12…初恋 アイside
「聖女殿、初めまして私はローランド王国王太子ハリアスと申します。こちらは私の護衛ですが、聖女殿と共に行動する際は聖女殿の護衛も致しますので、ご挨拶させていただきます。」
「お初にお目にかかります。ご紹介にあずかりました私は、今後聖女様の護衛も務めますリュシード・キッシェルと申します。」
突然舞い降りてしまった場所は、さっきまでの表参道とは全くかけ離れた海外の神殿?のような場所だった。
大勢の人に見られながらも、手を取った人はものすごい綺麗な王子様?らしい…
今目の前で紹介された男の人も格好良いけれど、この人はちょっと怖そう…
「あ…ありがとうございます。私は三島愛…アイって呼んでください。
――あの…ここがどこかも全く分からなくて…なんでここにいるのかもわからないんです。誰かわかる人いませんか?」
アイの不安げな言葉に、ハリアスは微笑んではくれるものの真意が読めない。隣のリュシードは何を考えているのかハリアスよりわからない。
――きゃぁぁぁぁぁああ!!
「大変だ!セシリア嬢が倒れたぞ!!」
急に辺りが騒然として、その声の上がった方向に視線を向けると一人の美しい少女が石造りの床に倒れている姿が見えた。
「セシリア!!」
突然叫び声が横から発せられたことに驚くと、横にいたはずのハリアスはものすごい形相で少女の元に駆け寄っていった。
(――王子様の恋人…かな?)
ハリアスは不安そうな表情で気を失ったままの少女の手を取り誰かと話し込んでいた。
しばらくするとその男性に少女を任せ、ハリアスは先ほどの慌てぶりが嘘のように微笑みながら戻ってきた。
「お騒がせして申し訳ない。実は今から紹介する予定だった人が倒れてしまってね。すぐに紹介できそうもないから、とりあえず場所を移して話しましょうか。」
てきぱきと神官や騎士に指示を伝えてから、ハリアスはリュシードとともに私を他の部屋に案内してくれた。
部屋は高校の教室くらいの広さで、中央には大きなテーブルを囲うように立派なソファがいくつも置かれていた。
調度品なども置かれているが、豪華ではあってもゴテゴテしておらず、センス良く優雅さも感じられる。
「―――さて、それではもう一度仕切り直しといこう。
私はハリアス・ローランド。この国の王太子だ。私のことは殿下と呼んでもらってもよいかな?
呼び方には作法があって、思うところがあるかもしれないが従ってほしい。私はアイ嬢とお呼びしてよいかな?」
「――殿下ですか。わかりました!私のことはそれで大丈夫です!」
「ありがとう。さっき紹介したリュシードはキッシェル公爵家で高位貴族ではあるけど、アイ嬢の護衛もさせるからリュシードって呼んで構わないよ!
リュシードも良いよね?」
「私は構いません。アイ様よろしくお願いいたします。」
「え??私がリュシードって呼んで良いなら、私の事はアイって呼んでくれなきゃ嫌です!!」
「――そうおっしゃられましても…」
リュシードは本気で困っているようでハリアスに助けを求めるように視線を向ける。
「いいんじゃないか?リュシードはアイって呼んだらよいよ。きっとアイ嬢も知らない人だらけのこの世界じゃ寂しいだろうし、リュシードが仲良くしてやってくれ!私にはセシリアがいるからな。」
「・・・・」
リュシードはじとっとハリアスを見るが、諦めたようにため息を吐くと、アイに姿勢を向き直した。
「アイ、これからよろしく頼む。私ができることであればなんでもサポートしよう。」
「うん!よろしくね!リュシード!!」
全く知らない人たちに囲まれて、初めて仲良くなれそうな気がしたのがこの2人なのだった。
「――それでさっきのアイ嬢の質問なんだけどね?
実は私たちもわからないんだよ。この神殿の君が現れた場所は、女神の信託を授かる場所なんだよね。
あの場所から光の渦が現れたから、大神官が神の使いが現れる予兆だって連絡してきたんだ。そして皆集まっていた場所に、数時間してアイ嬢は光の中から現れたんだよね!
だから私たちは、女神の聖なる使いとして聖女様って呼んだんだ!」
「…セイジョ??…私が女神さまの使い??
…私はただの女子高生ですけど???」
「ジョシコーセー?それは何の職業だい?ユニークな名前だね!」
「違います。仕事じゃなくて学生だよ!私15歳の1年生!」
「学生なのか!私とリュシードは今年16歳なんだ。同じ年かな?」
「うん。私も今年16歳になるよ。初めての知り合いがタメでよかったーー」
「タメ?…なんだろうそれは…」
ハリアスもリュシードも苦笑いしている。
否定はしないが肯定もできず悩ましいようだ。
「タメっていうのは同じ年の人のことだよ!」
「そうなのか!勉強になったよ♪
―――それでせっかく楽しく話ができてもっと話したいところだったんだが、私は外せない用事があってね?リュシードを護衛として今日から3日は預けるから、いろいろこの世界のことを学んでくれるかな?
その後、できれば学園生活を送って一緒に私たちと過ごしてほしいんだ。そのほうがアイ嬢もこの世界に馴染めるだろう?」
「リュシードが色々教えてくれるの?」
「――アイさえよければ教えよう。」
少し口ごもりながらも熱の籠った声音でリュシードは返事をしてくれる。
「やった!学園にも通えるなんて楽しそう!」
「それなら私の方で入学準備や住む場所を決めておくから、3日はリュシードと楽しんで!他にも護衛はつけるから安心してね!」
ハリアスは言いたいことを伝えきると速やかに去っていったのだった。
3日間は王宮のハリアスの住む離宮の客室に泊めてもらい、毎日リュシードが送り迎えをしてくれる。
朝から帰宅までずっと一緒で息が詰まるんじゃないかとちょっと心配していたのに、全くそんなことはなかった。
リュシードはアイが必要だろうと思う場所をリサーチしてわかりやすく案内してくれた。
花が好きといえば花屋を紹介するかと思えば、王都の公園で花が咲き乱れる花畑や、有名な花園、王宮のおすすめの庭園の花を見せてくれる。
寡黙で堅物そうな見た目とは裏腹に細やかな心配りにアイは驚くだけではない感情が芽生えていた。
「アイ、何か気になっていることはないか?」
「ん―私勉強が苦手なの…学園に入るのは楽しみだけど、ついていけるかは心配なんだよね…」
「そうなのか。確かに初めてのことは怖いだろうな…それなら学園のどの科でも学ぶ教養科目があるんだが、その位なら私でも教えられるかもしれない。手伝おうか?」
「教えてくれるの?!嬉しいっ!!ありがとう!!」
「いや…そこまで喜ばれるほど私も勉強が得意では…ないんだ。普段は訓練ばかりしているからな…サポート位には…なると思ってほしい」
「十分だよ!リュシードは本当に優しいね!」
アイの一言一言に頬をうっすら朱に染めるリュシードが可愛く感じて、ついアイのスキンシップも激しくなってしまう。
その度に見せる戸惑うリュシードの瞳は、照れているだけじゃないのがアイはちゃんと気づいていた。
まるで少しでも気を緩めたら食べられてしまいそうな獰猛な獲物を狙う目がちらっと見え隠れしている。その瞳には熱がこもり、まるで溶かされそうな熱さも感じるのだ。
そんな眼差しを向けられるたびに、アイの胸はきゅんと締め付けられるのに嬉しくて堪らない何とも言えない気持ちになってしまう。
顔がちょっと近づいただけで胸の鼓動が痛いほど早鐘を鳴らすのだから冷静でなんていられない。
――しかし、さすがに恋をしたことがなかったアイにはそれ以上踏み込む勇気はなかった。
自分は違う世界の人間で、もしかしたら突然また元の世界に戻ってしまうかもしれないとも思えたからだ。
突然この世界に来た時だって、本当にただ表参道を散歩していただけだったのに、急にこの世界にきてしまったのだから。
もしリュシードに告白して、万が一恋人同士になって…本気で好きになった後で元の世界に戻ってしまったらと想像すると苦しくて溜まらなかった。
それならばいちゃいちゃしているようでしていない、友達以上恋人未満が私にとってはお似合いだ。
――アイは自分にそう言い聞かせるしかなかったのだった。




