第31話 40年前と同じ景色
「ーーーーーーッ!!」
ムジカは一辺に立ち並ぶ氷の城壁を氷の粒子煙に一変させ、パキンと音を響かせ、消失させる。
平原一帯を漂わす冷霧。
地面に倒れ伏し、残りの銃剣の兵士達の背中から白の熱煙を漂わせ、安否は不明である。
死のイメージに襲われた時の苦痛の叫び声は聞こえず、最悪な状態をイメージを意識してしまう。
「40年前と同じ光景だな…」
不敵に笑うガープは辺りを眺め、ムジカに向かい、歩き進むのである…。
黒の熱圧を全身から漂わせ、まだまだ余裕てある。それに、奴には回復能力があり、ダメージを与えても、時間が経てば自働的に回復するのだ。
「そうだな…。同じ光景で、ケリをつけるのが相応しい…」
ナイフを指した太モモの痛み、額から汗を滴らせ、険しい表情でムジカは詠唱。
左側、右側の地面から詠唱陣を描き、2体の氷の分身を具現化させる。
「ーーーーーッ!!」
2体のムジカの氷の分身は、ガープに突っ込み、草原を駆け走る。
氷の分身の全身から冷煙を漂わせ、冷度、硬度を示し、人が攻撃した位では壊れない…。
むしろ、触った瞬間、凍る程の冷却力があり、攻撃か出来ない。
「少し、リミットを解放してやる…」
ガープは小さく声をあげる。
黒の熱圧を全身から一辺に広げ、白の雷流を漂わせ、パワーアップした…。
ガープの戦闘力は通常の2倍、手強い奴が、さらに手強くなり、面倒臭くなった。
「ーーーーーーッ!!」
1体の氷の分身は中間距離から詠唱し、氷の尖柱をガープの足元に狙いを定め、横一列に一斉隆起。
(…………)
ガープは表情を変えず、沈黙。
一斉隆起した氷の尖柱ガープの目先に届いたと同時に、漂わせる黒い熱圧により、解け落ちる…。
奴は、氷の尖柱が自身の所に届かない事を、見切っていたのだ。
「ーーーーーーーーッ!!」
2体目の氷の分身は、ガープの背後に回り込み、背中をガシッと押さえ、詠唱。
分身は氷の液体化とし、ガープの全身を包む。
「ーーーーーーーーッ!!」
液体化となった氷の分身により、ガープの全身が瞬時に凍結。
「ーーーーーーーッ!!」
凍結化したガープの左右から、ムジカの氷の分身が地面から現出し、氷の槍でガープの身体にガシュと音を響かせ、一斉に突き刺す。
氷の槍がクロス字に刺さり、ガープの身体は、さらに凍結化した…。
しかし、奴に漂わせる黒い熱圧により、全身の氷は徐々に解けていく…。
「ーーーーーーッ!!」
ムジカは突っ込み、凍結化のガープの頭に剣をガシュと突き刺す。
「綺麗な氷のオブジェだな…」
「ーーーーーーーーッ!!」
奴の声に、ムジカは額から汗をにじませ、振り向く。
「以外に簡単に真似出来たな…」
ガープは不敵な笑みを浮かべ、ムジカを見下ろし、刃に黒の熱圧を漂わせ、片手で降り下ろす。
奴は魔族、ムジカの幻影をコピーは容易い…。
幻影を使用し、分身を囮に使い、ムジカの後方に移動したのだ。
昔は出来なかったが、奴もムジカと同じ、成長し、今は出来る。
「ーーーーーーッ!!」
ムジカは剣を上段に構え、受け止めるが、剣ごと一刀両断され、地面に倒れ伏す…。
しかし、倒れ伏したムジカは氷の粒子煙を漂わせ、消失…。つまり、倒れたムジカは分身だ。
「雷の貫通撃っ!!」
ガープの背後、数メートル先からムジカは、雷の光を広く輝かせた刃の剣突きを放つ。
「人間っ!!」
ガープは振り向き、黒い熱圧を漂わせた剣を、ムジカに振るう。
「ーーーーーーーッ!!」
雷の一撃、黒の熱圧が激しくぶつかり合い、円形10メートルの範囲に衝撃波が広がる。
ムジカの渾身の一撃、全身全霊の魔力を刃に注いだつもりだ…。
ここで倒さなければ、敗けに等しい。
期待した部下に、ゼブラとムサシを呼んでこいと頼んだが、間に合わないだろう…。
「後、数センチ、足りなかったな…」
ガープは勝ち誇った様子で笑う。
ムジカの一撃で自身の刃は砕かれ、貫通した雷の刃が自身の胸元に突き刺さっていた。
地面に滴る黒血、刃がガープの心核に到達するまで、数センチ足りなかった。
もし、雷の刃が心核に到達していたら、倒せていた…。
(……………)
ムジカは雷刃をガープの胸元に突き刺したまま、絶望の様子を浮かべ、額から汗をにじませる。
「ーーーーーーッ!!」
ガープは砕かれた剣を投げ捨て、代わりの剣を黒炎で造形化させ、ムジカに向け、剣を降り下ろす。
「ーーーーーーーッ!!」
ムジカの胸に、ガープの剣撃が与えられ、10メートル後方に吹っ飛ぶ。
一回、二回と転び、うつ伏せの体勢で地面に叩きつけられる…。
ムジカの手元から飛んだ剣が、地面にグサリと突き刺さり、刃の輝きがガープを映し、照らす。
吹き付ける霧が一帯に漂わせ、静寂な土壇場を物語る…。
「残念だったな…。40年前の決着は、俺に軍配が上がったようだ…」
ガープはうつ伏せに倒れているムジカに威圧感を漂わせ、ゆっくりと歩き進む。
刺された傷口は再生能力により、みるみると回復し、塞いでいく…。
黒の熱圧を漂わせた剣を掲げ、歩き進むガープの姿は、ムジカの視界から伺えば、絶望である。
(クソッ…。死んでなるものか…)
ムジカは諦めず、立ち上がろうとするが、ダメージの影響により、身体をフラつかせ、へたり込む。
ムジカの胸に、黒の十文字の剣傷が刻み込まれ、灼熱の麻痺が全身を駆け巡る。
「あばよ…。貴様との戦い、楽しめたぜ…」
ガープは立ち止まり、剣を掲げ、詠唱。
剣先から黒炎の魔力球を具現化させ、ムジカにトドメの一撃を放つ。
(動け、俺の身体っ!!。動け、動けっ!!)
意識を保ち、目に映り、迫り来る黒炎の魔力球に、ムジカは心の中で叫び、もがく。
両手、両足、灼熱の麻痺により、感覚が働かず、動かない…。
「白虎氷結斬ッ!!」
その時、後方から氷の斬撃が放たれ、ムジカの横を高速で通過し、黒炎の魔力球を両断。
二つに両断された黒炎の魔力球は消滅し、粒子煙として還元された。
瀕死のムジカの前に立ち、熱圧を漂わせる背中を見せるのは二人の戦士の姿が目に映る…。
ゼブラの変身姿である鬼神化フェニックス、そして隣に立つムサシが、駆けつける。
「遅くなった…。生きているかムジカさん?」
鬼神化フェニックスは炎剣を構える。
「ここは、私達にお任せを…」
ムサシはクールな表情を浮かべ、氷刀を構え、後ろのムジカに告げる。
黒炎の魔力球を二つに両断した白虎氷結斬はムサシの技である。
(二人に任せるか…。頼んだぞ…)
ムジカはフラフラになりつつ、下がる。
これから激しい戦いになると、感じた為、後方に移動し、自身の回復に専念する…。
「おい、暑苦しいぞ。もう少し離れろ…」
ムサシは面倒臭そうに口を開き、声をあげる。
額、袖無しの胴着の両肩から汗をにじませ、両頬を紅く染める…。
「俺の鬼神化は火属性だし、仕方ないだろ…」
ムサシの意見とは反対に、鬼神化フェニックスは全身に紅の熱圧を漂わせる。
「フン、どうだか…。私に汗をにじませて、変な事を想像しているのだろ、貴様は?…」
「誰がそんな事をっ!!。お前の汗をかいた姿に、欲情しねぇよっ!!」
鬼神化フェニックスはムサシに目を向ける。
「何っ?。貴様にそれを言われると、何か腹が立つ、勝負しろっ!!」
ムサシはムキなり、鬼神化フェニックスに氷刀を突きつけ、構える。
氷属性の者、火属性の者とは何か相性が悪いらしい。二人の息はガタガタである…。
(……………………)
果たして大丈夫だろうか…。と、ムジカは後方から心配な様子で見守る…。
「ーーーーーーッ!!」
ガープは鬼神化フェニックスとムサシの二人が立つ場所に狙いを定め、黒の衝撃波が放ち、爆煙が広げる。
(バカ共が……)
ムジカは頭を抱え、苦い表情を浮かべる。
「痴話喧嘩は、その辺にしておけ…。戦う気がないなら、帰れ…」
ガープは剣を片手に構え、真面目な声をあげる。




