第13話 ヴァン・ア・フール
五体のオルテガの分身達は一斉に大剣を振るう。
「ーーーーーッ!!」
鬼神化フェニックスは一斉に振るわれる分身達の大剣を、迷い無き決意のスピードで回避し、潜り抜ける。
「来い、人間っ!!」
大剣をドシッと構えるオルテガは、中間距離から突っ込む鬼神化フェニックスを迎え立ち、大剣を一気に振り下ろす。
「孔雀鳳凰剣!!」
鬼神化フェニックスは俊足のスピードで突っ込み、燃え盛る炎剣を横に一気に振るい、剣技を叫ぶ。
「ーーーーーーッ!!」
両者の刃は激しくぶつかり合い、刃と刃が衝突し合う衝撃波が部屋一帯に広がり、砂煙が激しく舞い上がる。
そして、一帯に舞い上がる砂煙は晴れる。
「見事だ。人間…」
オルテガは後退し、誇らしく口を開く。
腹部に紅炎の斬撃跡。大剣の刃身部は熱断され、熔けた鉄液がポトリと地面に滴る。
「ハァ、ハァ、ハァ…」
オルテガに強烈な一撃を与え、鬼神化フェニックスは息を切らし、炎剣を下段に下ろす。
「100年前、我を封印した人間達でさえ自身の体を傷をつけられなかった。我に一撃を与えたのはお前が始めてだ…」
オルテガはゼブラを讃える。
「約束通り、俺とユリアを解放してもらおうか?」
ゼブラは鬼神化を解き、迷い無き瞳でオルテガを睨み、勝利の約束を要求。
「いい目だ。戦いの中、お前は何かを克服したようだな。いいだろう」
オルテガは満足の笑みを浮かべる。
左手を掲げ、指をパチンと鳴らす。同時に部屋の出入り口を阻む壁は消え、地上の礼拝堂で待機する傭兵団の精神コントロールを解いた。
すると、足元から黒の粒子煙が発生し、オルテガの下半身を包み込む。
「我は故郷の魔界に帰る。お前のような人間と刃を交えた事を誇りに思う。人間よ、名を何と申す?」
オルテガは最後に尋ねる。
「ゼブラ・ハルシオン。名前を聞くって事は、何かくれるのか?」
ゼブラは変に期待してしまう。
「あげる物はないが、アドバイスをやろう。お前の能力の鬼神化、あれは恐ろしい能力だ。一歩間違えば、辺りを破壊し、大事な物を失う。鬼神を恐れるのは間違っていない。しかし、鬼神は自分自身、己を受け入れ、戦う意味をしっかり思い浮かべれば、力は応える。今日の戦いみたいにな…。では、サラバだ」
悪魔のオルテガはアドバイスを告げた。
同時に黒の粒子煙が全身を包み、消失。こうしてオルテガは、封印の間から故郷の魔界に帰った。
「戦う意味か…。悪魔のクセにいい奴だな」
ゼブラの気持ちは吹っ切れ、笑みがこぼれる。
オルテガに感謝しよう、お陰で鬼神化の恐怖を克服出来たのだから…。
役目は消滅した。ゼブラは急いで地上の礼拝堂に向かい、駆け走るのだった。
ーーーーー〈礼拝堂〉ーーーー
ユリアと傭兵団は静かに待機。オルテガの精神コントロールが解け、殺される心配はない。
ユリアは座席に腰掛け、呑気に昼寝。一方の傭兵団は礼拝堂の端で輪に並び、ヒソヒソと話し合う。
「あの娘、可愛くねぇか?」
一体の傭兵はユリアに目を向け、ニヤリと笑みを浮かべる。
「ヒヒヒッ。若い娘は何年振りかな、気持ちが疼いてくる」
二体目の傭兵は狂喜、腰からナイフを取り出す。
オルテガは確かに精神コントロールは解いた。しかし、傭兵団の本来の素性は残虐だ。殺人、強盗、強姦、口では言えない犯罪を生業とするゴロツキの傭兵団だ。ゼブラと接触した頃は、オルテガの精神コントロールにより、静かな物腰だった。
オルテガの精神コントロールが解けた事により、本来の素性に戻った。
「ヤバイ。俺、ガマン出来ねぇ…」
欲情した傭兵の一人が立ち上がり、座席で寝ているユリアに歩き進む。残りの傭兵達も、忍び足で後に続く。
忍び寄る傭兵団達の影は、寝息で身体を揺らすユリアを照らし、一斉に手を伸ばす…。
「ーーーーーッ!!」
出入り口の扉をドンッと蹴り、入ってきたのは1人の剣士。銀の長髪、黒革の長袖服にズボン、ブーツ。蒼色の厚毛のコート、鋭い瞳からは危険な雰囲気を漂わしている。
名前はヴァン・ア・フール…。
ゴロツキ達は動きを止め、ヴァンを睨む。
ゴロツキの1人がヴァンに気安く近寄り、イラついた口を開く。
「何だテメェ、俺達の楽しみをジャマするんじゃねぇよ。とっと帰んな、じゃねぇと…」
「ーーーーーッ!!」
ヴァンは鞘から素早くロングソードを抜き、ゴロツキのの言葉を首と共に、切り伏せた。
ドシャと音を響かせ、首が床に転がる…。首を切られた身体は力無く倒れ、床に血を滴らせる。
「キサマッ!!」
同士が殺され、ゴロツキ達は殺気に満ちた様子を浮かべ、一斉に剣を構える。
楽しみをジャマされたので、怒り心頭だ。
ヴァンはロングソードを片手で構え、歩き進む。
「ーーーーーッ!!」
ゴロツキ達は厳つい雄叫びをあげ、中間距離から狙いを定め、ゴロツキ達は剣を振るう。
一体、二体と、ヴァンは上体を右、左に動かし、ゴロツキ達が振るう剣を避ける。
次、三体目のゴロツキは剣を上段で振りかぶり、突っ込む。
「ーーーーッ!!」
血飛沫が宙を舞う。
ヴァンは三体目のゴロツキの下腹に狙いを定め、剣を横に振るう。
三体目のゴロツキは腹部から両断され、ゴトリと音を響かせ、地面に落ちる。
四体目のゴロツキは剣を横に構え、突っ込む。
四体目ゴロツキの後方からは五体目のゴロツキが身を構えている。
「ーーーーーッ!!」
四体目のゴロツキの剣を、ヴァンは上体を右に動かし、避ける。
同時に五体目のゴロツキが中間距離から剣を横に振るう。
「ーーーーーッ!!」
ヴァンは身軽な動きで飛脚、相手の頭上を跳び越える。六体目のゴロツキの正面に着地、剣突き打ち込む。
「ぐぱぁ…」
ゴロツキは顔面にヴァンの剣突きが刺さり、ピクピクと身体を震わせる。変な叫び声を漏らし、崩れる。
ヴァンは七体目のゴロツキに突っ込み、中間距離から剣を振るう。
ギィン
七体目のゴロツキはヴァンの剣撃を受け止めるが、剣圧に負け、後退。
「ーーーーーッ!!」
ヴァンは体勢を崩した所に剣を振り下ろし、七体目のゴロツキを一刀両断。
ヴァンは振り向き、冷静な口を開く…。
「さて…。後はキサマらだけだ」
ヴァンは剣を構える。三体は死に、残りは四体。
「構うな、たかが一人だ。すぐに倒せる!!」
1人のゴロツキを先頭に、残りの奴らは一斉に斬りかかる。同時にヴァンは突っ込む。
「ーーーーーッ!!」
一体目のゴロツキはヴァンと刃をぶつけ合う。
しかし、剣圧に負け、体勢を崩す。
「ーーーーーーッ!!」
一体目ゴロツキが体勢を崩した所に、ヴァンは剣を振るい、斬首。
左側から二体目のゴロツキが上段に構え、ヴァンに斬りかかる。
ギィン
ヴァンは二体目のゴロツキの下腹に狙いを定め、中間距離から斬り抜ける。
二体目のゴロツキは下腹、口から血を吹き出し、倒れ伏す。礼拝堂一帯は血の海と化し、地面に肉塊が転がる。
奴には勝てない…。
「ひっ…ひぃーーーー!!」
三体目のゴロツキはヴァンに恐れをなし、廃教会から逃げ去る。
楽しみより、自分の命が大事らしい。
四体目のゴロツキは、腰が砕け、ガクガク震えている。返り血で染まったヴァンの表情は恐ろしく、蒼い悪魔だ。
「ひゃあっ!!」
座席で寝ていたユリアは目を覚まし、礼拝堂の状況に思わず声をあげた。
同時にヴァンは、ユリアに目を移し、歩き進む。 この隙にゴロツキは震える足を無理矢理に立たせ、礼拝堂から逃げ去る。
ユリアは腰が砕け、戦慄で力が出ない下半身を引きずりながら後退。
ヴァンは剣を片手持ち、ユリアを追いかける。
ヤバイ、殺される…。
「ハァッ!!」
次の瞬間、地下階段から駆け登り、ゼブラが礼拝堂に現れる。そしてヴァンに斬りかかる。
ギィン
ヴァンは受け止める。そして中間距離まで跳び下がり、体勢を立て直す。
「お前は何だっ?」
ゼブラは真剣な表情を浮かべ、剣を構える…。
礼拝堂一帯は血臭か漂い、地面に転がる肉塊の辺りを小虫が飛び回る。
「貴様がゼブラ・ハルシオンか?」
ヴァンは冷静な様子で口を開く。
「そうだが?」と、ゼブラは正直に答える。
「…俺の名はヴァン・ア・フール。ユーギガノスの剣と共に、消えてもらう」
ヴァンは刃を煌めかせ、剣を両手で構える。
「奴らの一味か…」
ゼブラは憤る表情を浮かべ、ヴァンを睨む。
ユーギガノスの剣と選ばれし者を消す目的なら、奴は故郷の村を壊滅させた一味の1人。憎しみが自身の胸の内から殺気を滲み出す…。
二人は中間距離から剣を構え、睨み合う。
「ーーーーーッ!!」
何を思ったのか、ユリアはゼブラの前に立ち、盾になる。
「何をしているユリア、下るんだっ!!」
ゼブラは下がるように促す。
村を壊滅させた一味だ。人が盾になった所で攻撃を止めるとは思えない。
ユリアは両腕を広げ、ヴァンを睨む。下手に出れば殺される緊迫感がゼブラに張り詰める…。
「どくがいい。俺は小娘でも容赦しない」
ヴァンは言う。
しかし、ユリアは動かない。真剣な表情を浮かべ、ヴァンを睨む。
「ならば切り捨てるのみ…」と、ヴァンは剣を振りかぶり、煌めく刃をユリアに狙いを定める。
一方のゼブラは、「下がれっ!!」と、必死に促し続けている。ゼブラの警告ですら、ユリアは動かない。
「ーーーーーッ!!」
ユリアの目を見たら、ヴァンは左手で頭を押さえ、苦悶の表情を浮かべ、フラッシュバック。
ーーー2年前の過去。
ある町の広場一辺は死体が転がり、1人の女性が仰向けで倒れていた。
意識を閉ざす女性の上体を起こし、必死に呼び叫ぶ蒼毛のコートの剣士。しかし、女性の背中に剣が刺さり、酷い出血が流れ、地面を滴らせている。
蒼毛のコートの剣士は空に向け、己の無力を呪い、涙の絶叫。
2年前の過去を思い出し、ヴァンは苦しむ。
「オイ、大丈夫か?」
ゼブラは心配な様子でヴァンに駆け寄る。
ゼブラの言葉に反応し、苦しむヴァンは冷や汗を額から流し、立ち上がる。
「命拾いしたな…。次こそは…」
ヴァンは頭を押さえ、礼拝堂のドアを蹴り開け、逃げ去る。文字通り、命拾いした…。




