第37話 もう1つの戦い
「ようこそ、悪夢の監獄へ…」
エリゴールは不気味な笑みで頭を下げる。
悪夢の監獄の目的は、避難場、留置場、保管場、そして戦場を有利に動かす為の場所でもある…。
エリゴール自体をイメージしているのか、不気味な場所である。
「いい趣味だな…」
ヴァンは辺りを眺める。
「私は見ず知らずの場所で戦うのは嫌いでね…。自身が落ち着く場所で戦い、そして休む。蛇達のプライベートスペースに良い場所です」
エリゴールは自信気に和む。
なお、奴が悪夢の監獄での戦闘では、負けた事が無い。
皆、下僕の蛇のエサにされ、骨1つ残さず、喰い殺されている…。
「悪いが、俺は急いでいる。貴様を片付け、この場から退出させてもらう…」
ヴァンは剣を構え、鋭く睨む。
「ーーーーーッ!!」
エリゴールは蛇の槍を上段に構え、飛びかかる。
「ーーーーーーッ!!」
ヴァンは剣を構え、槍を受け止める。
「ーーーーーーーッ!!」
エリゴールは数メートルの距離を後退し、不気味な笑みを浮かべ、蛇の槍を構え直す…。
「槍の使い方が間違っているぞマヌケ野郎、槍の使い方を教えてやろうか?…」
ヴァンは嘲笑う。
因みに、彼は剣術以外に、槍術、体術、槌術を熟知しており、戦闘技術は高い…。
「イヒヒヒヒヒ…、マヌケ?。貴様がな…」
「ーーーーーーーッ!!」
エリゴールの笑みに、ヴァンは後ろからガラガラと響かせる蛇の鳴き声に反応し、振り向き、飛びかかる2匹の蛇を一瞬で斬り伏せる。
斬り伏せられた二匹の蛇は、ピクピクと震わせ、青い炎を燃やし、消失…。
「おやおや、可哀想に…。私の愛おしいキャリー、マレーよ…」
エリゴールは悲しい表情を浮かべ、死んだ二匹の蛇を悔やむ…。
「不意討ちを突こうとしたが、残念だったな…。安心しろ、貴様もペットの所に行かせてやる…」
ヴァンは冷酷な声をあげる。
「おや…。ロベルトだったかな、それともベロニカだったかな?…」
エリゴールは考える。
奴は数千匹の蛇を従え、一匹一匹に名前をつけている。しかし、多すぎて覚えていない…。
「ーーーーーーッ!!」
ヴァンは斬りかかる。
「ーーーーーーッ!!」
エリゴールは受け止める。
「今は戦いの最中だ。でないと、貴様も蛇みたいに死ぬ事になる…」
ヴァンは冷酷に忠告。
「キヒヒヒヒ。ご警告、どうも感謝致します」
エリゴールは一回、二回とバク転し、10メートルの距離に跳び下がる。
地面に着地と同時に残像を残し、奴は消える。
(どこに行った………)
辺りを見回すヴァン。
「こっちですよ…」
「ーーーーーーッ!!」
後方からエリゴールの声、ヴァンは振り向く。
10メートルの距離に、エリゴールは残像を残すスピードで移動し、数メートルの高さまで足元を浮遊させ、不気味な笑みを浮かべる。
魔族だから当然、スピードは早い…。
「いでよ、私の蛇達よっ!!」
エリゴールは身体を陽気に回し、詠唱。
「ーーーーーーーッ!!」
その時、地面の割れ目から無数の蛇が沸き、エリゴールの槍に飛びかかり、中球の形に集束。
球の形と化した蛇は、ピクピクと蠢き、気持ち悪い異形を具現化させる。
「蛇の死球。直撃すれば、敵の骨肉を喰い散らし、跡形も残りません…」
エリゴールは狂喜に説明。
(おしゃべりな奴だ……)
ヴァンは剣を構え、エリゴールを睨む。
おしゃべりな奴に限って、それ程、強くない…。
何故なら、相手して来たおしゃべり者は皆、強い能力に酔い、力の使い方を知らないバカ者ばかりだからだ…。
しかし、それはアクマで人間の話、魔族になるとわからない…。
「ーーーーーーーーッ!!」
エリゴールは蛇の槍を振るい、蛇の魔力球を投げ放つ。
「ーーーーーーーッ!!」
ヴァンは剣を振るい、蛇の魔力球を斬り払う。
斬り払われた蛇が、地面一辺に飛び散り、死した身体をピクピク蠢かせる…。
「ーーーーーーーッ!!」
ヴァンの前方の中間距離から、エリゴールは蛇の槍を横に構え、突っ込む。
「ーーーーーーッ!!」
ヴァンは察知し、バックステップで避ける。
「ーーーーーーーッ!!」
エリゴールは突っ込み、蛇の槍をブンブンと振り回す。
「ーーーーーーッ!!」
エリゴールが1つ1つ振るう槍を、ヴァンは冷静に一歩一歩、下がり、空を切らし、避ける。
鬼神化は変身すれば、変身する程、自分の全ての察知力がアップし、音に敏感になる。
戦いには便利だが、神経が張り、自分自身の思い込みが激しくなり、ストレスになる。
「キエーーーーッ!!」
エリゴールは奇声を響かせ、中間距離から槍突きを放つ。
「ーーーーーーッ!!」
ヴァンは左側に跳び、回避。
「ーーーーーーッ!!」
ヴァンを通り過ぎ、エリゴールはギリギリに足を止め、体勢を整えようと、フラフラさせる。
空中闘技場の最端に立たされてしまい、ピンチだ。落下してしまえば黒雲の渦に飲み込まれ、終わりである…。
「じゃあな……」
ヴァンは最端でフラフラさせるエリゴールの背中を蹴飛ばし、突き落とした…。
「ああっーーーーーーッ!!」
エリゴールは絶叫を響かせ、空中闘技場の下の黒雲の巨大渦に吸い込まれていく…。
見た目の割には、弱い奴だった。もう少し、力を見せてくれると思ったのだが、期待外れだ。
さて、勝負は一瞬で着いた…。後は元の場所に戻るのを待つのみだ…。
(いくら、奴でも死んだだろう…)
ヴァンは闘技場の下の黒雲の巨大渦を眺める。
「キャハハハハハハハハハハハッ!!」
ヴァンの後方、奴の不気味な笑い声が響き渡る。
「ーーーーーッ!!」
ヴァンは思わず振り向く…。
「死んだかと思った?。死んでないよ、ホラホラ、このとーり、ピンピンしてる。ざーんねんでしたぁ…」
エリゴールは槍を振り回し、グルグルと闘技場の地面をハイテンションで走り回る。
黒雲の巨大渦に吸い込まれていく直前、空中移動し、ヴァンの後方に回り込み、着地したのだ。
やはり、奴はただ者ではない…。




