第14話 地下世界アストラル
礼拝堂の一帯は静寂かつ凄まじい光景だ。床中には肉塊が転がり、血が滴っている。戦いに慣れない者は腰を抜かし、嘔吐するだろう。
肉塊には無数のウジ虫がグジュグジュと噛みきる音を響かせ、貪っている。
「はぁ~~~~。怖かったぁ~~~~」
ヴァンが礼拝堂から立ち去ると同時に、一気に緊迫が解けたユリアは地面にへたりこむ。
「何であんな無茶を?」
ゼブラは言う。
「守ってもらうばかりじゃ嫌なんです。私だってアナタを守る事が出来るって証明したかったんです。けど、怖かった…」
ユリアは頬を紅く染め、震える口調で答えた。
「君って奴は…。立てるか?」
感謝の笑みを浮かべ、ゼブラは手を差しのべる。
「ありがとう…」
ユリアはゼブラの手を掴み、立ち上がる…。しかし、凄まじい状況の恐怖心は誤魔化せず、足は震えたままだ。
それが普通、何にも感じない奴は異常だ…。
二人は礼拝堂を退出し、廃教会を後にした。
二人は決心した。他人の頼み事は無闇に受けるモノじゃない。下手に受けると、事件に巻き込まれ、危ない…。
ーーーー〈カシム荒野方面街道〉ーーーー
二人は北の街道を歩いていた。
両端に立ち並ぶ樹、生い茂る緑。一辺から小鳥の鳴き声が響き渡り、昼下がりの陽光が地面を照らし、状況は和やかだ…。
しかし、追っ手が何処から襲ってくるかわからない為、油断は出来ない。
ーーーー廃教会の件によりユリアは気分が悪い。貧血を引き起こし、樹影で身体を休めていた。
「大丈夫か?」
ゼブラは心配し、駆け寄る。
「…少し疲れただけです」
ユリアは様子とは裏腹に怪しい返事をし、立ち上がる。頬を紅く染め、息を切らしている。
「ホラ…」
ゼブラはしゃがみ、ユリアに背を向ける。
おんぶだ。しかし、ユリアは遠慮し、頭を横にブンブンと振る。
「遠慮するなって…」
ゼブラは親切な笑みを浮かべる。
「それじゃ遠慮なく…」と、ユリアはゼブラの背中に乗り、持たれる。
ゼブラはユリアをオンブし、歩き進む。
両端には緑の樹が立ち並び、渇いた地面が続いている。
ーーーー数十分後。
出入り口から目に映るのは絶景に広がる平地、一面の青い空。長い道が一直線に伸びている。
平地から吹き付ける微風は、汗を滲ます二人の額を冷やし、乾かせる。
ーーーー〈廃墟の町〉ーーーー
長い道を歩いた先に廃墟の町にたどり着いた。
一辺は半壊状態の廃墟が建ち並び、建物から緑の苔が生い茂る…。人が離れて、何百年も経過している状態だ。かつて栄えてた過去の町の光景は、吹き付ける砂風で看板をカタカタと揺らし、淋しい雰囲気を漂わせる。
「ここがフェイトさんが言っていた廃墟の町…。地下世界アストラルの入り口ってどこだ?」
ゼブラは一辺を観察。
地下世界の入り口らしき所は見当たらない。目に映るのは廃墟、渇いた地面、吹き付ける砂風…。
二人は町の廃墟の表道を歩いていた。地面に転がるのはガレキ、獣骨。よく動物がここで静かに息を引き取る死に場所になっている。
「何も見当たりませんね…」
ユリアは辺りを見回し、口を開く。
「場所を間違えたのか…。それとも、どっかで見落したのか…」
ゼブラは辿って来た道を思い出し、考える。
「広い所ですね、国内にこんな所があるなんて初めて知りました。一体何で廃墟になのかしら?」
辺りの廃墟に目を配り、何気なく呟く。
「何らかの理由で過疎化したのだろう。建物の様子を見ると、かなり昔だな…」
ゼブラは言う。
ゴゴゴゴゴッ……。
突然の地震。一帯は揺れ、地面から砂風が舞い上がる。揺れる建物からパラパラと粉塵が落ち、緊迫を漂わせる…。
「きゃあっ!?」
ユリアは足元を崩し、ゼブラに倒れ込む。
「大丈夫か?」
ゼブラは揺れる足元を保ち、倒れ込むユリアを抱き支える。建物の中に隠れたいが、脆くなっているから逆に危険である。
しかし地震の揺れはそれ程、強くない…。
「ーーーーッ!!」
そのとき、揺れる地面から白い光が展開。
二人は声をあげる暇すら与えられず、白い光一瞬にして二人を飲み込む…。
白い光が晴れた後、ゼブラとユリアは廃墟の町から姿を消した。廃墟の町は何事も無かったように、静けさを漂わせる。
ーーーー〈地下世界アストラル〉ーーー
広域な森林地帯、上空域には灰色の雲が広がり、雷流が渇いた音を響かせ、行き渡っている。
上空域の雲は、地底雲。地下に流れるマグマが熱の蒸気と化し、灰色の雲を作っている。
ーーー光に包まれ、ゼブラとユリアが転移。
場所は橋の真ん中、前方には邪悪な輝きが蛇のように蠢き、後方には森林地帯が広がっている。
橋の下は暗闇が広がり、奈落。落ちたら言うまでもない……。
「ここは?…」
ゼブラは辺りを見回す。明るかった空が曇りになり、見たこともない景色だ。
「もしかして、ここが地下世界アストラル?」
ユリアは辺りを眺める……。
「多分な。足があるし、あの世じゃなさそうだ」
ゼブラは足を確認。
ーーー一応、生きてる。死んで会える両親が出てこないと言う事は、冥界ではないようだ……。
「ーーーーーーッ!!」
そのとき、前方から渇いた足音を響かせ、向かってくる。数は一体、二体、いや、それ以上だ。
二人は緊迫感を滲ませ、前方に視線を向ける。
ーーーそして、足音の正体達は姿を現した。
ゼブラは警戒感を漂わせ、ユリアを背後に移動させ、守る。
グルルルルルッ……
逆立つ黒色の体毛、強靭な体格の軍馬。
数は十頭、軍馬に乗っているのは漆黒の軍服を身に着用した兵士達だ。
一体の兵士は口を開く。
「貴様ら何者だ。この橋は我が魔界軍の管轄下、直ぐに立ち去れっ!!」
兵士は高圧的な口調で二人を睨む。
なんか恐そうな奴らだ……。
「魔界軍?」
ゼブラは知らない様子。
「ここは地下世界アストラル。我々はこの地下世界を支配する義勇軍と対立している。この橋は魔界側と向こう側を繋ぐ橋だ」
「分かった。立ち去ればいいんだろ?」
ゼブラは素直に了承。
コイツらに、変な質問や会話などしたら、面倒臭い騒動に巻き込まれそうだからだ。
「そうだ。早く立ち去れ…」
「行こうユリア…」
「うんっ」
ユリアは返事。
ーーー二人は後方を向き、橋を歩いて行く
地下世界アストラルの事を質問しようと思ったが、そんな状況ではない。
「おいっ。あの方角は……」
数名の兵士はヒソヒソと会話。
二人が進方角に疑惑の表情を浮かばせ、隊長兵は再度、口を開く……。
「待てっ!!。その方向だと、貴様ら義勇軍の民だな…」
「えっ?……」
兵士の言葉に、ゼブラは思わず立ち止まる。
嫌な予感が、二人に漂わせる…。
「そいつらを捕まえろっ!!。捕らえて奴らの情報を吐かせろっ!!」
兵士の指揮と同時に、軍馬は走り出す。
「嘘だろっ、逃げるぞっ!!」
ゼブラはユリアの手を掴み、全力で駆け走る。
捕まったら色々される。知らない情報を吐かせる為、怖い尋問、拷問が待っている。
奴らの口振りから伺うと、エグい事をしてきそうだ。だから捕まる訳にはいかない。
ーーーーー〈森林地帯〉ーーーー
「クソッ。しつこい奴らだっ!!」
ゼブラはユリアの手を掴み、全力で駆け走っていた。一帯には鬱蒼な木々が並び、蒸気が地面から蒸し暑く漂っている。
数十メートル後方から追いかけてくる魔界軍の騎馬隊。相手は騎馬隊、スピードが違う為、不利。もう少しで追いつかれる。そんな状況だ…。
「待たんかっ!!」
魔界軍の兵士は雄叫びを響かせ、忠告。
魔界軍の騎馬隊は剣を抜き、捕獲か、始末か、わかない状況だ。
そんな物騒に剣を振っている奴らに、普通の人は待たない…。




