第36話 大混乱の町サイモン
「何が起こってるの?、どうして魔界人が暴れているの?…」
表通りにて、ユリアと散歩するチェルシーは、町中の光景に目を疑うのである…。
狂ったように暴れ、兵士に取り押さえられ、額の宝石を紅に輝かせ、鋭く光った瞳の魔界人は、まるでモンスターである…。
「チェルシーさんっ!!」
ユリアは後ろを振り向き、声をあげる。
「ーーーーッ!!」
チェルシーは振り向き、緊迫の様子で額に汗を滴らせ、刃槍を構える。
「フゥー…、フゥー…、フゥー……」
後方に、10人の魔界人が憤りで表情を凄ませ、木材を手に持ち、出現していた。
誰かを暴行したのか、武器の木材は血が滲み、ポタポタと地面に滴らせる。
黒一色に染まった瞳、額から紅の輝きを放ち、怒りに身体を震わせている。
「仕方が無いっ!!」
チェルシーは10人の魔界人の暴徒達に突っ込み、峰打ちで一直線に斬り抜ける。
チェルシーのスピードには風属性の魔力が宿り、常人では見切る事は不可能だ。
「ーーーーーーッ!!」
10人の魔界人の暴徒達は空中に舞い、ドサッと音を響かせ、地面に叩きつけられる。
因みに峰打ちであり、気絶させただけで死んではいない。
「ーーーーーッ!!」
一方、ユリアは苦悶の叫び声を響かせる。
背後から別の暴徒達に取り押さえられ、グイグイと服を引っ張られる…。
「ーーーーーーーッ!!」
チェルシーは一直線に突っ込み、駆け走る。
暴徒の一体に飛び蹴りを与え、1発の衝撃で、他の暴徒達を巻き込み、辺りに吹っ飛ばす。
「ありがとうございます…」
ユリアは服装を整え、立ち上がる。
(…………………)
チェルシーは一辺の光景、ユリアを眺め、沈黙し、何かを思い浮かべていた。
封印していた記憶がグツグツと噴出した…。
ーー思い出した、私の目的が…。と言う言葉が、自身の頭の中から溢れ出し、流れ込む…。
「チェルシーさん?……」
「えっ?、ゴメン。行こう、お姉様、とりあえず基地に避難しよう…」
ユリアの言葉に、チェルシーは我に返る。
そしてユリアの手をガシッと掴み、場から避難し、混乱の町中を、途中の暴徒達を払い退け、一直線に駆け走る…。
道中に充満する黒煙、地面には倒れ伏す一般市民、ガレキ、状況は最悪だ…。
ーーーーー〈エボルド森林〉ーーーー
ーーーまだ、ゼブラとムサシ、ムジカの3人がガープと死闘を繰り広げている中の同時刻、ヴァンは森林の中の公道を歩いていた。
公道を300メートル先には、地下世界アストラルのもう1つの町、リベリウスがあった…。
しかし、リベリウスの町は魔界軍の侵略により、破壊され、一方的虐殺により、失った…。
「何でこう蒸し暑いんだ……」
ヴァンはコートの襟をパタパタと扇ぎ、涼む。
額から汗が滴り、ダルい気分にさせる…。
ダリウス平原の方角から爆音が森林一帯に響き渡り、戦場の緊迫感を漂わせる。
ヴァンの一辺には魔界軍の兵士達が無数に横たわり、地面一辺に衝突跡を残し、黒煙を昇らせ、無惨に死んでいる…。
先程、ヴァンはダリウス平原から逃亡してきた兵士達と交戦し、一方的に片付けていた所だ。
額から汗が滴っているのは、戦いの疲労である。
「アナタが例の侵入者ですか?。銀髪の青いコートの剣士、アナタで間違いないでしょうか?キヒヒヒヒ……」
木の枝の上に座っているのは魔族エリゴール。
ダークな体毛、額には触覚、長い耳。瞳は鋭い獣眼、裂けた口形。
顔面、胸の色は蒼白、腕と脚は細長い為、前屈みの立ち方である。
「何だキサマは?」
ヴァンは木の枝の上に座っているエリゴールに目を向け、鋭く尋ねる。
「私の名前はエリゴール。魔界六人衆の一人である…。よく、やってくれましたね……」
エリゴールは一辺に倒れ伏す兵士達を、不気味な声をあげ、眺める…。
「俺に何の用だ?」
ヴァンは言う。
「魔界軍に楯突く侵入者であるアナタを始末しに来ました、キヒヒヒヒ…」
エリゴールは木の枝から飛び降り、ヴァンに蛇の槍を構え、突きつける…。
「面倒臭い奴だ…。お前も一辺の奴らと同じ様に、思い出にしてやろう…」
ヴァンは剣を抜き、構える。
楯突いた覚えは無い…。向こうから勝手に襲いかかって来たから、返り討ちにしただけだ…。
しかし、相手は魔族、本当の事を説明しても、正直に聞いてくれるとは思えない…。
「キヒヒヒヒ…」
エリゴールは蛇の槍をトントンと地面に突き立てる…。
「ーーーーーーーーッ!!」
その時、一辺の茂みから無数の蛇が沸いて来た。
蛇は一辺の死体をグチュグチュとグロテスクな音を響かせ、貪っている。
肉肌を噛み、噛み穴から潜り、中で貪り、一辺の死体の噛み穴から蛇が無数にはみ出し、返り血を地面に撒き散らす…。
「おやおや、今日は随分な食欲ですね…。この蛇達は私の下僕です、可愛いでしょ?…」
エリゴールは不気味な笑みで尋ねる。
ヴァンを殺したら、蛇達のエサにしてやると思い浮かべ、楽しみにしているからだ…。
「悪い、一匹潰した…」
ヴァンは嘲笑い、挑発。
刃先を一匹の蛇を、ウッカリと突き刺し、ブラブラと振り回し、掲げる。
長い傭兵経験なのか、彼はグロテスクな光景に、表情1つも変えない。
「フヒヒヒヒヒヒ…。戦場を変えましょう、戦場魔導術、悪夢の監獄ッ!!」
蛇を殺され、少し憤りを浮かべたエリゴールは蛇の槍を振り回し、詠唱。
エリゴールの詠唱に、木々に止まる鳥達は嫌な予感をしたのか、バサッと羽音を響かせ、森林から飛び立つのだった…。
「ーーーーーッ!!」
地面に黒の詠唱陣が描かれ、詠唱陣から黒い光の波が地面全域に流れ出し、ヴァンとエリゴールを黒い光の波で一瞬で包み込む…。
黒い光の波が消失し、エリゴールとヴァンは森林から姿を消した…。
ーー〈悪夢の監獄〉ーー
エリゴールとヴァンは、戦場魔導術により、別の場所に空間転移された。
青銅造りの円形闘技場、周域の広さは数百メートル、空気中は紫の霧が漂っている。
円形闘技場自体は浮遊し、周囲を漂うのは無数の岩々、パキンと無数にぶつかり合い、雷が鳴り、轟音を響かせる。
空中闘技場の下は黒の巨大渦、落ちたら問答無用の地獄行きだ…。




