苦難の放浪人とリノアス
「なんてことしてくれる!貴重な紙なのだぞ!」
ブラゴフは頭を抱える。その様子に放浪人はほくそ笑む。
「貴様何を笑っている。再試を受けられなくなるのだぞ!いいのか」
「元から貴様の安っぽい情の言葉なんぞ信用していない」
「なんだとぉ」
放浪人の言葉にブラゴフが目を見開いた。
「俺は場所を教えろとさっきから言っているんだ。
それ以外の事を注文した覚えはない」
「きっきさま!お前たちは俺がせっかく与えたチャンスを逃した。
どうなってもしらんぞ」
放浪人は特に気にする様子もなくリノアスに近づいた。
「お前、なんで紙を破ったんだ」
その言葉にリノアスは放浪人の目を観察するように見つめ
小さく頷く
「……両端の小さな文字に忘却の呪文と魔術が込められて
文字の内容は『主ブラゴフに記憶を預ける』って書いてあった」
その言葉を聞いてブラゴフは冷や汗をかいた。
「なっ何故だ。何故その文字が読めるかなり古い魔術の呪文
なんだぞ!」
「……魔術書に書いてあった」
「な・・・なんだと…ハッ!」
ブラゴフは慌てて振り向くと放浪人が関節をなさしていた。
「どういうことか説明してもらおうか」
「おのれ!運のいいやつめ!」
拳をワナワナ震わせながら後ろに下がった。
「まさかこんな落ちこぼれが俺の術を見破られるとはぁな
あと少しだというのに少々油断したぁ」
「さっきもいったが元から信用していない」
隣にいたリノアスもコクコクと頭を縦に振る
「貴様ら!いい度胸だな」
するとブラゴフは上着を脱いで筋肉を見せつけた。
「本来、力ずくというのは好きではないがこうなってしまっては
仕方あるまい!安心しろ殺しはしない。死体処理が面倒だからな」
「……」何もこたえず手を握ったり開いたりと
運動をしている放浪人。
「こわいか?怖いのなら今からでも遅くはない
ここから出ていくのだな。いずれにしてもお前らは
既に試験に遅れている。いくら急ごうとも無駄だ」
ブラゴフはニヤリと笑う。しかし放浪人は何も反応を示さない。
「もう一度聞く。本当の試験会場はどこだ」
「フン。落ちこぼれの分際で度胸だけはぁ、いっちょ前だが果たして
どこまでその余裕がもつかなぁぁ!」
ブラゴフは突然腕を振るい殴りかかった。
バスンっと重苦しい音をたて机が真っ二つに割れる。
「どうぅだー。俺はこれでもこの仕事を始めてから負けなしだ
もっとも拳を振るうなんてことはなかったがな」
太くゴツイ腕を上げて見下す。
「隣にいると巻き沿い食らうぞ下がってろ」
そんな姿を特に臆することもない放浪人は腕でリノアスを押した。
「明らかに自分に勝つことを考えている!ふざけた野郎だ!」
自然とブラゴフの額に青筋立つ歯を噛みしめサングラス越しでも
睨んでいるのがわかる。
「なめやがってぇぇ!粋がっている落ちこぼれの若造が!貴様の顔を二度と
表に出られないぐらいボコボコにしてやる」
「最後だ。試験会場はどこだ」
ブラゴフの顔に笑みが浮かぶ。
「しつこい野郎だぁぁ。いいだろう教えてやる。ただし…」
そして地面に足を踏ん張り腕を引きそして
「俺の試験を合格出来たらなぁ!」
拳を握り太い腕を放浪人の顔面めがけて振り下ろした。
放浪人は後ろに下がり拳を躱すとそのまま机の上に着地する。
「ほう。俺の攻撃を躱すとはな、少々すばしっこい奴のようだ
だが机の上に上るとは行儀が悪い」
「悪いな。その言葉結構言われてきてるのでな」
「フン。生意気な奴め!これで逃げられん!」
そう言うと二つの拳が放浪人に迫る!
「あまい!」
放浪人は机を倒しながら飛ぶとブラゴフの頭上を超えた。
「なっこやつ逃げる気か!」
ブラゴフは過ぎ去っていく放浪人を見上げる。
「いや。お前をここで倒す!」
放浪人は体を捻り踵を叩きつけた。
ブラゴフが咄嗟に片手で防ぎ耐える
「ぐぬぅ。ここまでやるとは、だが!まだその程度!」
腕を振り払う。放浪人はまた体を翻し着地する。
(な、なんだこの身のこなし!こっこいつ。本当に落ちこぼれか!今までの奴と
全然実力があるじゃないか)
これじゃあ割に合わんぞ!、ブラゴフは思った。
「はぁぁぁぁ!とぉりゃぁぁ!」
地面を蹴り放浪人は腕を引き一撃に拳での攻撃を繰り出そうとした。
「速い!だが調子に乗るな!」
ブラゴフは手を前に出して透明な壁を作った。
「ガハハハ!俺は魔法も使う!これはどんな物理の攻撃も
全て跳ね返す!己の攻撃で気絶するがいい!」
---アンチフィズィクス!----
ブラゴフが勝ち誇ったように笑う。
その一瞬。放浪人はチラリとブラゴフの後ろを見た。
そこにはリノアスが指を差して小さく頷く
放浪人がその意図を察する
「構わず行けか!面白い」
放浪人は迷わず拳を透明な壁にぶつけた。
---スタンディングフェスト!-----
壁に拳がぶつかった瞬間!
壁は光周囲の机が吹き飛ぶ衝撃破!
「やはり馬鹿だ!貴様は!自らの攻撃で倒れるがいい!」
ブラゴフの笑いがこだまする。がその笑いは凍り付く
なんと拳がぶつかっている辺りがくりぬかれたように割れ
そのまま勢いよく自分に向かってくる!
「とぉぉぉぉ!」
「俺の魔法が!消えて……ぐぼぉ!」
放浪人が拳がブラゴフの腹部に突き刺さる!
「なっなぜ…俺のまほうが…」
「馬鹿はお前だったな。もう一人の存在を忘れるとは」
「もう一人…だと」
ブラゴフがチラリと横目で放浪人の目線を追った。
そこには先ほど自分が作った壁の障壁が
リノアスのかざした手に吸い取られている。
「ごは……まさか。こんな奴らが…あいつ…話がちがう…」
ブラゴフはそのまま壁まで吹き飛びガクリと意識を失った。
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「ダメだ。完全に気絶しているな」
放浪人は近くに溜まっていた水をぶっかけるも
ブラゴフの意識は戻らなかった。
「…殺した」
リノアスが放浪人を指さした。
「殺していない。3時間くらい経ったら気が付く。多分な」
放浪人は頬をかき応える。
「それにしてもさっきは何をやったんだ」
「……魔力を吸収した」
「そんなことが可能なのか?」
するとリノアスは首を下に向けた。
そこには魔法陣が描かれている。
「…暇つぶしに書いたら役に立った」
「暇つぶしで助かったのかおれは」
放浪人はため息をついた。
「だが助かった」
「…お互い様、わたしじゃ倒せなかった」
リノアスはそう言うと気絶しているブラゴフのバンドを触る。
流石にマスター登録されていない者が触ると
反応をしめさない。
「ダメそうだな」
放浪人が肩を落とす。しかしリノアスは諦めておらず
ブラゴフの腕を掴む。
「…転写」
そうつぶやくとリノアスがつけている試験用バンドの液晶が光始めた。
それを確認すると再び自分のバンドを操作し
放浪人が見えるように宙に表示させた。
そこには、試験場所がこことは違う場所と時間が記述されている。
「ここが本当の試験会場か」
放浪人が指を差しながら訪ねるとリノアスが黙って頷いた。
場所は先ほどとは正反対の場所、ちょうど宿舎とセインエイツ学園の間
宿舎からは30分ほどでついてしまう。
「どうりで誰とも会わないもんだ」
今回は皆と行動すべきだった。放浪人は後悔するも
隣にいるリノアスを助けたのだから結果オーライと
考えるべきか複雑。
「とりあえず行くぞ今から行ってもどうなるわけじゃないが」
説明すれば理解してもらえるだろうか。
放浪人はリノアスを見るとこくりと頷いた。
部屋を出ようドアに向かったが見えない壁にぶつかり後ずさる。
「なんだ」放浪人が壁に手を当て殴りつけるもびくともしない。
リノアスも壁に触り確認する
「これ…幽閉の障壁……すごく厄介」
「なんとかなるのか?」
拳を何度も叩きつける放浪人が首をかしげ訪ねると
リノアスは手を当てて目を瞑る。
「多分急いで1時間くらい…」
「厄介だな」
放浪人たちの苦難は続く…




