第88話 幻想空間の黒幕
ーーー〈町の大通り〉ーーー
ーーーライガとゼブラは鬼神化に変身。
辺りを眺め、幻想空間を展開している術者の魔力ポイントをキョロキョロと視察。
しかし、幻想空間全体に展開している魔力は、モヤモヤの空気のような状態で漂い、発生ポイントは非常に分かりにくい。
恐らく、かなりの使い手、人間の魔導師だ……。
ーーーーズズゥ………。
地面全体、建物のスキマから悪霊達が一斉に出現し、鬼神化フェニックス、鬼神化ラクエリオンの周りを囲む。
「見てな……」
鬼神化ラクエリオンは大口をガバッと開き、正面の悪霊の集団に狙いを向ける……。
(何をする気だ……)
鬼神化フェニックスは、不思議な様子で鬼神化ラクエリオンを眺める。
鬼神化ラクエリオンの全身からはバチバチと黄雷が展開し、凄まじい魔力を漂わせている。
一体、何をする気だろうか……。
「黄雷の怒咆哮ッ!!」
鬼神化ラクエリオンの大口から、黄雷の熱光線を悪霊の集団に一気に放射。
放射した衝撃により、一帯の建物からバリバリと音を響かせ、地面の砂煙が舞い上がる。
ーーーーーッ!!
黄雷の怒咆哮により、周囲数十メートルの建物は壊滅し、衝撃波が展開。
正面の悪霊の集団は熱により、集団消滅。
地鳴りのような砂煙が舞い、他の悪霊の集団は吹き飛び、建物のガレキが地面に散らかる……。
「おや、やり過ぎたかな。ガハハハハハッ!!」
鬼神化ラクエリオンは豪快な笑い声を響かせる。
(すげぇ……)
鬼神化フェニックスは驚きの様子で辺りをキョロキョロと眺める……。
ちなみに衝撃波によるユリアの影響は、リサのパワーに防衛され、影響の心配ない。
影響があったとしても、天井からチリがパラパラと降ってくるだけだ。
ーーー随分と派手にやってくれたな……。
全体に響き渡る声、久し振りの奴だ……。
「誰だッ!!」
鬼神化ラクエリオンはキョロキョロと辺りを眺める。そして、砂煙が晴れ、革の黒スーツの人影。
「久し振りだな。赤髪の死に損ない……」
乾いた足音を鳴らし、出現したのはリディクラ。
奴は、ユーギガノスの剣を手に入れる為、ゼブラの故郷の村人達を虐殺した魔導師である。
相変わらず嫌なしゃべり方、目上には良面な態度で接し、下衆には冷酷な態度を使い分ける性格だ。
しかし、リーダーから注文を受けたプレッシャーなのか、神経質な目付きをギラつかせている。
「お前は……。リディクラ……」
鬼神化フェニックスは炎剣を構え、奴をギロッと睨む。
故郷の村を壊滅させられた憎しみが、鬼神の闘志エネルギーとなり、全身に炎を燃え盛らせ、村を壊滅させた思い出が浮かび上がる……。
「フハハハハハッ、あれから鬼神化を覚えたようで、腕を上げたようだな……」
ーーーリディクラは両腕を広げ、高笑い。
同時に地面から数十体の悪霊が次々に現出。
悪霊の魂は、全てリディクラに支配されているらしい。
「ゼブラ、雑魚は相手するな。それと、闘志に心を乱している、気を付けろっ」
と、鬼神化ラクエリオンは両爪を構える。
彼は鬼神化における心構えを知っており、闘志をアップし過ぎたら自我を失うからだ。
「リディクラ……」
鬼神化フェニックスは炎剣を構え、憎しみの眼でリディクラを睨む……。
許さない……。リディクラの姿が、憎しみのカタチでしかない。
「来いっ、あかがみぃーーーーーーッ!!」
リディクラは怒号の叫びを響かせる。
ーーーーーッ!!
鬼神化フェニックスは陽炎のスピードで悪霊の集団に駆け走り、炎剣を一振るい、炎撃。悪霊の集団を一斉に斬り払う。
悪霊は空中を舞い、一撃で全て撃破し、熱滅。
「野蛮な……、まるで野獣だな……。裁炎」
リディクラは詠唱し、属性魔力の裁炎を付与。
全身に蒼炎の鎧を具現化させ、髪の毛をツンツンに逆立たせ、異質なオーラを展開させる……。
「次は貴様だ……」
鬼神化フェニックスは、全身に炎を更に燃え盛らせ、鋭い瞳をギラリと輝かせる……。
「裁炎の撃滅ッ!!」
ーーーリディクラは片手を掲げ、詠唱。
空中全域に、数十ヶ所の裁炎属性の魔力ポイントを凝縮させ、青炎の空中爆発を展開。
空中爆発の威力は建物のガレキすら一瞬のスピードで熱滅させる。
ーーーーーッ!!
鬼神化フェニックスは、爆発の魔力ポイントを見切り、回避し、前進。
飛脚し、中間距離からリディクラに狙いを定め、炎剣を振り下ろす。
「ーーーー温いわッ!!」
リディクラは右掌に裁炎属性の魔力を宿し、掌撃で炎剣の一撃を受け止め、掌圧で跳ね返す。
ーーーーーッ!!
鬼神化フェニックスは吹っ飛び、一回、二回、地面に叩きつけられる。
そして空中で一回転、体勢を立て直し、着地し、炎剣を構える。
全身は裁炎のダメージにより、青色の炎がパキパキと燃え盛らせる。
「ならば、コイツはどうだ?」
リディクラは右掌を掲げ、詠唱。
掌上に魔力を宿し、数十メートルの青色の炎球を具現化させ、投げ放つ。
裁炎属性の炎球、直撃すれば消滅し、同時に一帯が焼け野原。
ーーーーーーッ!!
鬼神化フェニックスは咆哮し、飛脚。
炎剣の刃身を怒りの闘志に任せ、魔力を宿し、数十メートルの炎刃を具現化させ、青色の炎球を横に両断。
「裁炎の槍ッ!!」
リディクラは、両断させた炎球の間から飛脚し、裁炎属性の炎の槍を右手に具現化させ、槍撃を4発。
ーーー4発の槍撃がヒットし、鬼神化フェニックスは吹っ飛ぶ。
「マエェッ!!」
鬼神化ラクエリオンは、吹っ飛ばされる鬼神化フェニックスの横を通過し、リディクラに狙いを定め、ドロップキック。
ーーーーッ!!
リディクラは右の片腕を上げ、ガード。
鬼神化ラクエリオンのドロップキックにより、リディクラは吹っ飛び、地面に叩きつけられる。
同時に立ち上がり、両掌に魔力を宿し、灼熱の拳を構える……。
ーーーーーーッ!!
鬼神化フェニックスは全身、翼部に炎を燃え盛らせ、リディクラに突っ込み、剣撃。
村を壊滅され、村人達を殺された出来事を思い出し、憎しみの闘志が鬼神化のパワーをアップ。
凄まじい炎圧により、一帯に熱圧をジリジリと展開させる。
「がはっ……」
リディクラの胸部に剣撃がヒットし、後方に吹っ飛ばされるが、ドシッと足元を踏ん張らせ、体勢を立て直す。
口元から吐血、地面にポタポタと滴り落ちる。
ーーーーーッ!!
鬼神化フェニックスは怒りに身を任せ、リディクラに突っ込む。
「フハハハハハッ!!。もっと怒れ、怒れッ!!。俺が憎いんだろッ!!」
リディクラは両手を広げ、挑発的に笑う。
ーーーーーッ!!
鬼神化フェニックスは、怒りの斬撃。
リディクラの胸部にグロテスクな刃跡を刻まれ、傷口から豪血を噴出。斬撃により、リディクラの肉体は、ビクッビクッと痙攣し、顔中に自身の返り血が滴り、凄まじい姿である。
「どうした?、俺は死んでないぞ……。もっと憎め、もっとだ……」
ダメージを無視する様子でリディクラは挑発的な笑い声を響かせ、口から血をビチャビチャと吐き出す。
「ああっッ!!」
ーーーー鬼神化フェニックスは、リディクラの笑い声で怒り、炎剣を振り下ろし、奴の頭を何度も何度も剣撃を叩き込み、割れた頭部から血を噴出。
「そんなものか?……。それじゃ、殺せないぜ……、アヒャヒャヒャヒャ……」
割れた頭部から、リディクラの顔が再生し、挑発的な笑い声を響かせる。
ーーーーッ!!
鬼神化フェニックスは全身全霊の一撃を、リディクラの再生された頭部に叩き込む。
鬼神化フェニックスは、(怒り、憎しみ、殺意)思想により、頭髪、翼部、全身に業炎が燃え盛り、何も見えない。
「一人で何をやってるんだ?……」
鬼神化フェニックスの後方に、リディクラ。
今、グチャグチャの肉塊化となるまで剣撃を叩き込んだリディクラは偽物、正体は1体の悪霊だ。
「ウアアアアアアアッッ!!」
怒りの鬼神化フェニックスは振り向き、リディクラに駆け走り、中間距離から炎剣を振るう。
ーーーーッ!!
リディクラは右の拳撃を放ち、鬼神化フェニックスの横顔に叩き込み、吹っ飛ばし、地面に1回、2回、と、叩きつける。
「うっ………」
地面に叩きつけられ、拳撃のショックにより、ゼブラの鬼神化が解ける……。
そして、怒り状態から目が覚め、正面にはライガの鬼神化ラクエリオン。立ち上がるゼブラの所に、歩み寄ってくる。
「この、バカ野郎がぁッ!!」
鬼神化ラクエリオンの咆哮が、全体にビリビリと響き渡る。
「どういう事だ?……」
何も分からないゼブラ。
「てめえ、今、何をしていたのか分かっているのか?。お前は、俺に攻撃しようとしていた、鬼神化をどういうツモリで使ってやがるッ!!」
鬼神化ラクエリオンは、ゼブラの胸ぐらをガシッと掴み、睨む……。
「あっ……」
ゼブラは、気がついた。
リディクラの幻想魔満術により、偽物役の悪霊に入れ替えられた。しかし、、ゼブラが挑発に乗らなければ、途中で幻想魔導術を見切る事が可能だった。
結果、パワーに自我を失い、偽物か本物を判断出来なくなり、鬼神化ラクエリオンがリディクラに見えてしまった。
「鬼神化は、自身の怒りや憎しみよってデカくなって、意識の強さによってパワーがアップする。そうなると、見えるモノが見えなくなる。お前の鬼神化は、何の為にある?、そんな暴力の思想であのお嬢ちゃんを守るのか?」
鬼神化ラクエリオンは、ゼブラを解放し、突き放つ。
「俺は……。また、何て事を……」
ゼブラは両膝を着き、悔やんだ……。
ユリアを傷つけた事を思い出し、手がプルプルと震えた。
あの、ミイラ男が、大切な人を思い浮かべろ。との、言葉を思い出した。
怒り、憎しみ、殺意、により、忘れるとは、最低だ……。
「今は悔やんでいる場合じゃねぇぞッ!!。さっさと鬼神化に変身しろっ!!」
鬼神化ラクエリオンは、ゼブラに背を向け、辺りを眺め、応戦体勢。
奴は物陰に隠れ、コチラの様子を伺っているのだろう。多分、ゼブラを挑発したのは、怒りで自我を失わせ、同士討ちをさせる作戦だったのだろうが、失敗に終わった。




