第27話 絶望打破の作戦会議
ーーーー〈表廊下〉ーーーー
砦の屋内の壁際には薄暗いオレンジの明かりで灯された松明がパキパキと燃え、独特な雰囲気を漂わせていた…。
ムジカの後を追い、ゼブラとムサシは砦内の廊下を歩いていた。
岩造りの壁のスキマから蒸し暑い蒸気が吹き付け、廊下の中を充満し、ハエがブンブンと飛び回る。
次々と通り過ぎる部屋。屋内の広場に収まらなかった負傷兵の悲痛な叫び声が、一辺の部屋の中から聞こえるが、気にするヒマはない。
入りきらなかった負傷兵は、壁際、地面に放置され、精神崩壊で寝ている者や、ブルブルと身を震わせている者、死んでるか生きているかわからない者が目立っている。
「戦いの最前線だからな、これが当たり前の光景だ…。あまり気にするな…」
ムジカは言う。
「ハイ…」
壮絶な光景に驚愕し、ゼブラとムサシは緊張感を漂わせ、引きつった返事をするしか出来ない。
ガチャ…
廊下の奥の部屋は会議室だ。
3人は緊張感を漂わせ、入る…。
中央には会議用テーブル 、数多の上等身分の兵士達が椅子に座り、ムジカ達を不気味に睨む。
皆は戦いにより、負傷した場所に包帯を巻いており、疲労困憊と気分消失し、会議室の状況と、全体の士気が悪い。
「遅くなってすまなかった。増援に来たから安心しろ、今から反撃の作戦を会議する。喜べみんな、心強い助っ人を連れてきた。ムサシと、ミュードロウの予言により、ユーギガノスに選ばれし戦士のゼブラだ…」
椅子に腰掛け、ムジカは沈んだ兵士達を励まそうと、意気揚々に声をあげる。
(・・・・・・・)
ムジカの意気揚々とした声に、上等兵士達は顔をうつ向かせ、沈黙。
「どうした、元気が無いぞ…」
ムジカは言う。すると…。
「無理だ…」
1人の兵士が弱々しく発言。
「おい、どうした?」
兵士の発言に反応し、ムジカは尋ねる。
ドンッ!!
「もう、無理なんだよっ、奴らと戦うのがっ!!。あいつら急に勢力を増大して、こちらの兵力を上回る兵力で進軍してきたんだ。奴ら、長い間、手加減していたんだ。アレが奴らの軍事力なんだ、もう、勝てない…。あいつらは言ったんだ、四時間後だけ待つ、それまで降伏しろと…。そうすれば、命を助けると…」
悔し涙を流し、会議用テーブルを叩く兵士。
全員の死にたくない意見、降伏すれば楽になると言う意見が、士気の悪さ、状況の悪さの原因を引き立てている…。
敗戦を突きつけられたのも、同然である。
「それで、敗戦を認め、降伏しろと?…」
兵士達の臆病な様子に、ムジカは怒りの表情を浮かべる。会議室に、緊張感がピリピリと漂う。
(・・・・・・・)
上等兵士達はうつ向き、沈黙。
気持ちが死に、疲労困憊と敗戦濃厚な状況により、戦意は喪失している。
情けない様子に、ムジカは表情を凄ませ、会議用テーブルをドンッと叩ぎ、立ち上がる。
「貴様ら、それでもユーギガノスの子孫かっ!!、それでも軍人かっ!!、長い間、戦い、求めてきた答えがソレかっ!!。リベリウスの民を一方的に皆殺しにした奴らに降伏だと、貴様らは死んでいったリベリウスの民の意思を、踏みにじると言うのかっ!!」
ムジカは怒鳴り散らす。
ムジカの怒鳴り声に、ゼブラとムサシは沈黙。
(・・・・・・)
ムジカの言葉に、何も言えない上等兵士達。
情けないのはわかっている。戦うか、降伏か、今、どうすれば良いのか、わからないのだ。
ムジカは現状の情けない様子に、身をプルプルと怒りに震わせ、口を開く…。
「出ていけ…。戦う意志のある者は残り、戦う意志のない者は、直ちに立ち去れ…」
ムジカは言った。
ガチャ…
一人づつ、一人づつ、兵士は沈黙したまま、会議室から出ていく…。
ムジカは沈黙し、会議室から次々と出ていく兵士達を、背中超しで見送る。
しかし、引き止めたりはしない。彼らにも人生がある、生きたいと言う気持ちはわかるからだ。
それに、戦意が死んだ兵士では、戦場では使い物にならない。
ーーーーそして。
会議室に残ったのは15名の兵士達。
言ってはイケナイが、笑えない位、酷い…。
(さて、どうした事か…)
会議室を眺め、頭を抱えるムジカ。
今、戦える者に絞ったのは良いが、反撃の戦を仕掛けるのに、あまりにも少ない。
肝心の増援部隊も救護活動に集中し、何時に終わるかわからない。
残された時間は三時間。それまでに、答えを見つけなければならない。ちなみに、降伏は論外だ。
会議室は不穏な空気を漂わせ、ムジカと15名の兵士達は頭を抱え、悩む…。
「どうするゼブラ?」
ムサシはゼブラに尋ねる。
「何がだ?」
ゼブラはムサシに目を向ける。
「戦場はテストのように、甘くない。お前のように、テスト中、ムジカさんの幻影に振り回され、ギリギリ合格したが、大丈夫か?」
「戦いは、敵を倒すだけじゃないってムジカさんが言っていた。戦場をどう攻略し、そして制圧するのが大事だと、俺は教えてもらった…」
ゼブラは言った。
ムジカの耳に、ゼブラの言葉が入り込む…。
(敵を倒すだけが、戦争じゃない。そうか、その手があったか…)
ゼブラの言葉に、ムジカは何かを閃いた。
士気の悪い状況に飲まれ、思わず今の兵力で敵を倒す作戦に意識的になっていた。
全ての敵を倒すのは不可能だが、しかし、敵の支配域を策次第では制圧は可能だ。
「どうしますムジカさん…」
兵士の1人が心配な様子で尋ねる。
「ムサシ、ゼブラ。お前達は、部屋の外で待機。この戦争は、ここにいる15人の兵士で実行する」
ムジカは言った。
「えっ。待機って、俺達は?…」
ゼブラは困惑。
「今は説明している時間はない。いいから、砦の中で待機だ…」
ムジカは言う。
ゼブラとムサシは、ムジカに言われた通り、会議室から追い出される形で、退室した。
何を考えているのだろう、アノ人は…。と、いまいち納得出来ないムサシである。
会議用テーブルに、ムジカは大玉の魔力水晶をトンッと、置き、起動させる。
魔力水晶の名称は、アンドラス・アイ。古代ユーギガノスが使用していた立体戦況図である。
名称の由来は、アンドラスと言う名の魔族の眼をモデルにし、どんな所に隠れても、逃げられない。と、言う事を意味し、古代ユーギガノス時代の悪魔崇拝者が名付けた説はあるが、本当かどうかわからない。
「まず、我が軍の第一の目的は、敵に奪われた中間防衛ラインの制圧だ。最初は、アロウン砦から進軍し、そして制圧する」
ムジカは言う。
アンドラス・アイの立体映像が、ダリウス平原の立体地図を映し出し、説明。
魔界軍はダリウス平原のエボルド森林側に身を潜め、アロウン砦の様子を監視し、様子を伺っている。立体映像に映る奴らの姿は、降伏を期待し、不敵な様子である。
「15人で、中間防衛ラインの制圧するのですか?。魔界軍は何千人の兵力があります。15人で、一体どうするつもりですか?。銃剣も、15丁しかないのですよ…」
1人の兵士が不穏に尋ねる。
案の定、兵士達は敵を倒し、制圧すると思っているらしい。
「簡単だ。隊列を組み、進軍するだけだ。指示を出したら一斉に銃を発泡する。それだけだ…」
ムジカはキッパリと言った。
「そんな、納得出来ませんっ!!。我々に死ねと言うのですかっ!!」
ムジカの答えに、兵士は文句。
15人の兵力に対し、何千人の兵力を備える魔界軍に、交戦は自殺行為だ。
敵から与えられたの唯一の救済を放棄し、待ち受けるのはリベリウスの悪夢の再来とも言える一方的虐殺だ。そして、地下世界アストラルは、魔界軍に支配される。
「仮に作戦が成功したとしても、制圧後の維持が出来るのかが問題です。また、敵が態勢を立て直し、進行してきたら、砦は人溜まりもありません…」
次の兵士は表情を不信に曇らせ、主張。
ムジカの現実離れした作戦に、残りの兵士達はブーイングを会議室に響かせる。
「誰が、敵と交戦して制圧すると言った?」
ムジカは不敵な様子を浮かべ、口を開く。
(えっ・・・・・・・)
ムジカの言葉に、会議室に響き渡るブーイングが止み、兵士達は沈黙。
「タイムリミットは二時間か…。とりあえず、皆が覚えられるように説明する。しっかり段取りを覚えておくんだ。1つのミスが、敗戦に繋がる。それ位、重要な事だ…」
ムジカは言った。
作戦に気持ちを徹し、渋い様子を浮かべている。
何か考えがあるのか、口振りは頼もしい…。
ーーー会議室は緊張感を漂わせ、皆は全神経を集中させ、ムジカの言葉を、記憶する。




