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手順31 作戦会議をしましょう

「えっ……」

 驚いたように寺園先輩がボクを見る。


「尚ちゃんは武術の経験とかあるの?」

 長谷川先輩が心配そうに聞いてきた。

「無いです」


「それはさすがに危険だと思うよ?」

「やめとけって、今のままでもしばらくしたら十分証拠は揃うんだし」

 入谷先輩や大林先輩が口々にボクに言う。


「今の作戦はあくまで十分自衛できる力のある寺園さんだからこそのものですし、わざわざ危険な目に遭いに行く必要はないんですよ?」

「俺達だってすぐに助けに行けるとは限らない」

 井田先輩や岡崎先輩も心配そうに言ってくる。


「皆、私の時の反応と変わり過ぎじゃないかな? ……私も危ないとは思うけど」

 寺園先輩はちょっと拗ねながら、それでもボクの心配をしてくる。

 というか、皆の中でのボクに対する評価が貧弱すぎてつらい。

 実際、取っ組み合いのケンカをしたのなんて小学校の低学年が最後だけど……。


「だってあの人、このまま捕まったとしても、せいぜい生徒の机に何度もイタズラしたとか、普段の生徒の姿を勝手に写真撮ってたとかくらいの罪状しかないじゃないですか。私物の盗難って言ったって大した物盗ってないし……」


 現状立証できる分だけだと罪が軽過ぎる。

 盗撮も確か、スカートの中や更衣室、トイレなんかの相手を隠しているものを撮影する場合には罪になるけれど、普段普通に過ごしている姿を許可無く撮影するだけじゃ罪にはならなかったはずだ。

 せいぜい厳重注意で終わりそうなレベルだ。

 やりようによっては机への嫌がらせの件を騒ぎ立てて懲戒免職くらいはできそうだけど。


「飯田橋先生は、よく何か困った事があったら相談するようつづらに言っていたそうですが、誰にも聞かれないように生徒指導室で二人で話を聞く、とも言っていたそうです……こんなあからさまな下心持った人間がつづらと二人きりになったとして、一体なにをするつもりなんでしょうね?」


 もし、つづらが本当にクラスで孤立していて、嫌がらせに悩んでいたら。

 頼れる人間が担任の先生しかいない状態で、心細い思いをしながら飯田橋先生に相談していたら……。

 密室で二人きりの中、最悪の事態が起こったとして、誰がその事に気づけるだろう。


 考えただけでも虫唾が走る。

 何か起こってからでは遅いし、つづらの側に飯田橋先生がいるだけでその可能性はずっとついてまわる。

 ボクは一刻も早くあの男を排除しなくてはならない。

 そして、教員免許もそのままに懲戒免職程度の処分で済んだら再就職先で被害者が出るかもしれない。


「……だが、なにも起こっていない事は罪に問えないし、なにも起こらないならそれに越した事は無いだろう」

「だとして、もし飯田橋先生があわよくば生徒に手を出そうとする不届き者ならこれで警察に訴えられますし、そうでないなら何も起こりませんし、その時はそれを確かめられただけいいです」


 考え直すように岡崎先輩は言うけれど、僕の気持ちは変らない。

 もし、本当にボクの思い違いで、意外に一途で紳士的だったら、間違っても何も起こらないはずだ。


 まあ、わざわざ早朝にお目当ての生徒の机にあの手この手の嫌がらせを仕掛けて、正義の味方気取りで犯人探しをするような性根の腐った人間はそんな理性、持ち合わせてないと思うけど。


「でも、なんで君がそこまで……」

「そんなの決まってます。卑劣な手を使って私の大切な姉に近づこうとする奴を私は許せないからです」

 清水先輩が不思議そうに聞いてくるので、ボクは素直に答える。


「だけど、それにはリスクが大きすぎるんじゃないか?」

「大丈夫ですよ、ボクも十分気をつけますし、なによりボクには頼もしい先輩達が七人も着いていてくれるんですから」

 なおも心配してくる岡崎先輩に、ボクは笑顔で答える。


 ここに集まっている人間は皆、つづらに嫌がらせをしてくる犯人が許せないと言った。

 社会的に殺したい、地獄に突き落としたいとも。

 それなら、なにをためらう必要があるのか。


 つづらを取り合うという点で言えば、ここにいる全員僕のライバルだけど、つづらに危害を加えた人間に報復をしたいという点で利害は一致している。

 だから、少なくとも今、ボクはこの人達を信用できる。


「……わかったよ、協力する。変なところで頑固なのは、つづらちゃんそっくりだね」

 困ったように笑いながら、清水先輩は言う。


「放っておいても自主的にやりそうですし、仕方ありませんね」

 やれやれ、とでも言いたげに井田先輩も頷く。


「全く、危なっかしくて見てられないぜ……だから、手伝ってやる」

 妙にわざとらしくため息をつきながら大林先輩が言う。


「うん、いいね、その心意気。僕好きだな」

 なぜだかちょっと頬を染めてうっとりしながら長谷川先輩が微笑む。


「ナオミちゃんって、意外に大胆だよね~」

 入谷先輩はどこか楽しそうに笑う。


「言っても聞きそうにないからな、仕方ない」

 全く世話のかかる後輩だ、なんて言いながら岡崎先輩ため息混じりに笑った。


「まあ、言いだしっぺの私が協力しない訳にもいかないよね☆」

 いつものようにあざとく、キャピキャピした様子で寺園先輩が言う。


「皆さん……ありがとうございますっ!」

 ボクは感極まってちょっと涙目になりながら頭を下げる。


「よーし、それじゃあ今から作戦会議だよ☆」

「「「「「「「おーーーー!!」」」」」」」

 寺園先輩の掛け声を合図に、ボク達は拳を上げた。

 さて、どう料理してくれようか。

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