390.ブリリアントイブニング
魔法学園の女生徒たちは、ファルマイト公国公邸に入ると大きな食堂のような部屋に通された。
部屋の中央には、学校の食堂の机よりも大きな長いテーブルが置かれていて、キレイな白いテーブルクロスがかけてあった。
天井からは、大きなシャンデリアがいくつもぶら下がっていて、テーブルの上には魔法の燭台が上品に並べられていた。
長机の脇には椅子が並べてあって、到着した順番に席に座るように案内された。
メガネ女子が、クララに聞く。
「クララさん。貴族のお家って、みんなこんなに凄いんですか?」
「いいえ。ここは、外交にも使われる公邸ですから特別に立派なんです。
貴族の私邸が、土地の限られた帝都の中でこれほどの敷地の広さを確保することは不可能だと思います。
さらに言うと、帝国連邦の中に4つある公国の中でも、ファルイト公国は群を抜いてお金持ちなので、お屋敷の中の調度品の価値も天文学的になるはずです。
恐らく、帝都に住む貴族の家の中でもダントツのお屋敷で、このお部屋ほどの豪華さと比較できるのは、皇帝陛下のお部屋くらいじゃないでしょうか」
「そ、そんなに凄い部屋だったのですね。
帝都で一二を争う豪華な部屋に通されたなんて、光栄ですね」
それを聞いて、ナタリーがほくそ笑む。
「私は、お父様にこの公邸の中の部屋の様子を覚えてくるように頼まれていますのよ。
今度、クーリッジ商会で貴族の家を模したモデルルームを作って、そこにセットされた高価な調度品をお金持ちの人たちに売りつける計画なのよ。
ファルマイト公国公邸のホールを模しているっていうブランドがつけば、凄い高値でも飛ぶように売れていくことが予想できますもの」
メガネ女子は、それを聞いてちょっと呆れている。
「凄い商魂のたくましさですね。
でも、そう上手くいくものかしら。
だって、確かに高額な調度品だと思うけど、すごくさりげなく配置されていますもの。
こういうセンスは、平民の私たちにはないですし、平民の成金の人たちには理解できないのじゃないですか?」
ナタリーは、鼻で笑う。
「理解してもらう必要なんてないのよ。
突然大金持ちになった成金の人は、ファルマイト公国公邸と同じ品だとかそういうブランドにお金を払うのよ。
センスなんてものは、本物の貴族に任せておけば良いのですわ」
そんな話をしていると、キャサリンが部屋に入ってきた。
「皆さん、お待たせしました。
それでは、うちのメイドたちに採寸してもらいます。
今日は全部で16人の採寸をするので、同時には測れません。
そのため、そこそこ時間がかかります。
待っている方々は、お茶でもお召し上がりください」
キャサリンの言葉を待っていたかのように、メイドたちがティーポットとお菓子の乗ったケーキスタンドを運んできた。
お客たちは、口々に歓声を上げる。
「わ、私、こんな豪華なお菓子、見たことない」
「私も」
「すごい。これだけでも、今日来た甲斐があったです」
「パクッ、おいひぃー。こんな美味しいお菓子食べたことないー」
行儀の悪い女子もいるようだ。
だが、キャサリンは特にそれを咎めることもなく、メイドたちに指示を出す。
「それでは、順番に採寸して寸法の合いそうなドレスを持ってきてください。
試着してみて、良さそうなモノを選んでもらったら、寸法直しまで一気に済ませてしまいましょう」
「はい。承知いたしました。お嬢様」
メイド長が、命令を受けて配下のメイドたちに細かい指示を出す。
数名ずつ同時にテキパキと採寸が進んでいき、次々とドレスが吊り下げられたハンガーラックと台車に乗った姿見の鏡が運び込まれてくる。
「今、この部屋の中には女性しかいません。
気になさらずに着替えてみて、パーティーに着ていくドレスを選んでください」
メイドに言われて、女子たちは気になるドレスを次々と着ては脱ぎして、大きな姿見に映った自分の姿にウットリしている。
今日ドレスを借りに来たわけではないナタリーとクララは、本当に呆然と見守るしかなかった。
クララは、ポツリと漏らす。
「す、すごいですね」
「え、ええ」
「それにしても、今日はキャサリン様の凄さに圧倒されてしまいました。
これだけの人数をお屋敷に招いて、ちゃんと目的のドレス貸し出しを実現する手際よさ。
そして、たくさんの平民の人たちに囲まれても、貴族としての威厳が全く揺らいでいない。
本当に凄いです」
感心するクララに、ナタリーはまるで自分のことのように自慢げだ。
「そうでしょう。
それが分かったのなら、あなたもキャサリン様にお近づきになれるよう、私を見習うことですわね」
「お二人とも、そんなところに突っ立っていないで、せっかく用意したお茶菓子でも召し上がられては、いかがですか?」
立ち尽くすクララとナタリーに、キャサリンが声をかける。
「ウフフフ。キャサリン様の有能な姿に見とれていただけですわ」
ナタリーが媚を売る。
「まあ、お上手ですね」
キャサリンは、ちょっと照れる。
「ほら、あなたもちゃんとお褒めしなさいよ」
ナタリーは、クララが伯爵令嬢だということが分かっていないかのように命令する。
クララは、命令されて慌てて褒めるところを探す。
「あ、あの。キャサリン様もすごいのですけど、ずっと付かず離れず護衛されている方がいらっしゃるのもすごいです」
とっさに一番気になっていたことを口にしてしまった。
学校では護衛は付いていないので、キャサリンが現れた時から気になっていたのだ。
本人をほめないといけないのに、やってしまったとクララは後悔していた。
だがキャサリンは、ソフィアを褒められて嬉しかった。
「そうでしょう。ソフィアは、本当に優秀なんですよ」
キャサリンがあまりに嬉しそうに話すので、クララもつい思っていることを言ってしまう。
「それに、すごく強そうですよね」
「そうなのよ。見かけだけじゃなくて、本当に強いんですわよ。
勘違いしたエドワード皇子なんかが挑んだりしたら、3秒で殺されてしまいますわ」
それを聞いて、ソフィアが否定する。
「お嬢様。皇子を殺したりは、いたしませんよ」
ちょっと、クララが驚いている。
「えっ、それって、皇子を十分殺せる力があるってことですか?
皇子は、毎年お城の剣術大会で優勝するような実力者ですよ」
ソフィアは、当たり前のように普通に答える。
「まあ、優勝すると言っても年代別の大会でですから。
もちろん多くの実戦経験を積んだ私たちとは、大きな差があると思います。
当然、お嬢様に危害を加えるようなことがあれば、たとえ皇子と言えども傷つけることにやぶさかではありません」
キャサリンが嬉しそうに反応する。
「皇子には、精神的に危害を加えられましたから、今度ソフィアに懲らしめてもらおうかしら」
「お嬢様のご命令でしたら従いますが、その場合向こうの護衛の帝国騎士団ともやり合わないといけませんね」
ソフィアは生真面目に答える。
「ファビオ団長と戦わせるのは気が引けるから、そんな命令は出しませんわ」
ソフィアが微妙な表情になっているのを見て、キャサリンは思わず吹き出しそうになっていた。
次回更新は、2月2日(木)の予定です。




