で塞ぐと、慌てて大きな声をあげてしまった。
――しまった!!
我に返った時にはもう遅く、魔法科のクラスメイト達はセシリアの声で皆揃ってこちらを凝視している。
「…ご…ごめーんっ」
「…ううん…今のは私がいけなかったわ…」
アイは申し訳なさそうに両手を口の前で合わせて謝ってくれるが、大声を出してしまった自分がいけないので何とも言えない表情でアイを見つめた。
「――それはそうとすごいじゃない!殿下もとうとうわかりやすい行動を示し始めたってことじゃない?」
「え?…どういうこと?」
「は?…だってこの花束も…求愛以外考えられないよね?」
「…この花束が???」
「…まさか…花言葉…知らないの?」
「…そういうのは…あんまり今まで興味なくって…」
苦笑いするセシリアを、残念なものを見るような目でアイは見つめてくる。
(―うぅ…なんだか変な空気になってしまったわ…)
「…まぁ実は私もリュシードに教えてもらうまでは花言葉とか知らなかったし…」
「え??リュシードは花言葉知ってたの??」
「うん!…初めて出会ってから色々教えてもらってた時にね…花が好きって言ったら色んな花が綺麗に咲いている場所教えてくれて、その時教えてくれたの♡」
「…あのリュシードが…花言葉…意外とロマンチストだったのかしら?」
彼はいつも無頓着な表情でハリアスの護衛をしていたので、全く乙女心がわかる少年とは思いもしなかった。
「多分…私のためにわざわざ調べてくれたんだと思う…私が寂しくないように、色々話題を作ってくれていたから…」
恥ずかしそうに思い出話を語るアイは、恋する乙女の表情で一瞬にして空気を甘く変えてしまう。
「…朝からアイの恋心にあてられそうだよ私は…」
「――そんなこと言っちゃってるけどぉ、この花束、カスミソウは【一途な愛】6本のバラは【あなたに夢中】とんでもなく重たい愛の塊だけど?こっちの方があてられちゃうよ!!」
(――何それ?!一途な愛?!あなたに夢中???)
「な…」
セシリアはあまりの驚きに言葉が出てこなかった。
そんな重たいほどの愛情と一緒にこのネックレスをくれたのだろうか…
思わずセシリアは胸元のネックレスを指で撫でてしまった。
「―そのネックレス…聖魔法を感じる…まさかそれもプレゼント?」
目ざとくネックレスを指さすとにやっと楽しそうに微笑む。
「…うん。」
「ちょっと~っ!殿下やばいやばい!セシリア大好きすぎじゃん!♡」
「―――うぅ…」
アイの嬉しそうなテンションとは裏腹に、どう反応してよいか戸惑い微妙な反応しかできない。
「――セシリア、いぃんだって!嬉しいと思ったら嬉しいでよいし、もし迷惑だって思ったなら心の中でごめんなさいってしたらよいんだから!」
戸惑いに気づいたのか、アイは微笑みながらウィンクすると背中を撫でてあやしてくれる。
とても小説の甘えん坊聖女とはもう思えない。
――むしろ今のセシリアにとっては良き恋の相談相手となっている。
「で?…セシリアはどっち?嬉しいの?迷惑なの?」
「…嬉しい♡」
セシリアの言葉にアイは顔を綻ばせる。
「よかった――♡セシリアもやっと恋する乙女かー♡」
「――ちょ…アイ落ち着いてっ!!」
気持ちが高ぶったのか、アイはセシリアを引き寄せるとぎゅうっと抱きしめ喜んでくれた。
確かに素直に嬉しいと言葉に出せたのは初めてなように思う。
少しずつ少しずつ、私たちの関係が変わっていっているのだろうか。
それがむずがゆくもありちょっぴり寂しさも感じるこの状況を、セシリアは戸惑いつつも受け入れたいと思うのだった。




