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手順22 おやつを食べましょう

 その日、ボクはつづら達と一緒に下校した。

 つづらの集団下校の風景がどんなものか知りたかったからだ。


「今日は杏奈ちゃんが部活でいないけど、お料理研究部がない日は一緒に駅まで帰ったりたまにお茶して帰るんだ~」

 なんて楽しそうに話すつづらは自分の周りのイケメン達が全く眼中に入っていないらしかった。


 今日の下校メンバーは僕とつづら、三年生徒会長の清水先輩と二年でつづらとは違うクラスの長谷川先輩の四人だ。


「あの、お二人は姉とどういう繋がりで知り合ったんですか? 別のクラスや学年であんまり接点がないように思えるんですが」


 とりあえず、僕とつづらの後ろからついてくるイケメン二人にどういう経緯でつづらに付きまとうようになったのか、オブラートに包んで聞いてみる。


「僕は文芸部なんだけど、去年入部して早々部室でものすごいメロドラマ繰り広げてた割につづらちゃんはその事に恐ろしく無関心で、びっくりする程普通にしてたのにすごくゾクゾクしたんだ」

 癖っ毛のほわほわした見た目の長谷川先輩が、頬を紅潮させながら言う。


 ……どうやらつづらは幽霊部員だった先輩の他にも部員を引っ掛けていたらしい。

 本人は全くそんなつもりはなかったんだろうけど。


「俺は最近学内の風紀を著しく乱している美少女がいると聞いて、一体どんな悪女なんだろうと様子を見に行ったのが出会いだったなっ」

 キラキラした王子様みたいな見た目の清水先輩は、目を輝かせながら懐かしそうに話す。


 校内の風紀云々も本人の意図したものじゃないんだろうけど、そうやって噂の的になる事で更に寄って来る相手を雪だるま式に増やして更に風紀を乱している所がなんとも皮肉だ。


 それから先輩達と他愛ない会話をしながら、ボクとつづらは特に寄り道するでもなく家の前まで送ってもらって先輩達と別れた。


 途中、駅前のアイスクリーム店やらファーストフード店の期間限定シェイクの話を近所を通りかかる度に先輩達がさりげなく言っていたけれど、つづらは興味ないようでさらっと流していた。

 ……これ、言ったのが寺園先輩なら一も二もなく店に寄るんだろうなあ。


「それじゃあまた明日」

「やっぱり心配だから、明日から朝の登校も俺が送るよ」

「あ、それは尚ちゃんと登校するから、いらないです~。それじゃあ二人共今日はありがとう、また明日学校でね」


 清水先輩の申し出を平然と断って、つづらは家の前で駅へと引き返す長谷川先輩と清水先輩を見送る。


「つづら、最近はいつもこんな感じなの?」

「うん、みんな心配性だよね~でも、何かあった時に心配してくれる友達がいるって、嬉しいよね」


 ボクが尋ねれば、ニコニコとつづらは答える。

 先輩達のアプローチに気づいていないのか気に留めてないのか。

 でも、悪くは思っていないようだ。


 ボクはつづらが好き。

 つづらは女の子が好き。

 だからボクは女の子の格好をする。


 アレだけ色んなタイプのイケメンに囲まれていながら寺園先輩にしか目もくれないつづらの様子を見れば、この戦略は間違っていない。

 少なくとも、見た目の分だけ彼らよりアドバンテージはある。

 ……それ以外の部分で勝てる気はしないけれど。


「私おなかすいちゃった、おやつ食べよっ」

 つづらはそう言って笑顔で僕の手を引く。


「今日はね、ちょっと私作りたいものがあるの」

 言いながらつづらは長い髪を髪留めで留める。

 リビングに荷物を置いて対面キッチンで腕まくりして手を洗って準備する姿はどこか得意気だ。


「作りたいもの?」

「良い物だよ!」

 言いながらつづらはエプロンをつけて、冷蔵庫から何か半透明の物が入ったどんぶりをとり出す。

 エプロン姿のつづらが可愛い。


「この前、杏奈ちゃんに作り方教わって、密かに準備してたんだ~」

 どんぶりの中身をつづらがまな板の上に取り出せば、それは丸いどんぶりの形でまな板の上に乗る。


「昨日の夜仕込んでた寒天なんだ~」

 つづらは包丁で寒天をサイコロ型に切る。

 どんぶりで作ったせいで完全なサイコロ型にならないものも多いけど、それをそれぞれ二つの器に盛る。


「次はね~コレ!」

 そう言ってつづらはつぶあんの缶詰を取り出す。


「……あんみつでも作るの?」

「当てるのはやいよ~」

 ボクが言えば、つづらはちょっと拗ねたように言うけれど、これであんみつ以外のなにを作るって言うんだ。


 その後つづらは器に盛り付けた寒天にあんことバニラアイス、きなこと黒蜜をトッピングして自家製のあんみつを完成させた。

 なお、みつまめや白玉、フルーツの姿はどこにもない。


「この前あんみつは好きだけど乗ってるフルーツが邪魔であんみつそのものの味を楽しみたいって言ったら杏奈ちゃんがこうすると簡単にそれっぽい味になるよって教えてくれたの」

 上機嫌であんみつもどきをテーブルに運びながらつづらは言う。


「……寺園先輩って、すごいよね。可愛いし、明るいし、気配りも出来て、料理も上手で……すごく強いし」

 楽しそうに寺園先輩の話をするつづらを見て、ボクは思う。

 変質者に襲われた時、ボクはどうしていいかわからなかったし、実際何も出来なかった。


 そこに寺園先輩が颯爽と現れて全部解決してくれた。

 すごくかっこよかったし、寺園先輩が来てくれて本当によかったと思う。


 だけど、もし寺園先輩が来なかったらボクはどうなっていただろう。

 もしつづらが同じような目に遭ったとして、ボクは寺園先輩みたいにつづらを助けられるだろうか。


「どうやったら、寺園先輩みたいになれるのかな……」

「……な、尚ちゃん!?」

「あ、ごめん、どうかした?」

 まずい、つい考えが口に出てたらしい。


「た、確かにそうだよね……怖い思いしてた所に駆けつけて助けてくれるなんて、誰でもときめいちゃうよね……」

「つづら?」

 みるみるつづらの顔が深刻そうになっていく。


「ごめんね尚ちゃん! 私、自分の事ばっかりで……今日だって勝手に不機嫌になって尚ちゃんに当たっちゃったけど、尚ちゃんは昨日本当に怖い目に遭ってたのに……」

「えっ、まあそうだけど、別にそれは終わった事だし……」

 急につづらに謝られたけど、別にそこまでトラウマになってはいないし、そんなに気にしなくてもいいのだけど。


「私が一番に尚ちゃんの味方でいなきゃいけなかったのに……!」

「いや、別に気にしてないからそんなにシリアスに受け止めないで!?」

 なんだか話がおかしな方向へ向かっている気がする。


「杏奈ちゃん……今日も軽い感じで場を収めてくれたけど、話がこじれる前に私が尚ちゃんと仲直りするきっかけを作ってくれてたんだよね……尚ちゃんが好きになるのも無理ないよ。私、なんだか前より杏奈ちゃんの事好きになっちゃった」


「えっ」

 そして、つづらの中で寺園先輩の株が急上昇している。

 これは、ダメなやつだ。


「あ、でも尚ちゃんも私に遠慮して諦めなくてもいいよ。これからはライバルだね」

「ま、待ってつづら、ボクはつづらと寺園先輩を取り合うつもりはないよ!?」


 だってボクが好きなのはつづらなんだから!


「うん、だから約束しよう?」

「約束……?」

 だけど、つづらは言わないでもわかっているみたいな顔で頷く。

 絶対わかってない。


「私と尚ちゃん、どっちが杏奈ちゃんと付き合うことになっても、私達はずっと仲良しでいようね」

 そう言って、つづらは小指を一本立ててボクの前に差し出す。


「んんん?」

「はい、指きり。私はね、尚ちゃんが誰を好きでも尚ちゃんが大好きだよ」

 固まったボクに痺れを切らしたのか、つづらは席を立ってボクのもとまでやってくると、ボクの小指と自分の小指を絡める。


 違う、そうじゃない。


「……ボクも、つづらが誰を好きでもつづらの事、大好きだよ」

 これは本心だ。

 つづらの言葉とは意味が違うけど。


「うんっ! 尚ちゃん、今日はゴメンね」

 そう言ってつづらは僕に抱きつく。


「いいよ……それよりあんみつたべようよ、そろそろアイスが溶けちゃう」

 つづらの身体に手を回そうとして、僕はやめる。

「あっ! そうだね、食べよ食べよ!」

 つづらは思い出したように身体を離すと、自分の席に戻ってあんみつもどきを食べだした。


「そういえばさ、さっきの尚ちゃんの話だけど……」

「さっき?」

 あんみつもどきを食べながら、思い出したようにつづらが言う。


「どうやったら杏奈ちゃんみたいになれるかなってやつ。私はね、尚ちゃんは尚ちゃんのままでいいと思うよ」

「ボクはボクのままで?」

 どういう意味だろうとボクは聞き返す。


「うん。人には向き不向きがあるからね。苦手な事を無理してできるようになるよう努力するより、得意な分野をもっとのばした方がきっと素敵だと思うよ。杏奈ちゃん以外は誰も杏奈ちゃんになれないしね」


「……ちなみに、ボクの良いところってどこだと思う?」

 少しドキドキしながらボクは尋ねる。

 だって、つまりこの答えがつづらの考える僕の長所な訳だから。


「可愛い!」

「……そっか」

 自分の長所は自分で探そう。


 つづらの作ってくれたあんみつもどきは結構美味しかった。

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